第9話 人それぞれと絶体絶命
「でも、桂さん……がっつり心閉ざしてるけど、もし仲間に出来たら、私たち鉄研のすごい戦力になりそうよね」
「出来たら、ね。すごく難しそうだけど」
「まいったなー」
そのときだった。
「なんだろう、あのがっかり剣道少女」
「
「『歴史群像』読んでる。しかも旧海軍の話の」
「案外歴史マニアなのかなあ」
「こうしてみると、みんなそれぞれ休み時間、いろんなことしてるねー。お弁当をもう食べてる人もいるし」
「昼前におなかすいちゃうんでしょう。私たち、育ち盛りだから」
「男子はエロい本の話してる」
「それも発育盛りなのよ」
「こうして人間観察してみると、みんなつまんないなりにそれぞれ青春してるよね」
「ラノベ読んでるのもいる。教科書で表紙かくして」
「最近のラノベ、表紙の『肌色率』きついもんね」
「その隣のゆるふわさん」
「
「どっかで聞いた声なんだよなあ」
「え、どこだろう」
「その前のおどおどさん」
「だから名前で。
「なんか、さきっから船坂さんとこっそり話ししてる。なんだろう」
「リグがどうしたとか、リップシンクがどうしたとか、ライブがどうしたとか聞こえる」
「……まさか」
私は気づいた。
「それもYouTubeじゃない? その話題。しかもあの声、どっかで聞いたと思ったら」
「ナレーション?!」
「そう。あのYouTuberのナレーション、どっかで聴いたアニメ声だと思ってたけど」
「船坂さんか……でも授業中スマホは先生に預けてあるから今検証できないけど」
「ってことは、船坂さんとリグの話ってのは」
「笹原さん、まさかLive2Dのキャラ作ってるの?」
「そういう気がしてきた」
「今はみんなYouTubeとかでお金になるようにするんだねー」
「儲かるのは一部だって話だけど。放送の広告費は一時期よりめちゃ安くなったって」
「少なくとも、再生回数には全く比例しないらしいわね」
「世知辛いよね。ほんと。世の中どこ見ても、這いつくばっておとしめ合う釜の底って感じ」
「一発逆転はSNSとかでバズることぐらいしか期待できないもんね。ふつーに働いてたらひたすらやりがい搾取とピンハネ」
「日本の主要産業、すっかり空洞化してピンハネだけだもん」
「もー。悲しいなー。美しい国のはずだったのになー。ションボリ」
「あれ?」
忍が声を潜めるように合図する。
「桂さん、なにかこっそり笹原さんと船坂さんに封筒渡してるよ?」
「何だろ……中身なんだろう」
「普通に考えたらあのサイズの封筒、現金だよね」
「でもなんで現金渡してるの?」
忍はまたこめかみで拳ぐりぐりを始めた。
「ぴっきーん!!」
「また!? なにかわかった?」
「桂さん、多分、二人にギャラ渡したんです」
「何のギャラ?」
「……たぶん、YouTube」
「ええっ、マジで!!」
「だとすると、ピースがぴったり合わないかな」
「てことは、桂さんが20万人登録のYouTuberってこと? まさかあ!」
「そうは見えない人が一番やばいのよ」
「そりゃそうだけど」
「やばい。たしかに」
私たちはため息でそろった。
「とはいえ、桂さん、メチャクチャ私たちに対してガード高いもん。くどいても鉄研部員になってもらうのは無理じゃないかな」
「そうよね」
「むー、どうしたもんか」
「難攻不落そうだよなあ。桂城」
「桂城!?」
声が上がった。上げたのは剣道女子の香子。
「毛利氏の家臣桂氏の居城ですね! 広島県安芸高田市の可愛川に面する小山に立てられた平山城。1968年史跡指定」
「え、えっと……その話じゃないんだけど」
「あなた、もしかすると、城郭マニア?」
私が言っているとなりの、忍ちゃん……ええっ、目の色がすっかり変わってる!
「そうです! 城郭大好きなんです!」
「でも……話、多分合わないわね。だって私が好きなのは、お城でも近代の城郭、要塞が好きだから」
忍ちゃん、ちょっと寂しそうに言った。
「えっ、要塞ですか! 私も大好きですよ! 満州国境で奮戦したはずなのに記録が全部ない虎頭要塞、東京湾を黒船から守ったお台場に今も残る第一第二海堡、そしてその前に作られた西洋式城郭の五稜郭!」
「五稜郭と言えば函館近くの在来線の交通の要衝」
「そうですそうです。だからあそこに五稜郭作ったんですよ」
「そうなのかな」
「あと小さい頃見た『天空の城ラピュタ』の要塞!」
「あれ、空中戦艦ゴリアテの係留塔になってたのもよかったよね」
「鉱山鉄道に出動した装甲列車もまた魅力たっぷりでした!」
「私、一度でいいから姫路城見に行きたいなあ。結構あのお城もまだなぞが多かったはず」
「お城といえば謎ですよね。江戸城でも最近、正体不明の地下施設が見つかりましたし。この時代になっても人知れずそういった施設が眠っていると思うと、ぞぞぞっとしませんか!」
「エモいわよね。そういうの楽しい」
「ですよねー!!」
「ええと、話が鉄研なのに濃い城郭話に脱線してるけど。戻しませんか」
私は口を挟んだ。
「そうね。リレーラー・カモーン!」
「え、あなたたち、鉄研なんですか」
剣道少女が少し引いている。
「え、鉄研ってそんなイメージわるいの?」
「だって、最近迷惑撮り鉄とか、鉄道会社に迷惑かける盗り鉄とか……」
「ちっちっち。私たちはそういうなかで、鉄道ファンのマナー向上を訴える『乙女のたしなみ・テツ道』を鍛錬するのも目的だから。違うのよ」
「そうなんですね! ステキだなあ!」
ありゃ、結構単純だぞ、この子。
「じゃあ、鉄研に入る? 経験者優遇、未経験者歓迎だけど」
「そうですね! 興味あります!」
ええっ!
「じゃあ、仮でもいい! 仮入部でもいいから入部して!」
「え、どうして」
「あと24時間しかもう私たちにはないのよ!」
経緯をちょっと説明する。
「いいですよ!!」
まさかの快諾!!
「でも剣道部と掛け持ちですけど」
「いいです! 全然かまいません!」
「よかった!」
あと3人で部になれる!
でも、残りは正確には20時間を切ろうとしている。
流山東鉄研、まさに、絶体絶命!!
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