第91話 ホールド! そして、新技! Tスピンの冴えを見よ!!

「ホールドできる人ってどんな人?」


 いろはがリスナーと話しているのを聞いていたのか、咲菜さなが尋ねてきた。


「空が飛べて、ブロックを持ち上げて、待機してもらいたいの。そのあと、必要によって降ってくるブロックと交換してもらいたいんだけど」


 いろはがどうにか説明する。


「それなら、深町だな」


 それに返事をしたのはツルギだった。それを聞いたいろはは目を輝かせる。


「やっぱり、深町さんなんだね! 空を飛ぶヒーローみたいでカッコいいよね、あの人!」


 その言葉にツルギと咲菜が驚きを抱く。

 だが、すぐに驚くほどのことでないと思い直す。いろははあらゆる情報を手にすることのできる存在のようだ。


「通信設備がパトカーの中にあるから、それで深町さんに連絡するね」


 通信設備がある! これはなんという進歩だろうか。

 今までの世界では通信などという概念はなく、連絡を取るには直接やり取りするしかなかった。せいぜい、目視で信号を送り合うので精一杯である。

 それが電波による通信ができるのである。今までにない連携の取れたテトリスができるというものだ。


「すごい! それすごいよ! 通信ができるんだね!」


 咲菜がパトカー内の無線機の起動と調整を行っているのを見ながら、いろはが興奮したような声を上げる。

 やがて、咲菜がチューナーを調整しながら深町への呼びかけを行っていると、返ってくる声があった。


「ガーガー……、あ、咲菜さん? ツルギさんのとこの? オレは深町シロウです。受信しました。どうぞ」


 深町の弟、シロウの通信であった。


「シロウくん! 良かった、頼みたいことがあるの! えーと……」


「ブロックをホールドしてほしいんだ! 深町さんに言ったら、わかるから!」


 咲菜の後ろにいたいろはが口を挟んだ。その言葉にシロウは困惑するが、その勢いに負けたのか、深町と通信すると言い残して、通信を終えた。

 さらにチューナーをいじり、咲菜は深町との通信ができないか試みる。すると、シロウの声が聞こえてきた。


「ガガ、ガガ……ックをホールドしてくれ、だって。意味わかる?」


 その声にかぶさるようにいろはが叫んだ。


「深町さん、ホールドできるでしょ!! あのTテトラミノ、見えるよね!」


 まるで深町の答えがわかっているかのように言葉を重ねた。いや、事実、わかっているのだ。深町はいろはの声からムラカミだった、あるいはイェスタフだった頃の記憶を思い出し、ホールドを始めたはずだった。


「あれだな。今から向かう。いろは殿、待っていてくれ」


 深町の返事も、いろはには知っている言葉だった。

 そして、その言葉通り、Tテトラミノはホールドされた。続いて、Zテトラミノが降ってくる。それを函田と青槻の特殊砲弾ミサイルで、Iテトラミノの上に落とし、さらに来たSテトラミノは左端に落として、ZとSを嚙合わせる。

 次に来たLテトラミノ、Tテトラミノも均衡になるように並べるが、Iテトラミノ、Zテトラミノの嚙み合わせによって、奇妙な隙間が生まれていた。


○○〇:失敗した?

◆◆◆:いや、これでいい


 さらに来たZテトラミノは左端に追いやり、Jテトラミノは右側の隙間になっていた箇所に嵌め込む。

 降ってくるの何度目かのZテトラミノだ。


「やっと準備できた! 深町さんにホールドを解放してって伝えて!」


 いろはは咲菜に声をかける。

 咲菜の通信によってホールドはZテトラミノからTテトラミノに変わった。


「ねえ、函田はこたさん、青槻あおつきさん、今ホールドから解放したTテトラミノをさ、あの隙間に嵌めてほしいんだけど」


 いろはの狙いとしては、IテトラミノとZテトラミノ、それにJテトラの狭間に生まれたT型の隙間にTテトラミノを嵌め込むことだった。

 だが、それに対する函田と青槻の反応は芳しくなかった。


「それ、ちょっと無理!」


「ミサイルじゃ無理だし、そもそも、そんな芸当は岩崎さんくらいじゃなきゃできないよ」


□□□:結局できないんじゃん

●●●:いや、形はいいよ


「無理て! 失敗しちゃったよ―。

 サブタイつけるのフライングしちゃったじゃん!」

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