第124話 最終局面です!

 トレーラーの運転手として熟練している草加と、運転は下手くそだが武器の扱いに長じたミン。このふたりの連携は急造コンビとは思えないほどのシナジーを生み出していた。

 あれだけハンターチームを翻弄していた特異点アンタッチャブルを逆に手玉に取り、その動きを完封しているかのようだ。


 一方、いろはと岩崎はテトリスに向き合う。しかし、いろはとしては自分自身が何者なのか、釈然としない感情のまま疑い続けていた。


「でも、そんなことよりテトリスしなきゃだよね……。あっちもこっちも大変だよ」


 いろはは次々にテトラミノを落としていく。均等に配置し、場合によってはテトラミノを消す。灰色ブロックの隙間を埋めることはしなかったが、しかし、灰色ブロックが消えることもない。状況は膠着していた。


「棒、棒、棒! 棒さえくれば、解決するんだけど! なんで来ないのよ」


 Iテトラミノを待っている間に敵の攻撃が入る。6列分の灰色ブロックで埋められてしまう。


「私の力は上がっているはずなのに、なかなか相殺できないじゃない」


○○〇:ここまでくると、敵も力が上がってるから

◆◆◆:がんばれ!


 Jテトラミノで灰色ブロックを1段、テトラミノを1段消した。どうにか余裕を持たせた形だが、そのせいで灰色ブロックの隙間は埋もれてしまう。

 ここでIテトラミノが降ってきた。


「遅いよ!」


 Iテトラミノはホールドし、Oテトラミノを開放し配置する。次はLテトラミノだが、これは上手く嵌まる場所があり、灰色ブロックの隙間も開くことができる絶好のテトラミノだ。

 しかし、落下スピードがあまりに速く、ブロックの位置と落下位置が近すぎる。Lテトラミノは灰色ブロックの隙間の情報に入ってしまい、岩崎は砲弾を連射し、時間稼ぎのためブロックを回転させ続けた。


「もう、これはホールドしちゃって!」


 無線通信で加藤に連絡する。

 待ち望んでいたIテトラミノだが、早くもこんなところで開放してしまった。しかし、それでも灰色ブロックへの隙間は開け、次につなげる。

 降ってきたJテトラミノで灰色ブロックを2列取り除いた。


 しかし、次に降ってきたのはSテトラミノだった。Zテトラミノだったらピタリと入る凸凹にSテトラミノだと入る余地がない。咄嗟にホールドを切り替え、Lテトラミノを開放するも、これも灰色ブロックの隙間の上に配置するほかなかった。

 降ってきたのはIテトラミノ、これはホールドし、Sテトラミノを開放する。


「スピードがヤバいでしょ! もう何も考えられない!」


 そんな時だった。

 特異点に対し、優位に立っていたトレーラーが黒い吐息ブレスを受け、ついにその動きを止められた。鳴は電磁投射砲レールガンを用いて射撃を繰り返すが、もう有効な攻撃は与えられない。やがて、トレーラーは特異点の手により破壊し尽され、逃げ出した草加と鳴もまたその毒牙にかかる。


「そ、そんな……」


 動揺がいろはにあったのか、そもそもテトリスのスピードがミスを誘発したのか。

 いろははSテトラミノを中央にできた窪みに配置してしまう。何度も回転させ悪あがきするが、宙ぶらりんな場所に配置され、悪い位置に隙間が生まれてしまった。


「まだ、手はあるはず……」


 窮地にあって、いろはの精神は研ぎ澄まされていく。

 だが、そんないろはたちに、トレーラーを破壊し尽した特異点が迫ってきていた。


「お、おい、来たぜ」


 岩崎が焦りの声を上げる。周囲を警戒していたジェイムズも太いうなり声を出していた。

 しかし、いろはは冷静だった。


「大丈夫だよ。ツルギさんが来てるから」


 これは偶然だろうか。いろはたちがいる場所の地下には通路が走っていた。その通路を、まさにツルギが彼らに合流すべく、駆けていたのである。

 そして、ツルギは瓦礫の下から飛び出すと、段平を抜いて特異点に備えた。


「鋼鉄により敵を斬り裂く。斬鉄剣!」


 迫りくる怪物に向けてそう叫ぶと、上段に構えた段平を振り下ろす。向かってくる竜のような姿をした特異点に向けてその刃で斬りかかり、その頭から首、胴体、そして尻尾までを一刀両断に斬り裂いた。

 ツルギの両脇に、真っ二つになった特異点がズドンと倒れていく。おびただしい流血により、周囲は真っ赤に染まった。


「うん、ここはなんとかなった。けど……」


 問題はテトリスである。

 出現したOテトラミノをホールドで切り替え、Iテトラミノを落とし、ピンポイントで隙間を埋める。さらにOテトラミノが降るので、左端に配置し、続いて現れたIテトラミノで1列消し、次のJテトラミノでもう1列を消した。

 その後も、どうにか瀬戸際でテトラミノを消していく。だが、それは状況の打開というにはほど遠い戦いだった。


□□□:上手いんだけどね

●●●:これはきついな


「でも、これで敵を倒した感覚はあるよ。力がどんなにあっても、こんな状況じゃどうしようもないけどさ」


 奇妙な高揚感はあるが勝ち目はない。

 そして、状況は好転しようはずもなく、敵の攻撃によって灰色ブロックがせり上がる。


◇◇◇:ここまでかー

■■■:ろはちゃん、がんばった


「待って! 私にはまだやれることがあると思うんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る