第120話 力がみなぎっている!

 ニコタマ方面からジープが現れた。ハンターチームの補給部隊である。

 補給部隊は素早くジープを乗り換え、元々行軍部隊に追従していたジープに乗ってミズノクチへと帰っていった。残されたジープにハンターたちが乗り込み、必要な弾薬を補給していく。それは優先して戦車隊に対して行われた。


「この調子で弾薬を消費していくとやべーな。基地に残っている分まで全部使い切りそうだぜ」


 岩崎が嘆いていた。彼はこのまま世界が破滅するなんて、欠片ほどにも思っていないのだ。


「カワサキのハンターグループ。話には聞いていたけど、見事な組織力ね。

 ゴテンバの自衛隊基地だったら案内できるけど、よかったらどうかしら?」


 普段はモトクロスバイクで哨戒しょうかいしている榊だが、今はバイクの給油と弾薬の補給のために近くで作業していた。


「ゴテンバかあ。さすがに日帰りは無理だな。ちょっとした旅行になる」


 榊の提案を受け入れつつ、岩崎は簡単なことではないと感じていた。

 だが、そばで聞いていた青槻あおつきは目を輝かせる。


「いいねぇ! 私、絶対その役やるよ!」


「おいおい、函田もいねぇんだ。お前は防衛の要だぞ。さすがにそんな役目はさせられねぇ」


「ええぇーっ!」


 三人の会話は和やかに進んでいた。そのことに、いろはは違和感を抱く。ハンターチームにとっては函田が、榊にとっては綾瀬と春日が亡くなって、時間もたっていないのだ。なんで、そんなに楽し気に会話ができるのだろうか。

 これは現代社会を生きていたいろはにとっては当然の疑問だったが、この世界ではそうではない。親しい人が死んでいくことなんて日常茶飯事なのだ。だから、岩崎も青槻も榊も必要以上に悲しまないし、後にも引かない。これはこの時代に生きる人々なら誰しも持っている精神的な強さであった。


「さあ、もう負ける気しないよ! どんな敵でもやってきんしゃい!」


 なぜか九州弁が出ながらも、いろはは高らかに宣言する。


○○〇:なんで博多弁?

◆◆◆:敵も強くなってるんだぜ


 いろはは軽快な勢いで次々にブロックを消していく。もう、Tスピンにこだわるよりも、対処をしやすくした方がいい。無意識のうちに、そんな判断をしていた。

 テトリスも行軍も危なげなく、進んでいるかのように思えた。


 ズドーン


 強烈な振動が周囲に鳴り響いた。

 岩石のような巨大な開きし者が降り注いできている。そのものどもは落下すると、岩のように丸まった体を開いて、四肢を露わにし、その巨体を持って戦車隊に迫ってきた。

 戦車隊は幾度となく砲撃し、岩石のような開きし者を破壊するが、いかんせん数が多く、その耐久性も高い。一体を撃破するだけでも多数の時間と多数の弾薬を消費する。事態は次第に不利に傾き始めていた。


「こうなったら、この青槻さんの新兵器、使うしかないね!」


 そういうと砲塔に彼女謹製の弾薬を込め、発射した。見事に岩石人間に命中し、そして岩石人間はドロドロに溶けた。


「名付けてオキシジェンデストロイヤーよ! 普通の弾薬に、よくわからない鉱石をたくさん混ぜたんだから!」


 その言葉は不安になるものだったが、開きし者を倒したのも事実だった。

 しかし、その次に撃つ弾薬は岩石人間にはまるで効かず、やがて青槻とピンク色の戦車は追い詰められていく。


 ミシッ


 岩石人間の打撃が戦車に入り、戦車はミシミシと音を立てるように破壊される。それでも、青槻は戦車から逃げ出すようなことはしない。直前に見た函田の惨状がまだ瞼に残っているからかもしれない。

 辺りもしない砲弾を何度も撃ち、やがてへこまされていく戦車とともに圧し潰されていった。


「青槻っ!」


 岩崎が彼女の名を呼ぶが、もはやむなしいものだった。ポップなカラーの戦車は無残に押し潰され、青槻もまた肉の塊になっている。


 一方、テトリスの状況も悪化していた。敵の攻撃が入り、6段もの灰色ブロックが出現する。灰色ブロックは、隙間がテトラミノで埋まってしまっており、すぐには消すことができない。

 間の悪いことに、いろははTテトラミノの置き場に迷い、縦置きしたため、1マス分の空白ができ、灰色ブロックを塞ぐテトラミノを消すことすらできなくなってしまった。


「こ、これはまずい状況だよぉ……」


 さらに悪いことは続く。岩石人間の群れは岩崎の下へ向かっていた。かつて函田が乗っていた戦車から放たれる砲弾が岩石人間の何体かを破壊するが、それでも彼の前に表れるものの数は多い。

 岩崎は数少ない地上専用の装備で反撃を行い、バイオ犬のジェイムズも果敢に立ち向かう。しかし、さすがに岩石人間の装甲はそうそう貫くことができなかった。


「え? なに? 私に向かってきてるの?」


 いろはが悲鳴を上げる。その言葉通りに岩石人間たちは彼女に向けて直進していた。

 彼女の前に立つと、岩石人間たちが腕を振り上げる。さすがのいろはもこれには死を予感した。


 だが、振り落とされた岩石人間たちの拳がいろはの下に届くことはない。

 金色に輝く縄によって、岩石人間たちの動きは止められていた。そして、それを生み出しているのは、榊であった。


「榊……さん? 何をどうしたの?」

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