第42話 リモート大回り乗車(24)友部

 電車は友部駅に着いた。


流山総裁「エビコー総裁と御波さんはここからどうするんですか?」

御波「今、こっちの鉄研のみんなに総裁の身柄確保と護送のことメッセージしてた」

エビコー総裁「うっ、それではワタクシは犯罪容疑者のようではないか……言葉選びがおかしいぞよ」

御波「もー。私たちに捜索させといて何言ってんの。私たち、ほんと総裁のこと、心配したんだよ。総裁、毎年夏の展示の後にものすごい鬱になって命まで危うくしてたんだから。私たち、それを死ぬ死ぬ詐欺だなんて思うほど薄情じゃないし。死ぬ死ぬ詐欺なんて言ったら、死んでほしいみたいじゃない。そんなこと言う人は常識もないし、まして元友人でもない。言葉で人は死んじゃうことがあるのも知らない物知らずに大きな口きかれてもたまんないです」

エビコー総裁「そんなこと」

御波「言葉は刃物。素晴らしい道具であるから、それは使い方を間違えれば凶器になる。そんなことがわかんないで何が画伯よ。ふざけないでほしい」

 御波の言葉はいつになく厳しかった。

御波「まして総裁がメンタルできつい時に『そういう話は聞きたくないから』って未読無視キメるなんて、そんな人ホント要らない。増してそんな人たちとどっか行くとか遊ぶとか全くナンセンス。私たち、遊ぶネタにも楽しむネタにも普段から少しも困ってないわ。そんなくだらない人の暇つぶしに付き合ってお金と時間と労力使うなんてまっぴら。まさに無駄オブ無駄。家で模型作ったり描いたり文章捻ってたほうがずっといい。人を馬鹿にするのもいい加減にしてほしいわ。総裁がそれでも付き合ってたのが私たちの出展の成功のための我慢だったと知って、私はすごく悲しくなった。私たち鉄研の非力につけ込んで総裁がそういうナメられた関係を我慢してたなんて、私はすごくつらい」

 御波はいっきにまくしたてた。

御波「それなら私たち独力で出展して失敗、空中分解しても構わない。それより総裁がそんなナメたひどいことされてたことの方が、私には全く我慢ならない。私たちを助けてくれた総裁にそんなことさせてたなんて、考えれば考えるほど自分を許せなくなる」

エビコー総裁「御波くん、もう良いのだ」

御波「どこがもういいんですか! ちっとも良くないですよ! そんなことで総裁が私たちを守ってたなら、私たちが総裁にとっても全然非力で信頼ならないってことですよ。私は悲しくて仕方がないです! 私たち、そんな信頼ならない非力ですか? 私たち、そんな見られたものでないほど下手ですか? こんなことなら、私たち、一緒にビッグサイトに枕ならべて全艦轟沈で失敗したほうがずっといい!」

 御波はそう言い切った。

御波「私、これまでの私たちの成功が、そういう総裁の犠牲の上のものだとは思いたくない!」

 エビコー総裁はそう叫ぶ御波に、頷いた。

御波「総裁、自分をもっと大事にしてください。総裁は総裁だけの総裁じゃないんですよ。総裁は私たちの『乙女の嗜みテツ道』の、大事な、立派な、誇れる総裁なんです。それが旗艦って意味です。ほんと大声で叫んで回っていいぐらい大事なんです!」

 御波は叫んで、声をからし肩で息をしている。

御波「何笑って見てるんですか」

 御波が流山総裁にそう言った。

流山総裁「いや、ものすごく羨ましくて、つい。私はまだこう言ってもらえるようになれるとは思えない」


 その時、流山総裁のケータイの通知がいくつも鳴った。


恋海「なる! というか、この流山もそういう総裁と鉄研にする!」

静 「……目標ができた……」

ユリ「ステキ!」

香子「そういうアツい青春とアツい鉄研にすごく憧れます!」

忍 「そういうとこも含めて、ライバルになりたい。本当に。そして競って、その上でエビコー総裁を悔しがらせたい」


 エビコー総裁はそのメッセージ画面を見て頷いている。

エビコー総裁「良きライバルとして互いに研鑽して行けると良いのだ。それこそワタクシの『テツ道』の理想へ近づく一策なり」

御波「もー。さっきまで『テツ道』やめるって言ってたのに、もう復活してるんだから」

エビコー総裁「いやなのか?」

御波「えー!」

 だがその直後。

御波「ええよー」

 ズルっとみんなコケた。


 友部の駅のコンコースで。


流山総裁「エビコーのお二人、これからどうします?」

御波「え? 私たち、友部から特急ときわにうまく乗れれば、それでとっとと海老名に帰ろうと思ってた。もう来年夏の展示の準備したいし」

流山総裁「そうですか……。一緒に我孫子まわって、夕餉に我孫子駅のから揚げそばでもご一緒しようかと思ったんですが」

御波「え、そんな」

エビコー総裁「そうか。御波くん、ここは互いの来年に向けての健闘を期して夕餉を共にしようではないか」

御波「でも時間が」

エビコー総裁「それほど時間に迫られておぬうちにこういうことをするのも有効な策と思うぞ」

 御波はため息を吐いて、笑った。

御波「ほんと、総裁、食はハズさないなあ」


 3人は常磐線の電車に乗った。同じE531系だが編成はダブルデッカーグリーン車2両を挟んだ10両編成である。

 総裁は乗ると、貫通ドアを開けようとしている。

流山総裁「え、それ、グリーン車への扉ですよ」

エビコー総裁「うむ、ここはワタクシが皆に我孫子までのグリーン車を奢ろうとぞ思いけるのだ」

御波「こんな短時間、短区間で?」

エビコー総裁「だから奢るのだ。皆には無用の心配をかけてしもうたからの。ワタクシの今後の教訓として、自分に罰金なのだ」

御波「でも総裁が使うクレカ、著者さんのじゃないですか。著者さんが可哀想ですよ」

エビコー総裁「ふぬ、著者などそこらへんの草でも喰わせておけば良いのだ」

御波「また総裁著者いじめするー。もー」

 そうやり取りしながらグリーン席を確保する操作している二人に、流山の総裁は微笑んでいる。

流山総裁「ほんと、『鉄研でいず』そのまんまですね」

エビコー総裁「そりゃそうであるのだ」

御波「またそうやって流山さんもメタいこというんだから」

 列車は我孫子、その先上野、品川に向けて快走している。

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