第37話 キビツヒコさんはあくまで時代に抗います

 武士の出現とは、古代律令制が崩壊し中世の封建社会が始まったことを意味する。

 時代を区分する方法は一つではなく、単純でもない。はっきりと色分けできるようなものでもない。

 しかし、一般的には土地を所有するのが何者なのかで分けられるだろう。


 古代律令制とは、君主によって運営される中央集権国家であり、土地の所有はすべて国家=朝廷によって行われる。しかし、空賊の氾濫によっていくつもの土地は奪われており、事実上、すでに崩壊は始まっていた。

 封建社会では、国家の土地を領主たちがそれぞれ所有し、自治し、運営する。

 武士は自ら武力を持ち、自ずから統治機構を持った集団、あるいは身分のことを指す。武士の存在は明確に、古代の社会体制の否定であり、新しい秩序が到来したことを示していた。


 そんな時代の過渡期にあって、最も足掻あがいていたのがキビツヒコである。

 彼は謹慎処分にありながら、御所の守護軍が劣勢であることを知り、敗北に近いことを悟った。そして、手段を選んでいられる状況でないと腹を括る。


 キビツヒコが用意したのは吉備団子であった。謹慎中であるにもかかわらず、御所に堂々と押し入らんとする。止めようとする兵士たちはその剛腕でねじ伏せ、帝と側近たちに力づくで吉備団子を食べさせた。

 ミカドと側近たちは吉備団子を食べた瞬間に恍惚の表情を浮かべる。その顔はトロンとした締まりのないものになり、未知の快楽に酔いしれた。吉備団子の虜となった彼らは、もはやキビツヒコの言いなりである。


 キビツヒコには懇意にしている異国の空賊がいた。

 略奪や戦争だけでなく商売にも熱心であり、キビツヒコとしては守護軍の戦力増強のためにその男――バスコから武器を買い入れることをかねてより計画している。しかし、変化を嫌う大臣たちとの政争にばかり時間を取られ、予算の確保がままならなかった。

 しかし、腕力と吉備団子により力づくで御所の頂点となったキビツヒコは意のままに資金を費やすことができる。

 キビツヒコはバスコに連絡を取ると、ムラカミ空軍に対抗すべく兵器の輸入を開始した。


こうして戦力を整備し、三軍団を失ってはいるものの、九つの軍団を再度まとめあげ、周辺の反乱を鎮圧し、都の守備を固め上げた。

 やがて、マサカドとムラカミの軍勢が迫りくる。

 運のいいことに、ムラカミ空軍は嵐で足止めに遭い、各個撃破ができそうだ。


「神風が吹いた」


 キビツヒコの兵士たちはそう言って喜んだ。

 果たして、守護軍はマサカドと交戦し、鎧袖一触で退ける。

 敗北の続いていた守護軍に勢いが戻りつつあった。


 そんな中、マサカドの軍勢を取り込みつつあるムラカミ空軍が都に迫るのである。



○○〇:キビツヒコ、えげつない手段に出たな

◆◆◆:吉備団子ってクスリかなんかなの?

□□□:効果ありすぎて、やべー

●●●:キビツヒコ軍も戦力増強されたのね

◇◇◇:これ、ムラカミ勝てるか?


「キビツヒコさん、追いつめられて、やばいことに手を出しちゃったね。もう末期って感じ!

 でも、めちゃくちゃ強くなってるのね。これはどうなるのかな。

 スミトモさんも向かって来てるんだっけ?」

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