現代篇

第1話 テトリスはじめます

「えーと、始まってるかな? 始まってるよね。


 初めましての方は初めまして。そうでない方はいつもありがとう!

 パズルゲームの配信は初めてでドキドキしている、触手系Vtuber、九頭龍坂くずりゅうざかいろはです。よろしくお願いします。

 そう言いながら触手をクネクネさせます。


 なんかねー、テトリスやることになっちゃったんだよねー。

 やったことはあるといえばあるんだけど、だいーぶ昔なので、やり方は全然わかってないです。

 まあ、今回は私が成長するところを見てもらえればって感じですかねー」


 九頭龍坂いろは一気にまくし立てつつ、息を整える。そして、モニターの前に用意していたお茶を口に含んだ。

 配信画面の右下には彼女のデザインしたキャラクターがリスナーに向かって手を振り、愛想を振りまいていた。


 肩までの伸びた銀髪のエアリーミディだが、その髪の一部がひとまとまりになっており、タコやイカの触手のような形状をしている。その一本一本が生き物のようにうねっている。

 瞳は赤色で、目つきは吊り目で切れ長、少し高飛車な性格を表している。服装はこの一つ前の配信でやっていたオンラインRPGのヒーラー役の時の衣装をそのまま使用しており、シスターのような、神官のような、独特なものになっている。


 いろはは喋りながらも、配信に発言されたコメントに目を向ける。


◆◆◆:こんばんは!

□□□:いろはちゃん、きったよー

●●●:テトリス楽しんでくれ

◇◇◇:こんろは

■■■:むずかしいぞ いろはにできんのか


「みんな、こんばんは!

 ふっふっふー。難しいのか―。

 私だったら簡単に攻略しちゃうかもよー。


 えーと、これかな? へー、オンライン対戦でテトリスやるんだね!

 なんか面白いなあ。これって何十人かで対戦するってこと? おっ、どんどん人が集まってる!

 なんか、ほかの対戦ゲームより集まりいいみたいだね。すぐに人が集まるってすごいなー。


 いよいよ、勝負だね。私の実力、見せてあげるよ」


 右下に表示されたいろはの分身が拳を上げて強く握り、力こぶを作るような挙動をする。腕と連動して髪のような触手も一斉に同じ動きをする。いろはが苦労して作った渾身のモーションだった。

 ゲーム画面は開始準備中の表示が消え、ゲーム開始のSEが鳴り、ロシア民謡のような曲が流れる。それと同時にブロックが出現した。凸型をしたブロック、Tテトラミノと呼ばれるものだ。


「え、えーと、これはどうすればいいわけ?

 あ、回転した! 回転する! で、どうするの?」


 いろははブロックを一回転させ、結局、出てきた時と同じように凸の状態にしたまま、画面の左端に置いた。

 次いで現れたのは四角いブロック、Oテトラミノだ。これは回転させても形が変わらない。右端に置くことにした。

 そして、四角が少しズレた形状のSテトラミノが落ちて来る。


「こんなのどう使えばいいのよ? もう無理じゃん。隙間できちゃうよ。

 あ、回転! 回転させればいいのか」


 S字を回転させ、凸と噛み合うように落下させる。

 次いでL字型のLテトラミノ、これはもうそのまま落下させた。


○○〇:さっきまでの自信は何だったのか

◆◆◆:まあ、これから覚えていけばいいから

□□□:落とすのおっそ

●●●:初心者だからね

◇◇◇:がんばえー

■■■:へたすぎw


「なっにおー! これから上手なところ見せるんだから!

 えーと、青? あっ、これピッタリはまるよ」


 落ちてきたのは先ほどのL字と似ているが逆の形をしたブロック、Jテトラミノだった。

 これを隙間に落とすと、ラインが一つ埋まった。1ライン揃ったことにより、ラインが消え去る。


「なにこれ、めっちゃ上手くない!? これすごいでしょ、天才でしょ。


 えー、なんかコメント冷たくなぁい? ちょっとくらい持ち上げてくれてもいいでしょ……」


 次に落ちてきたのはSテトラミノを反転した形状のブロック、Zテトラミノだ。これは先ほどラインが消えた影響で隙間になった場所にぴったり入った。

 そして落ちて来るのが棒状のブロック、Iテトラミノ。状況によっては渇望してやまないブロックだが、今は必要性がまったくない。ちなみに、本作に登場する7種類のテトラミノはこれで出そろった。キャスティング完了。


「なんか、邪魔だなー。どこにもはまらない……。

 あ、この棒は立たせればいいか」


○○〇:エッ

◆◆◆:エッッ

□□□:下ネタやめてください(><)

●●●:えっど


「いやいや、別に変な意味で言っているわけじゃないから!」


 棒ブロックは回転させて隙間に配置する。また1ラインが揃い、消滅する。


 こうして、いろはは初心者ながらにブロックを消し、必死にテトリスをプレイしていた。が、異変はこの直後に起きる。

 突如、灰色のブロックが6段せり上がり、画面を埋め尽くした。


「え!? なんなの!? なんでこんなことに?」


○○〇:敵の攻撃だ!

◆◆◆:対戦している別のプレイヤーからの攻撃だよ

□□□:ろはちゃん、どんどん消していけばいいからね

●●●:カモだと思われたかなー

◇◇◇:がんばって!


「うぅ、ちょっと前だったら棒があったのに……」


 項垂うなだれながらもブロックを操作するいろは。今操っているのはTテトロミノだ。

 これは回転させて右端に置く。Jブロックに上手くはまった。谷のような形だが、隙間もなく綺麗な状態といえる。

 次いで来るのはSテトラミノ。上手くはまる場所はない。それと同時に、別プレイヤーからの攻撃が迫っていることを示す赤いオーラが出現したが、彼女はそれに気づくことができない。

 苦肉の策で左側に配置する。1マスの隙間が生まれてしまう。それと同時に灰色のブロックがせり上がった。今度は8段だ。


「ええぇー! なんで? いきなりピンチじゃない!」


 いろはが悲鳴を上げるが、それで状況が好転するわけはない。

 落ちてきたLテトラミノを右往左往させながら、ブロックを下に回転させ、どうにか1ラインを消す。だが、Lテトラミノは2ブロック分が消えずに残り、よりにもよって灰色のブロックの隙間を埋めてしまった。

 そして、落ちてきたのは四角、Oテトラミノであった。


「最悪! いらないよ、お前なんてさー!」


 涙目になりながらも隙間を埋めないように四角を中央に配置する。

 次はZブロック。これは右側に入る隙間があった。

 だが、次に来たLテトラミノをついそのまま落としてしまう。四角に乗っかったLはフィールドの最上段を越えた。

 ゲームオーバーの絶望的なSEが鳴る。そしてエフェクトとともにブロックが下から順に消えていった。

 無情にも順位が表示されるが、下から数えた方が早い惨憺たるものであった。


○○〇:まあ、しゃーない

◆◆◆:狙われたかな

□□□:弱w

●●●:まずはホールドを覚えよう

◇◇◇:ネクスト見ないと

■■■:遅すぎるのがな


「ま、まあ、最初はねー。こんなものだよねー。

 ホールド? なにそれ? ガチ勢? 有識者の方からいろいろ指摘来てるみたいね。でも、ちょっとずつ覚えていくしかないからさー」


 いろはがコメントの指摘に従い、スマホを手にしてホールドについて調べようとした時、突如、地響きが鳴り渡った。わずかな時間であったが、地面が揺れる。


○○〇:あれ? 地震?

◆◆◆:大きいぞ

□□□:何かあったの?

●●●:ろはちゃん、無事?

◇◇◇:みんな気をつけて

■■■:おい、空見て見ろ おかしいぞ!


「みんなー、大丈夫? こっちも地震大きかったよ。

 空見ろ? ちょっと外見てみるね」


 いろははコメントに従い、ヘッドセットを外すと、窓際に急いだ。

 窓を開ける。すると、目線の先に巨大なブロックが鎮座していた。そこには、学校が、スーパーが、そして誰かの住居である家があったはずであった。

 なんとなく、ブロックはテトラミノのようにも見える。いや、それはゲームのやり過ぎか、と否定する。

 だが、空を見ると巨大なブロックが空中に浮遊する、あるいは落下する様子が見て取れた。その形状はまさしくテトラミノだ。


 突如、いろはの住む家が大きな影で覆われた。

 恐る恐る上空を見た。巨大なブロックが天空から落下してきているのがわかった。

 それが地面に落ちた瞬間、いろはの意識は途絶えた。

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