第66話 燻ぶり続けるオロチさんはアンさんと出会います

 ハイレディンの兄、オロチは成人が近づきつつある中、自分がくすぶぶっているのを感じていた。その感覚自体が領主に搾取される人生を続けるだけの領民としては革新的なものだということを本人はまだ知らない。

 町にはミルドランドの兵士たちが増えていた。それは町が国境に近く、戦乱が近づいているのを物語るものであったが、荒くれ者の兵士たちが我がもの顔で町に跋扈ばっこしているのだ。兵士たちは皆高圧的に振る舞い、暴行事件をよく起こし、それでいて罪に問われることは少ない。

 そのことがオロチにとって不満であり、何もできない自分を不甲斐なく思っていた。


 ある時、オロチは町で女性が兵士にかどわかされそうになっている場面に出くわす。状況によっては野暮になってしまうのは承知で、オロチは声をかけた。


「嫌がってんなら放してやってくれないか」


 女性はオロチの存在に救いを見出したように、彼のもとに走っていく。オロチと兵士の間でしばしの間、バチバチとした空気が流れた。

 オロチはしょせん道場剣術とはいえ、それなりに腕に覚えがある。対して、兵士は訓練を全うしているとはいえ、実戦経験に乏しい。それぞれの自信が交錯し、兵士が引くことになった。

 女性はオロチに礼を言い、去っていく。


 問題はその後だ。

 プライドを傷つけられた兵士は仲間を集めてオロチの後を追っていた。オロチもそれに気づいている。しかし、もはや対処法はなかった。

 せめて家族に迷惑をかけないようにと人気のない場所へ進み、やがて森の中を歩いていた。

 そして、また女性の悲鳴を聞くことになった。


 思わずオロチが駆け寄ると、ミルドランド兵士数人がひとりの女性を襲っているところだった。

 女性の服装は胸元のはだけた煽情的なもので、いくつもの宝石がジャラジャラと絡みつくほどに数多くのアクセサリーでその体を着飾っていた。

 とはいえ、悲鳴を聞いた以上は女性が困っていることには間違いないはずだ。それに、この兵士は自分が招き寄せたはずなのである。


「お前ら、嫌がる女に暴行を働くなら、この俺が相手するぞ」


 剣を抜き、彼らの前に躍り出た。しかし、この時点で多勢に無勢である。一対一ならまだしも、多数を相手にする自信も実力も、この時点のオロチにはあるはずもなかった。

 オロチは迫りくるミルドランド兵士の剣を払いのけ、その首に剣を突きつける。そのつもりであった。

 だが、敵は複数である。反対に残った兵士たちによって、その剣撃がオロチを襲う。そう思われた。

 しかし、オロチの目に舞い込んできたのは、その首をことごとく落としていく兵士たちの姿であった。


「ふっふっふ、あんた、なかなかやるじゃん」


 その厚化粧の美女はそう言って笑った。

 オロチが助けようとした女性は圧倒的な強者であった。助けを乞うような悲鳴を上げ、被害者を装いながらも、羽振りのいいミルドランド兵士たちの財産を狙う悪党だったのだ。


「私はアン。このままなら、あんたも兵士を殺した実行犯にされるんじゃないか。どうせなら、私と来る気はないかい?」


アンの首元にジャラジャラと飾り付けられたネックレスのうち、真紅の宝石が赤く輝き始めていた。



○○〇:ここで回想のまた回想に入るのか

◆◆◆:オロチの過去はやってなかったからなー

□□□:民衆を啓蒙する前に、自力で啓蒙しかけていたのね

●●●:ほとんど忘れかけだけど、アン出てくるのね

◇◇◇:アンはいろはが最初に会った空賊だったっけ


「オロチさんの回想になりましたねー。アンさんも出てきたし、これから核心的な部分に進んでいくのかなあ……」

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