第68話 オロチさんの死にハイレディンさんは何を思うのか
オロチは扇動家であった。あるいは啓蒙家だったといってもいい。ハウエルやバスコが空賊船長となったオロチについてきたのは、その資質に魅了されたわけではなく、彼に目を
この時代の人物に人生の目的だとか、主体的な行動だとかというような概念はなかった。そういう感覚で動いている者がいないわけではなかったが、言葉がなかった。人間は言葉があることで初めてその概念を理解することができる。言葉があるからこそ存在するようになる感覚もある。
オロチは言葉を生み出したわけではなかったが、漠然としたものでありながら、概念を生み出しつつあったのだ。
逆にいえば、オロチは指導者としての才覚があったわけでも、
バスコが裏切ることになったのも必然であったかもしれない。バスコはオロチによってその人生に目的を見出し、その一時期をオロチとともに過ごし、そして道を違えたために裏切りを選んだ。これはオロチが一個の人格をバスコの中に確立させたから起きたことなのである。
指導者であり、
オロチが民衆の目を啓かせ、ハイレディンがその民衆たちの目的となる。そうすることで、浮遊大陸は国家ともいうべき存在になっていくのだが、それはオロチの死を目の前にした彼にはわからないことであった。
バスコは逃げ去り、ハイレディンの目の前に残されたのは瀕死のオロチだけである。
オロチは自分のために死んだのだ。自分がバスコへの警戒を欠いて前に出すぎたのが原因である。ハイレディンには後悔と哀しみの念が苦しいほどに込み上げてくる。
ハイレディンがオロチを抱きかかえると、オロチは目を開き、ハイレディンを慰めるように優しげな言葉を発した。それは最期の力を振り絞っている。
「ハイレディンよ、俺は人々を先導し、この浮遊大陸に集めた。俺は国を興すのに向いていたようだ。だが、国や人々をまとめ上げる求心力は、俺よりお前にあるだろう。ここで俺が死ぬのは幸運なことなのかもしれない。
お前は空賊だ。お前は自由だ。だが、願うことならば、俺の集めた人々の希望になってくれ……」
オロチが事切れるのと、ミルドランドの飛空艇による空襲が始まるのはほぼ同時だった。ハイレディンには兄の死を悼む時間も与えられず、死体を放置したまま、逃走を始めることになる。
ドラクートが主導して機関士たちに発破をかけ、夜通しの運転を続けていた彼らに、さらに力を振り絞らせて全力での飛行を続けさせる。
ウルグとロバーツは砲撃手たちを鼓舞し、敵の攻撃を迎撃し、どうにか被害を軽減するべく走り回る。
ハイレディンとアイディンはともに町を巡ると、状況を説明し、戦闘への理解と恐怖をなだめるべく民衆の説得を続ける。民衆たちにとって、今回の奇襲は知らされていないことであり、唐突な危機に恐慌が起きてもおかしくなかったが、ハイレディンの必死の説得が功を奏し、パニックは最小限に抑えられた。
だが、問題も発生する。
逃走のための燃料が尽きてきていたのだ。バルバロッサの全力飛行は想定以上に燃料を消費していた。
ハイレディンは自ら率先して浮遊大陸の鉱山に赴くと、炭鉱夫たちとともに燃料を掘り始める。この供給はどうにか間に合い、どうにか彼らの勢力圏まで戻ることができた。
人々は真っ黒になりながら、自分たちとともに汗を流す新しい指導者に、一体感と共感を抱き始めていた。
事態が落ち着くと、オロチやハウエルを始めとする戦死者の葬儀を行う。
オロチや戦死者たちを新たに作られた墓場に葬った。ただ、戦闘による揺れや地割れによるものか、ハウエルの死体は失われてしまった。
手痛い敗北であったが、しかし、この敗戦から立ち直ることで、浮遊大陸バルバロッサは国家としての強度を得る。
坊ちゃんとバスコに侮られたハイレディンはリーダーとして台頭し、ウルグは冷静な参謀として、アイディンは戦に華を与える切り込み隊長として、ドラクートは技術者の長として、それぞれハイレディンをよく補佐していった。そして、ロバーツは亡国の王子として立場を明らかにすることで、ハシ国の反乱を誘発する。
ハシ国には新たな王朝が立つことになったものの、バルバロッサとハシ国の挟撃により、ミルドランドはたちまち勢力を失っていく。
ミルドランドに寝返ったバスコもまた、ミルドランドに再びの裏切りを行った。新たなる空賊団を立ち上げ、ミルドランドに対して止めともいうべき略奪と蹂躙を行い、やがて世界中の空を股にかけて暗躍を始めるのである。
ハイレディンとバスコには因縁を残しつつ、新たな時代が始まっていた。
○○〇:バルバロッサ編の回想はこれで完結かな
◆◆◆:オロチが国を興して、ハイレディンが国をまとめたってことね
□□□:ピンチどうなるかと思ったけど、どうにか逃げられたか
●●●:バスコは何度も裏切るね
◇◇◇:一回裏切ったら何度でも裏切るものよ
■■■:こんろは
「はい、こんろはです!
浮遊大陸バルバロッサの回想編は完結したね! でもなあ、なんか、まだパズルのピースが欠けているような気がするんだよねー。気のせいなのかな。
次回からはテトラミノの隙間をどうにかしなきゃだね!」
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