第50話 上野駅、分岐器との戦い(1)

忍 「上野駅柱番号の謎は解けたけど」

総裁「それで13・14番線と15・16番線の方向ミスが判明しちゃったのよね」

一同「うーん」

 みんなで考え込む。

総裁「そもそもホームの方向、違ってたんだよね」

ユリ「だけどここまできたら、もう施工でウソを付くしかないよー。今から全部やり直しはきついよー」

静 「……とりあえず紙で柱とかを作ってどんどん立てていって、それほど違和感あるかどうか具合を見るしかないと思う」

 静はこうして口調も静かなのだが、具体的にこのレイアウト作りを進めてくれる存在で、総裁としては頼もしいと思える。忍も恋海も模型経験が豊富なので、総裁としては彼女たちに任せる感じでいようと思っているのだ。香子とユリはその面経験が少ないがとても素直なので問題ないだろう。流山総裁はそう全体を俯瞰して考えている。

恋海「そうね。柱の上の高架ホームとか立体地盤はスケルトンだけにして車両が見やすいようにしたいわね」

忍 「全部実物みたいに作って結果車両がぜんぜん見えないのでは本末転倒ですもんね」

恋海「そう。モジュールは車両の映える舞台にしたいから」

総裁「でも柱の配置が斜めになってしまうのは避けられないのか……」

忍 「13・14番を直線ではなく傾ければよかったんだろうけど」

恋海「そうなるとホームの奥がきつくなるから仕方ない。回避不能だと思うけど」

忍 「あと柱建てるクリアランスがきつそうなんだよね……線路配置に余裕ないから」

総裁「うまく建てられれば良いんだけども」

恋海「そもそもモジュールのベース板が狭すぎないかな。やっぱりもう少し広げられない?」

総裁「うーん。13番ホームは元々幅がないし、14・15番線ホームも風景としてつくるとしても15番線・16番線と16・17番ホームまでつくると作り込み面積が増えすぎて、実際大変だと思う。完成後のビッグサイトへの運搬のためにもあんまり大きくできないし。だから思い切った省略を選んだんだけど」

忍 「でも見え方がいまいち違うかも……」

恋海「配置、間違えたかなあ」

忍 「あと、ダブルクロスのとこのこの5連の柱が何をどう支えているのか、それを理解しないと。本物はなんでこうなってるんだろう?」

香子「確かによくわかんないですよね」

総裁「やることいっぱいだなー」

恋海「でもグーグル地図だけだとさらにわかんないのよね。上野駅、ホームにストリートビューが降りてるのは良いんだけど、こういうところは無理だもんね」

総裁「また取材行くしかないかなあ」

恋海「また遊んでくるんじゃない?」

総裁「でもちゃんと撮るべきとこは撮ってきたじゃない」

忍 「そこは自重してよー。この感染拡大の時期に」

総裁「うぐぐ」

 指摘されて総裁は言葉もない。

恋海「でもこのままだと進まないわね。とりあえず先に分岐部分、ダミー分岐のとこ着手、作っちゃいましょうか?」

総裁「ホームもどうにもならないけど、最低限できあがってないとエビコーさんたちに渡せない。着工できるとこはやるしか無いわね」

忍 「そうね。この上野駅、成否を決めるのは分岐器がいっぱいで線路が波打つ海のように見えるところと、みんながよくみる車止めのとこの再現度だと思う。で、その分岐器いっぱいのとこの配線は図面作ってこうなってます」

 忍がプリントアウトを広げる。

忍 「A4しかうちのプリンタで出せないので貼り合わせになっちゃったけど、実物大にしてあります。これの通りの大きさになるはずです」

総裁「さすがCAD担当の忍ちゃん」

香子「すっごーい。分岐がたくさん!」

恋海「これをフレキシブルレールを切ったり曲げたりして再現するのね」

総裁「ホームに向かうダブルクロス1つだけは本物の動作できるの使うけど」

静 「……そのダブルクロス、中古をポポンデッタで買ってきた」

 ポポンデッタとは有名な中古模型も扱う鉄道模型のチェーン店である。

忍 「ええっ、分岐器の中古? 大丈夫かなあ!」

 静が取り出したパッケージを開ける。

忍 「見たところ異常は無い……。ソレノイドもケーブルも新品同様だけど」

 忍がそれを調べる。

香子「あれ、こうやって分岐していいんですか? 手動ノブ動かすと線路の上り方向と下り方向の並列したトングが一緒に作動してる」

恋海「あ、これはいいのよ。こういう設計なの。2つのソレノイドで2つずつトングを動かしてるのがトミックスのダブルクロスだから」

ユリ「そうなんですね! 知らなかった!」

忍 「普通に買ったら1個5000円もするから、扱ったこと無くても仕方ないよね。私もこんな高い分岐器あんま使ったことないし」

静 「……それを2000円台で買ってきた」

ユリ「爆安じゃないですか!」

総裁「たしかにお金の節約にはなるけど、ちゃんと動いてくれるかなあ」

香子「中古ってのは怖いですよね」

忍 「とくに分岐器で中古は私、いい思い出無いんだよね……。あ、そだ。思ったんだけど、分岐を確実にするためにポイントブースターも買いましょうよ」

総裁「ポイントブースター?」

恋海「あ、トミックスの分岐器に専用回路のコンデンサから多めの電力を送ってがっちり分岐させるパーツ? あれ使ってる人見たことあるけど、通販してるの?」

忍 「してるみたい。ブクマしてある」

総裁「けっこう値段するなあ……」

 ホームページを見て総裁は考え込んだ。

恋海「でもきっちり分岐してくれるなら安いと思う!」

忍 「分岐不良はいやだもんね。自動運転だとそれがネックになるし」

総裁「そうね……。これも買うしか無いか……」

ユリ「レイアウトっていろいろお金かかりますね」

忍 「だから鉄道模型は趣味の王様っていうのよ」

恋海「そう。いろんな意味でね」

総裁「だから鉄道TETSUDO 模型MOKEI 趣味SYUMIでTMSって名前の雑誌があるのを別に言い替える皮肉もある。TMS、TIME時間MONEYお金SPACE場所がないと無理だとか」

香子「切実ですね……ただのお金持ちだけじゃできない。お金持ちの上に時間と広い部屋が無いとだめなんですね」

忍 「でも私たちはそれがこうして出来るわけで!」

香子「そういえばそうですね」

ユリ「恵まれてるって事ですね!」

総裁「感謝しないとね」

恋海「ほんとね」

忍 「ネー」

総裁「だから、がんばるしかない」

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