第10話 模索

「部への昇格まであと3人。でもできなきゃ同好会としても消滅、ゲームオーバー」

「残り18時間だから、6時間に1人ずつ入れないとダメですね」

 剣道少女の香子ちゃんが言う。

「ヘンな割り算しても仕方ないよー」

「そうですよね」

「でもさ」

 忍が声を潜めていった。

「ゆるふわさん、おどおどさん、そしてあのがっちりガードつよつよの恋海さんの3人を一気に私たち鉄研に入れられれば、一挙逆転じゃない?」

 忍が何か企んでいる。

「そんなこと出来ればいいけど、めっちゃ恋海さん、ガード堅かったもんなー。無理ぽいよね」

「ものすごい拒絶でしたね」

「だけどさ」

 忍の悪巧みが止まらない。

「それだけ拒絶するってのは、こっちを意識してるってことじゃないかな」

「そうかも」

「なにかうまく突破口作れば、それでスルスルと入ってくれるんじゃないかな」

「でも突破口か……。めっちゃ堅いガードで、そんなものありそうにないよね」

「普通に攻めても破りようがないよね」

「……城攻め?」

 香子が反応している。

「これは、城郭攻略の要領が使えませんか!」

 香子が言い出す。

「ええっ、何それ!」

「でも、水攻め火攻め兵糧攻めは使えそうにないなあ。恋海さんお金困ってる様子ないし、ご飯にも困ってなさそう」

 忍ちゃん……。

「じゃあ火砲で破壊してしまうとか。攻城砲、列車砲とか!」

 香子ちゃんも物騒な話題好きだよなあ……。

「うーん、私の『みさいるどっかーん』は効く人と効かない人が極端だからなー」

 何? てことは私、効くほうの人だったの……? 思わず私は渋い顔になってしまう。

「うーん、なんかいい方法ないだろうか」

「あとは工兵工作で坑道掘って堡塁の地下からどっかーん、とか。旅順要塞攻略みたいに」

「うーん、どうしたものか。坑道作戦……」

「時間かけすぎると意味なくなっちゃうよね」

「そこをなんとか……ぐぬぬ」

「あとは連携作戦ですね。城兵を上手くおびき寄せる」

「え、誘う?」

「誘うのもいいですね!!」

 香子が言う。が。

「よかあないでしょ」

「だいたい何で誘うのよ。それに不健全はだめ。一応、この話『鉄研でいず』は『テツ道』健全な鉄道趣味啓蒙って建前があるんだから」

「度々、それが迷子になってるけどね……」

 (著者)すみませんすみません!

「うーん、むずかしいなー」

「もうこうなったら、やぱり忍ちゃん、あれやりなよ」

「え、あれって?」

 私はこめかみを指した。

「これかー。お医者さんに1日5回までって止められてるんだよね」

 ナンダそれは。

「うぬぬぬ」

 こめかみぐりぐりを忍がやる。

「むっ!」

 忍の目がかっと開いた。

「なんかわかった!?」

「頭痛い」

 忍はそう言ってうずくまる。

「ええっ、忍ちゃんぐりぐり、まさかの不発!?」

「ここに来てそれはキツいですよ! というか忍さん、大丈夫ですか!」

「こういう状態、なんて言うと思う?」

 忍が言う。

「なんだろう」

「万事休す」

「それ今言ってどうするのよ!」

「もー! これじゃぜんぜんダメです!!」

 私たちは混乱におちいった。



「もう時間が限られてるよー」

「明日の12時がリミット、だって」

「でもなんで12時?」

「午前の事務の締め切りだから」

「それ、午後に出来ないかな。午後17時もまだ明日のうちでしょ」

「そうね……だめもとで交渉してみるか」

「あとさ、あのYouTuber、今夜定期のYouTubeライブするって」

「うぐぐ、私たちが苦しいのに向こうは平常運転か」

「まあ、これはこれ、それはそれかも」

「でもさ」

 3人は電柱の陰に隠れている。

「恋海さんを尾行するって、これ、現実的に無理だよね」

「私たち、尾行のスキルなんてまるでないもんね」

「でも他に何していいかわかんないのよ!」

「まあ、足でネタを稼ぐってのはありかと思ったけど」

「そうなの?」

 しかし香子ちゃん、私たちに打ち解けるの早いなー。性格単純ってこういうときいいよね。

「あれ、誰かと待ち合わせしてるみたい」

「ええっ、まさか、ほんとにパパ活?」

「まずいよ! 不健全よ!」

「それは恋海ちゃんに言って!」

「えっ、今?」

「今じゃなくて!!」

「ちょっと、なんか男の人来たよ!」

「マジ?! ほんとにパパ活なの!?」

 3人で息をのむ。相手の男性は地味な背広に髪がロマンスグレーの人。

「やばい……やばすぎる」

 そしてその人は、恋海ちゃんに封筒を渡した。

「パパ活だ……見ちゃった」

「というか、香子ちゃんそのスマホは」

「スマホ動画で撮っちゃいました!」

「ちゃっかりそんなことを」

「もうこうなったら、この動画で、恋海ちゃんを脅しましょう!!」

「何言ってんの! 脅迫なんて!」

「もう他に方法がないです!!」

 私たちはさらに混乱した。


「ええと、何してんの、君たち」

 ひゃあああ! 男性が私たちの方に来た。

「え、何でもないです!」

「はは、そ、そうですそうです!」

「この電柱、いかにも庵野監督が好きそうだなー、って3人で見てたんです」

 私たち3人はすっかりうろたえている。

「パパ活と思ったのかな?」

 男性がそういう。

「え、そんなこと!」

 そんないきなりド直球でこられても、ぜんぜん対応できない!

「そう見られるだろうな、って恋海くんと話してた」

 えっ。

「彼女とは仕事関係なんだ。彼女の動画でうちの商品を扱ってもらってる」

 彼は名刺を出した。

「化粧品の会社なんですね」

「そう。ティーンに使いやすいカラートーンの化粧品ブランドを立ち上げようとしてる」

「そうなんですか」

「彼女、離婚したお母さんに育てられたんだ。でもそのお母さんが数年前から身体壊してて、いま彼女のYouTubeの収入が弟さんとお母さんの家を支えてる。だから彼女、必死なんだ。もう趣味も出来ないってほど」

「趣味って」

「弟さんと鉄道が大好きだったらしい。離婚前は一家であちこち鉄道旅行していたという。でも、もうそれはできない」

「そんな……」

 重いっ。思わぬめちゃ重い話になってしまったぞ、これ。

「だから、彼女の内心はすごくむずかしいんだ」

 そんな状態でYouTubeやってるなんて。

「わかりました」

 忍が言った。

「ありがとうございます。篠原総裁、香子ちゃん、ここは引き上げましょう」

「そうするしかないわね……」

 でも、どうする!?

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