第36話 リモート大回り乗車(18)小山-下館
総裁 小田林、結城、東結城と列車は進みます。線路はずーっとまっすぐで途中は草がトンネルのように生い茂っていて、砂利のところも草ボーボー。駅も片側だけの屋根のないホームに簡易改札機に自動販売機が立ってるだけだったりします。行き違いのできる駅はホーム2本あってもほんとなら側線あったんだろうなーと思うところが線路を剥がされた砂利の空き地になっていたり。駅前から民家の住宅地だったり、ほんとローカル線な感じです。
川島の手前で長い鉄橋で鬼怒川を渡り、またそういうローカルムードの玉戸につきます。
でもその次は大きめの駅、下館です。真岡鐵道と関東鉄道常総線が乗り入れる大きめの駅です。
ユリ 真岡鐵道はSL走ってるのよね。
総裁 そう。SLもおか号。
ユリ それにSLやEF81や北斗星客車保存したヒロサワシティも下館の近くなんだよね! 駅からタクシーで10分かかるらしいけど。
総裁 そう。著者さんもそこに行ったことがある。もう行くことはないのかもしれないけど。
忍 そうね……。
香子 なにがあったんですか?
忍 著者さん、つらい別れがあったの。そのヒロサワシティを訪れたかつての仲間との。
香子 そうなんですか……なんでまた。
忍 いろいろあったのよ。話せば長くなるようなことが。
香子 仲直りはできないんですか?
忍 もう、ああなっては、無理ね。
恋海 でも、別れってのは悪いばかりではないのよ。
思わぬことを言う恋海に、忍と総裁は息をのんだ。
恋海 著者さんがどういう関係でどういう別れだったかはわからないけれど、永遠の仲なんてそうそうない。
私の親、離婚したけど、離婚してくれてよかったと思ってる。父も母も正直未熟なメンタリティだったし。それで毎日けんかになって。幼い私は毎日泣いて、私がいなきゃよかったのかな、ってつらかった。でも、別れた後、父は面会のたびに強くなっていったし、母も私をますます深く愛してくれた。うちの父と母は、別れる前は互いに寄りかかる関係だった。まあそれでも幸せだったんだけど。北海道に北斗星やカシオペアで旅行もしたし。でも震災のあと、父は仕事が忙しくて母と生活がずれていって、なんとか会える日はけんかになった。父はイライラしてるし、母はやたらおびえて、そのうち、たった少しの買い物の精算をするのでさえ二人は時間かかってヘトヘトになってた。もうそれじゃ生活できないわよね。
でも二人は私のこと心配して離婚を避けようと必死だった。だけどそのせいでますますけんかも増え、二人はボロボロになっていった。
だから私は言ったの。
「お父さんもお母さんも、私のためのつもりでなんで私の前でけんかするの?」
って。
普通はいえないわよね、こんなこと。私もずっといえなかった。でも、幸い通ってた塾に私は逃げられたし、そこでいろんな本を読むことができた。今のYouTuberになることもそこで学んで身につけた。つらい日々だったけど、YouTube配信と本が私を救ってくれてた。
そこで私はその言葉を言えた。
お父さんとお母さんは、私のその言葉にはっとして、その次の日、離婚届を書いて、家を整理して、お父さんは荷物まとめて出て行った。もう暖かだった親子の家ではなくなったけど、私は覚悟できてたし、それより毎日けんかで心がボロボロになってるお父さんとお母さんを見なくてすむのがありがたかった。
世の中の夫婦の多くは自分の未熟さを埋めてくれる相手を求めてるらしいけど、それで寄りかかった関係はちょっとバランスを崩せばすぐ破綻する。かといって寄りかからずに自分だけで生きていけるなら結婚なんて必要ないし、そんな強い人間はそうそういないと思う。
でもうちの父母は、なにを本当に守るべきか、なにが本当に大事なのかを気づいてくれた。そして自分の未熟さを直視していくことを選んでくれた。
離婚した二人だけど、私は父も母も、今は誇りに思ってるの。二人は立派に一人前になれたと思う。つらくないわけがないけれど、二人はそれよりも大事なことを理解してくれたんだから。
だから、あとは私は私のことをしっかりするしかないなー、って。
恋海はそういうと、てへっ、こんなときに自分語りしちゃった、と舌を出した。
でも忍と総裁はその恋海の言葉に感心していた。
恋海にはそういう「力」がある。YouTuberとしてやっていく力とは別かもしれないけど、不思議な強い力がある。それが塾での本漬けだけで得られたとは思いがたいので、きっと自分たちには言葉にしていえない、いろいろなことがあったのだと思う。
別れはつらいものだけど、それ以上に人を成長させる。中途半端で都合のよい関係をずるずる続けて、破綻をただ恐れて、上っ面で甘えあうよりもずっと。
仲間を作り、群れを作ることはその場の楽しさをくれるし、それを決して否定するものではない。でもそれはバランスが崩れると、どんどんお互いに虫のいい甘えたものになっていく。そしてそれがかみ合わなくなったら即座にいとも簡単に破綻する。お互い様のはずだったことを一方的に訴えて醜くののしることもある。
かといってただの一人で生きて行くには人間は弱すぎる。だから仲間を作ることは避けられないし、同時にそれは別れる運命もはらんでしまう。
だから、人生の先輩たちは「サヨナラだけが人生さ」と歌ったのかもしれない。
そんなつらい人生を、なぜ私たちは生きていかねばならないのだろう。
そのときだった。
総裁 あ!!
忍 どうしたの!?
総裁 あ、あれ! あれ!
恋海 え? なに?
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