中世篇

旅立ちの章

第2話 私が世界を救うテトラー?

「んーんー。なに、ここ?


 目が覚めました。私の周りには大勢の人々が集まっています。

 近くにいるのは白髪に白い髭を腰まで伸ばした老人です。途中で折れた灰色のとんがり帽子、灰色のローブ。まさしく、魔法使いの老人というべき姿でしょう。

 その隣には立派な身なりのいい青年に女の人、あとは兵士? 武装した人たちがずらりと並んでいます。彼らはいったい!?


 え、えーと、これはどういうことかな? 私、どうしたんだっけ?

 確かブロックが空から落ちてきて、死んだ? えっ、そんなことある!? 夢だよね?」


 いろはが一息に実況する。しかし、そんな必要もなかった。そこは配信画面でもなければ、いろはの部屋ですらない。

 現実に大勢の人々に囲われた場所であった。近くにいるのは老人、それに身なりのいい――とはいえ、妙に古めかし服装をした貴人たち。そして、大勢を占めるのは、甲冑に身を包んだ中世の騎士や兵士たちのような人々であった。


 そして、何より意識するべきは、いろは自身である。銀色のエアリーミディに、蛇のようなものが混じる。赤い目に冷めた視線、高飛車な目つき。シスターのような紺色のローブに、司祭を思わせる神秘的な直垂。

 彼女が作ったアバターとまったく同じ姿であった。


「これ、どういうこと。私が九頭龍坂いろはと同じ姿になっちゃったのかな」


 そうつぶやくが、周囲は考える時間を待ってはくれなかった。


「お主は九頭龍坂いろはかな? Vtuberにして、ゲーム実況者、そしてテトラーなる者と聞いておる」


 魔法使いのような老人が声をかけてきた。


「えっ!? 確かに、Vtuberだし、ゲーム実況もやってます。けど、テトラー? そんなに言うほどテトリスやってないんですけど!

 ていうか、テトラーって何? テトリスやる人のこと? ていうか、その呼び方でいいの?」


 いろははその言葉に困惑するが、むしろ魔法使いはその言葉に安心したかのような表情をする。


「間違いないようじゃ。よかった、これでこの世界は救われる」


 魔法使いの老人は安堵したようにため息をつく。

 しかし、その直後に慌てたように騒ぎ立てた。


「これは失礼した! 我らの名乗りが遅れたようじゃ!

 わしは魔法使い、灰色のゲルトウォルフじゃ!


 そして、こちらの色白の青年がファビアンなるもの。ゴットフリート王国の若き国王じゃ。その隣がその奥方、エルメンヒルデ、剣持つ乙女とあだ名された女傑なのじゃぞ」


 ゲルトウォルフは次々に近くにいる面々の紹介を続けた。


「…………………………………………」


 錚々そうそうたる面々のようだったが、いろはには何のこっちゃわからない。

 なんとなく聞き流すしかなく、何も記憶に残らなかった。


 だが、次の言葉はさすがにいろはの胸に響いてきた。


「我らの世界はテトラミノによって滅ぼされようとしておる。

 それを救えるのはいろは殿だけなのじゃ!」

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