第108話 深町さんを助けなきゃ!

「兄貴!」


 双眼鏡を覗いていたシロウの絶叫が響いた。

 黒い塊のような特異点アンタッチャブル吐息ブレスをもう何度受けたのだろう。頑として動かずにブロックをホールドしていた深町が、もはやふらふらとどうにか飛んでいるという状況である。


 トレーラーを深町の下へ急がしながらも、荷台からは電磁投射砲レールガンを開放し、幾度となく特異点への攻撃を続けていた。

 しかし、せいぜい牽制して動きを止めるのがせいぜいで、とても追い払うことはできそうにない。


「昨日よりも明らかに頑強タフになっているな。せめて、近づいて深町から引き離さなければ……」


 ツルギは運転しながら焦りの声を漏らす。

 深町と特異点の争いの地点に近づくにつれて、道はどんどん荒れ果てていく。この辺りには集落もなければ人の通りもないのだ。

 やがて道を探すことを諦めたツルギは運転をシロウに代わり、自らは段平で瓦礫を砕き、自ら道を切り開いていく。だが、その歩みは緊急事態に遭ってあまりにも遅々としたものだった。

 角松は電磁投射砲の頻度を上げ、特異点の意識を逸らそうと必死になるがその効果も薄い。さらに、弾丸の数も次第に心もとないものになっていく。


 誰もがその表情に絶望の色が濃くなっていった。いろはは左手に嵌められた指輪の青宝石を輝かせ、皆の心を鼓舞する。しかし、それも必死の思いを強くさせるだけで、希望を抱かせるようなことにはならない。


 そんな時だった。西の空から飛来するものがあった。

 それは人のようでもあり、蟲のようでもあった。すなわち、開きし者のはずであったが、真っすぐに特異点に突撃していく。特異点に取ってまったくの予想外の攻撃であり、完全に不意を突いていた。その一撃により特異点を弾き飛ばし、地面にまで叩きつけた。


「あれは……なんだ?」


 思わずツルギもそのあまりの事態に呆然とする。


○○〇:蟲の姿の開きし者って……

◆◆◆:あいつか!


「もしかして、綾瀬さん?!」


 いろははトレーラーの助手席からその様子を見ていたが、思わずその名を叫んだ。それはテトラミノの落下地点に近づいていたはずの男の名である。遥か遠くの地から旅をしてきた綾瀬とここで出会うとは驚きであった。


「知っているのか!? そいつは味方か?」


「う、うん。味方……のはず」


 いろはは少し逡巡しながら答える。いろはにとっても、綾瀬がどのような存在なのか、どんな思惑でいるのか、よくわかっていない。


 一瞬、地に伏していた特異点だが、すぐさま立ち上がると、怒りに燃えるかのように咆哮した。その甲高くもおぞましい怪鳥のような鳴き声に、皆は戦慄した。

 しかし、恐ろしいのは声だけではない。その声に呼応するように、海の中から、地の底から、瓦礫の狭間から、開きし者の群れが集まってきていたのだ。


□□□:特異点1体でホールドもできないのに群れが来るのか

●●●:これはピンチなんじゃないか

◇◇◇:ただでさえ戦力減ってるのに


「うへー、これはヤバいよ!!

 せめてハンターチームがいれば、心強いのに……」

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