第52話 上野駅、分岐器との戦い(3)

恋海「接着剤固まるまで時間あるわね」

忍 「その間総裁たち、Illustratorで駅の壁パターン作るってことだよね。できてる?」

総裁「なんとかやってる。柱番号あるからまだいいって感じ。番号なかったら雲掴む感じになってたと思う。番号割り出してくれた恋海さんのおかげね」

忍 「ベックスコーヒーとプロローグ四季島も作ってね。前はラーメン屋とあやしいトイレだったけど、今の13番線の顔はプロローグ四季島とコーヒー屋さんだから」

静 「……でもこの車止め付近、何気にしんどいかも」

総裁「え、どういうこと?」

静 「……フェンスが幾つもある。それも市販品で代用できないっぽいのが種類いくつも」

 静が写真を見せる。

総裁「ほんとだ。地味に代用できないけど代用したら違いがバレる感じね」

静 「……きっとみんなここでアップの写真撮りたがるから、再現しっかりしないとガッカリだと思う」

総裁「忍ちゃん、どうする?」

忍 「どうしたもんかなあ。自作するのもしんどいし」

恋海「カッティングプロッタやレーザーカッターの出番かな」

忍 「どっちも持ってないよ。どうしようもない」

恋海「そうね……こっちの接着剤はそろそろ固まったかな」

 恋海と忍がレールとコルク道床の固定を見る。

忍 「いいんじゃない?」

恋海「じゃあ、いよいよダミー分岐を作りましょう」

忍 「これもGクリア接着剤で接着か……」

恋海「どうしても無理なことは釘使ってもいいのよ」

忍 「いや、なんとか行けると思う」

 二人で分担してフレキシブルレールを切ってダミー分岐にしていく。分岐のカーブなどはレールを切らずに作っていくが、フログに当たる部分まではできても、トングに当たる部分などはレールの枕木を切って合わせるしかない。仕上がりの分岐の様子がわかっていないと全く作れない。二人はグーグルマップの航空写真を見ながら慎重に進めていく。

忍 「分岐器につかう長い枕木はどうやって再現する?」

恋海「フレキシブルレールについてた枕木をうまく並べて長くなってるように使うのはどうだろう」

忍 「ちょっとレールの固定部分の穴が気になるなあ。犬釘部分は削り落とすけど、KATOのフレキシブルレール、その下に穴があるのよね」

恋海「でも枕木と同じ太さのプラ棒を必要な数用意するのは大変よ」

忍 「そうだよね。そこは妥協するか……」

恋海「バラスト敷けば結構見栄えすると思う。でもスリップポイントが難しいわね」

忍 「構造的に理解するだけでもちょっとしんどいけど、齟齬や矛盾のないようにレールを配置するのはたしかに難しい」

恋海「でもだから楽しい。これ結局うまくできても最後に列車が通らないのが残念。せっかくきっちりゲージも守って作るのに」

忍 「ダミーだもの。しかたないよ」

恋海「でもいつか実際に運転に使える分岐器の自作に挑戦してみたいなあ」

忍 「ナローゲージならやってる人いるけど、Ñゲージでそこまでやる人はまれね」

恋海「だからやる意味あるじゃない」

忍 「たしかに」

恋海「分岐器ってメーカー品にないものけっこうあるものね」

 恋海はそういいながらレール面に顔を寄せて、取り付けたレールの狂いをその鋭い視線で見定めようとしている。動作しないダミー分岐なのだが、それでもしっかり合うべきところを合わせておかないと分岐に見えなくなってしまう。その見定めを恋海は慎重に行っている。

 忍はそれを見てちょっと感心しているようだ。総裁もそれを見てこの鉄研の人選は間違ってなかったなと嬉しくなる。エビコー総裁以下模型鉄として雑誌掲載歴もある詩音やツバメを擁するエビコー鉄研には勝てないかもしれないけど、この流山鉄研も十分な一騎当千のメンバーを集められたなと思う。

忍 「ここ、どうやってもレールの反発力食らって固定できないから釘使っていいかな」

恋海「いいんじゃない? ここが固定できないと他のも連鎖して狂っちゃうし」

忍 「承知」

 流山鉄研はみんなで工作と図面作成にと大回転である。忍と恋海の手際の良さが光る。本当に模型のことが好きなのだ。

忍 「総裁、Illustrator図面の方は?」

総裁「頑張ってるけどそんな早く作れないよ。未経験者もいるし」

静 「……それとctrl+cが度々効かなくなるけど、これバグかな」

忍 「Adobe製品ってそういうバグ多いよ」

総裁「そうなのか……」

ユリ「はいせんせー、ベックスコーヒーショップのパターンできたっぽいです!」

静 「……プロローグ四季島もなんとか設計しました」

総裁「もうそこまで。早いなあ。でも香子は」

香子「うーん、うーん」

 忍がフォローに回る。

忍 「どこでつまづいてるの?」

香子「この図形動かしたいんだけど、どうやっても一緒にこれが動いちゃう」

忍 「それならこれをロックしちゃえばいいのよ。レイヤーのウインドウで」

香子「レイヤーってどこに表示されてるのかわかんないよう」

忍 「あ、隠れてる。じゃあウインドウからレイヤーを選ぶ」

香子「これなのかー」

忍 「イラレでこういう図形を作るには重なり順を理解しなきゃ」

香子「でも四角とか丸とかしか書けない……」

忍 「四角とか丸とかの組み合わせでいいならパスファインダつかえばそれで図形を作れる。図形を重ねてパスファインダのボタンを押せば合体する」

香子「そうなのか……」

忍 「ここらへん高校の情報の授業でもやりそうだけど」

香子「拙者、情報の授業はお昼寝の時間にしているのです」

忍 「学校の授業って結構役に立つんだけどなー」

総裁「あれ、忍も教科書配られたらそこで全部読んじゃうタイプ?」

忍 「そ。恋海は」

恋海「私も読んじゃうなあ。面白がって」

総裁「それなのになんでこの高校に?」

忍 「それはヒミツである」

恋海「私、制服可愛いから選んだ」

総裁「エビコーさんたちは制服なんてどうだっていいって言ってたけど」

恋海「せっかく3年間着るんだから、そこは妥協したくなかった。その代わり先生とか偏差値とか期待しなかったし」

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鉄研でいず!Approve/総武流山鉄道研究奮闘録 米田淳一 @yoneden

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