第85話 運命が加速しています!

 ハンターチームのリーダーにして、元レスラーの徳さん。武器に頼らず、己の屈強な肉体のみを用いた技で怪物と戦い抜くおとこである。


 徳さんは怪物に組み付くと、拳でガンガンと殴りつけた。いや、よく見ると拳ではない。拳の隙間から栓抜きが出ており、その栓抜きで粘液上の肉体を持つ開きし者を殴りつけているのだ。

 栓抜きにより、怪物の身体はどんどん削れていくが、そうは言ってもサイズが小さい。効果が高いとは言い難かった。


「レスラーだって、凶器を使うことぐらいあるわい」


 栓抜きを捨てると、徳さんはその辺りに置かれていたパイプ椅子を掴み、ガンガンと開きし者を殴り始める。

 今度はより大きく粘液上の身体を削っていく。だが、開きし者も大人しくはしていない。全身から体液を流し始めたと思うと、パイプ椅子は無残にも溶け始めた。

 さらに、その体液を周囲にまき散らす。その様子に気づき、咄嗟に背後に跳んだものの、徳さんの足に体液がかかり、足はどろりと溶け始め、肉を突き抜けて骨を露出させた。


「ちっ」


 パイプ椅子の破片を手放し、徳さんは何やら液体を取り出す。それをグビグビと飲み込むと、ブハァーっと一息に吐き出した。口元には点火したライターがあり、炎が巻き起こった。

 その炎により開きし者の粘液上の肉体が燃え上がり、焼き焦がしていく。

 別に口に含まずにそのまま点火すればいい、そんなものではない。徳さんの肺活量を介して吹き付けるからこそ、広範囲に炎が巻き起こり、怪物を燃え上がらせるほどの火力を得ているのだ。きっと。


 開きし者の肉体は弾丸をモノともしないほど柔軟であったが、炎には脆く焼き尽くされていく。だが、そう一筋縄でいくものではなかった。

 その肉体が収縮していくことに、徳さんは気付いた。そして、自分の背後には岩崎とミンがいる。徳さんは逃げることよりも守ることを優先した。彼は開きし者に駆け寄り、その収縮した姿を己の肉体で包み込んだ。


 パンッ


 破裂音が鳴り、開きし者の身体が四散していく。だが、徳さんの鋼のような筋肉で覆われており、その破壊はその場で留まった。

 残されたのは、腹部を中心に肉体がどろりと溶け、ほとんどの臓器を失った徳さんの姿である。


「徳さん!」


 岩崎と鳴が徳さんに駆け寄った。

 徳さんはハッハハと力なく笑う。本人としては豪快に笑ったつもりだったのだろうが、もはやその体力が残されてはいない。


「こうなるのが俺の運命のようだ。

 岩崎、俺の跡はお前が継いで、お前がハンターグループのみんなを導いてくれ。鳴、お前はこいつを助けてやってくれ」


 徳さんは最期の力を振り絞って、岩崎を後継者に指名した。

 その姿に岩崎と鳴が号泣する。


「そんな、徳さーん!!」


 ふたりが叫んだ時には、すでに徳さんは事切れていた。

 岩崎はその亡骸に誓う。


「徳さん、あんたの死を悲しんでばかりもいられない。俺はあんたの死を乗り越えて、みんなを導ける立派なリーダーになってみせるぜ」


 覚悟を決めた岩崎は窓を眺める。棒状のブロックは先ほど見た時よりも地面に近づいているように見えた。


「気になるのは、あれだな」


 岩崎がそうつぶやいた瞬間、ブロックで爆発が起き、その進む方向が大きく変わった。何者かがブロックを砲撃しているらしい。



○○〇:徳さん、もう死んじゃったのか

◆◆◆:いいキャラだったのに

□□□:ていうか、徳さんの死に際あっさり過ぎないか

●●●:もう三回目だから慣れたんだろ

◇◇◇:ドラーケも強くなったってことか

■■■:最後にテトラミノを攻撃したのは誰だ?


「徳さん!! 面白い人だったのにね。

 でも、確かに死に際あっさりだった! ドラーケくんやハイレディンさんの経験を経て、岩崎さんも成長してるってことなのかな? うん、いいこと……だよね。徳さんも運命だと受け入れてるみたいだし。


 それに、最後のブロックへの砲撃、あれはいったい誰がやったの!?」

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