第136話 勝負の行方は!?

 ツァトゥグアはため息を吐き終え、にじり寄ってくるヌガー=クトゥンに向かう。


「あんたにこれ以上近づかれると堪らん。打ち上げさせてもらうぜ」


 そして、ヌガー=クトゥンの腹とも思える場所に拳を叩き込んだ。さらに連続して拳を叩き込み、僅かな瞬間に何十発もの打撃が撃ち込まれる。その衝撃で、ヌガー=クトゥンは海上へと吹っ飛んでいく。


 その場へ現れたものがあった。それは空を浮遊する炎のようであった。炎の熱量は異様とも言えるほどに高く、瞬く間にヌガー=クトゥンを飲み込み燃やす尽くしていく。

 だが、その熱量とは裏腹にその影響範囲は驚くほどに狭い。まるで、炎自身がその熱の届く範囲を自ら定めているようだ。


 現れた炎はクトゥグアであった。

 炎の化身であると同時に、すべての炎の精の主君である火の神の主神である。その炎は外なる神でさえ燃やすといわれている。

 ましてや、生物でしかないヌガー=クトゥンが耐えられるはずもない。


「待たせてしまったな。フォーマルハウトよりクトゥグア推参いたした」


「あんたが来るともうしまいだ。戦いって次元じゃなくなるんだよなあ」


 クトゥグアの声が高らかに響いた。それを聞きながら、ツァトゥグアはぼやくようにつぶやく。


 しかし、意外なことにヌガー=クトゥンは完全に死んだわけではなかった。正確にいえば、クトゥグアに飲まれる直前に弾き飛ばしたパーツが残っていたのである。ヌガー=クトゥンは拳の先端を切り離して放出し、それは意図してか偶然か九頭龍坂くずりゅうざかいろはに向かって発射されていた。

 欠片とはいえ巨大なものであり、人間サイズでしかないいろはを叩き潰すには十二分のものだ。


「え? え? こっち来るの?」


 いろはは慌てそうになるが、左手に嵌められた指輪の青い宝石が、胸元で揺れるネックレスの真紅の宝石が、そして、背中に背負った段平の白い刀身が一斉に輝き始める。

 すると、いろはは落ち着き、段平の柄を掴むと引き抜いた。そのまま刀身を頭上へと向ける。


 ヌガー=クトゥンの欠片はまさしくいろはに握られた段平の刀身に到達し、そのまま引き裂かれた。しかし、切り裂かれたとはいえ質量が質量である。そのままではいろはをただ圧し潰すかと思われたが、海中にあって風が吹いた。

 風はヌガー=クトゥンの欠片をいろはの段平で両断するように動かすと、そのままいろはを避けるように吹き飛ばした。


「あっ、今のハスターちゃんが助けてくれたんだね!

 ありがとう、助かりました!」


 ハスターの行動に気づいたいろはは素直に喜び、彼女にお礼を言った。


「別にお礼なんて言われる筋合いはないわ。あんたが死んだら世界も終わるから、守っただけなんだからね」


 ハスターの顔は隠れており、表情は読めないが、照れているようだった。


「あはは! それ、ツンデレの典型的なやつなんよ」


○○〇:ついにデレたか

◆◆◆:ノルマ達成だな

□□□:キマシたわー

●●●:そんなことよりテトリスは大丈夫か?


「そうだ、そうだ、なんとかブロック消さないと、また負けちゃう!」


 いろはは気を取り直すと、テトリスに向き合う。

 Zテトラミノを左側に落とすと、1列を消した。次のJテトラミノは右側に重ね、Sテトラミノを持て余すが、左側に重ねる。隙間ができてしまうが、もうほかに手はなかった。

 続いてのJテトラミノは先ほどのSテトラミノと噛ませる。Sテトラミノが現れるがもう置く場所がない。仕方なくホールドするが、開放したLテトラミノも配置する場所はない。やむを得ず、棒待ちだった3マスの隙間にぶち込み、1マス分の隙間を残す。


「これは苦しい状況だよ! 次に来るの棒だけど、ほんと遅いのよ!」


◇◇◇:諦めるなよ

■■■:まだある! まだある!


 テトリスは最終局面に来ていた。残りのプレイヤーはいろはを含めても2人だ。多対多の勝負とは異なり、1対1の勝負ではもはや漁夫の利はありえない。純粋な実力勝負となる。

 いろはに技を仕掛ける余裕などなく、ただ目の前のブロックを消していくことしかできない。敵がどんな状況かはわからないが、耐久戦の様相を呈していた。

 どちらかが破綻するまで戦いは続く。それは果たして敵なのか、それともいろはなのか。


 Iテトラミノでひとまず2列分を消した。隙間は多いが四の五の言っている場合ではなかった。とにかく消すしかない。

 次いで、Zテトラミノは上手く左側に噛ませ、Lテトラミノも倒して無理なく配置した。ここでSテトラミノを開放、剥き出しになった隙間にきっちり嵌め、1列を消す。ここでJテトラミノが出現し、これでも1列消した。着実にブロックが減ってきていた。


「ああ、じれったい!」


「落ち着いて、いろは。この世界のみんな、応援しているのよ」


 一度デレたからか、ハスターもいろはを応援している。


「そうだよね。絶対に勝つから!」


 Tテトラミノで1列を消す。しかし、同時に灰色ブロックの隙間を埋めることになった。

 いろはは心を落ち着かせることを意識しつつ、必要なテトラミノを配置していく。Tテトラミノは倒して、Sテトラミノの残骸と噛ませた。そして、Oテトラミノ! 始めた頃はお荷物にしか思えなかったが、ここで生きてくる。2マス分の隙間に嵌めて、1列が消え、灰色ブロックの隙間も露わとなった。


「これは行ける!」


 誰の叫びだっただろうか。この世界の神々、それに人々が皆、いろはの一挙一動に期待しているのだ。


 ホールドしていたIテトラミノを開放する。灰色ブロックの隙間に嵌め込み、一気に4列分が消え去った。

 Zテトラミノは隙間を埋めないように配置し、Lテトラミノで1列を消す。次の灰色ブロックの隙間を露出させた。


 その瞬間だった。

 最後の敵を倒した感覚がいろはに伝わってくる。そして、落ち続けていたテトラミノが、沈殿していたブロックが、光となって霧散していく。

 いろはは勝利していた。


○○〇:うおおおおお

◆◆◆:すげー

□□□:おめでとう!

●●●:88888888

◇◇◇:やるじゃん

■■■:この時を待ってたぞ!!!!


「や、やった……」


 いろはは勝利の感慨を短い言葉で発するので、精一杯だ。

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