第104話 集めよう、特異細胞

 岩崎はツルギやいろはたち、それにミンを見送った後、廃病院のみ周りを開始した。ハンターたちは特異点アンタッチャブルの襲撃で破壊された場所の修理をしている。その様子を見て回らなければならないし、不足している物資があれば調達することを考えなくてはいけない。

 岩崎が歩くと、その足を追うようにバイオ犬のジェイムズがついて回っていく。


 そんな中、加藤の姿を見かけた。特異点の吐き出した鉄柱に対し、ハンマーとノミを叩き込んでいる。

 その姿に不審なものを感じた岩崎は彼女に声をかけた。


「それ、何やってるんだ?」


「この鉄柱から細胞を取り出せないか、調べてるのよ」


 その答えは不可解だが、加藤が不可解なことを言うのはいつも通りのことなので、気にしないでおく。

 岩崎は函田と合流し、修理箇所を見回る。不足している物資を把握した函田は青槻を連れて、物資調達に出かけていった。


 少し落ち着いたと思い、岩崎はジェイムズを連れて周辺の散歩に出かけた。すると、また加藤がいる。

 その場所に赤い血だまりのようなものがそこかしこにあった。


「加藤、また会ったな。何やってる?」


「この血だまりから細胞を取り出せないか、調べてるのよ」


「これって特異点の血じゃないのか?」


「そうね」


 加藤はそう言うとフフフと笑った。岩崎はその笑顔に不審なものを感じるが、加藤が不審なのは今に始まったことではなかった。

 大して気にも留めず、岩崎はジェイムズとともに川まで行きついた。その辺に落ちていた棒を拾うと、投げた棒をジェイムズに取りに行かせて、しばらくの時を過ごした。


 いつの間にか夕方近くになっていた。ジェイムズとともに元来た道を引き返す。

 病院が近づいたころ、また加藤を見かけた。周囲に散らばるガラス片のような金属片のようなきらめくものを集めている。


「今日はよく会うな。何やってるんだ?」


「特異点の鱗が降ってきたみたいね。それを集めているのよ」


「細胞を取り出せないか、調べているのか?」


「そうよ。よくわかったわね」


 その物言いは不穏当だったが、加藤が不穏当なのはいつものことだった。

 しかし、岩崎はついに看過できなくなり、さらに質問する。


「そんな細胞を集めてどうするんだ?」


 その問いかけに加藤は意外そうな顔をする。そして、またフフフという含みのありそうな笑いをした。


「決まっているじゃない、作るのよ。クローンを……」


 まさか、特異点のクローンを生み出そうというのだろうか。岩崎はゾッとした感覚を抱く。

 だが、本当にそんなことが可能なのだろうか。こんな文明の失われた場所で。

 岩崎はその言葉が本気なのか冗談なのか捉えきれず、ただただ困惑していた。



○○〇:岩崎、暇なんかね

◆◆◆:リーダー引き継いだばかりだから忙しいはずだけど

□□□:犬の散歩は立派な役割だから……

●●●:加藤のつくろうとしてるクローンってヤバない?

◇◇◇:前みたいに強敵を量産する気なのかな

■■■:止めに戻ろうぜ


「うーん、加藤さん、何が目的なのかな? 悪いことを考えているんじゃなきゃいいけど……。

 岩崎さんとジェイムズはすっかり仲良しだね。私もワンコと遊びに行きたいな」

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