第86話 目覚めと崩壊とテトラミノ

「がんばって、可愛く作ったアバターなのに、なんなの、あの言い草!

 というか、あの像は何なの? まさか、私があの像に転生するとか、そんなことないよね!」


 いろはの声がかつて食品売り場であったダンジョンで響いていた。

 気がつくと、いろはの目の前には長身で体格ガタイのいい――ツルギがいた。そのツルギも驚いているのか、いろはの頬に触れたまま、硬直していた。


「あんたがテトラ―のいろはか。俺は――」


「ツルギさん!」


 ツルギが一歩下がり、自己紹介を始めようとしたとき、いろはの声がそれを阻んだ。

 自分がどこにいるのかもわからない状態でいたのに、気づいたら地下迷宮――しぶちかにおり、しかも、ツルギの精悍な顔が目の前にあるのだ。思わず声が出ていた。


「え、あ、いや、ここで!?」


 この場で、この瞬間に、いきなり転生を果たすのか。その驚きと焦りを口にしたはずだったが、言葉にまとめられなかった。


「女神……というのは本当なのか。なんでもお見通しというわけかい」


 ツルギは自分の言葉を先回りされ、いろはの力に感嘆の念を抱く。


「ちょっと、お兄ちゃん。どうして来ないのよ?!」


 そんな中、先に進んでいた咲菜さなが戻ってきていた。


「って、あれ、もしかして、いろはさん?

 もう女神像じゃなくなっているの?」


 咲菜もまたいろはの存在にびっくりした声を上げる。

 その時であった。地響きが鳴り、地面が揺れ始めた。


「えぇっ、地震なの?」


 しかし、それは地震どころではなかった。天井も崩壊し、瓦礫として落ちてきている。


「役目を果たしたダンジョンが崩れようとしているのだ。急ぐぞ!」


 そう言うと、ツルギはいろはを抱きかかえると、落ちてくる瓦礫に飛び乗ると、さらに跳躍し上層へと向かう。咲菜も同じように俊敏な動きで昇ってきた。

 やがて、三人は崩れゆくしぶちかを越えて、地上へと戻ってきていた。


 いろははツルギの元を離れて、地面に座り込む。


「いやいや、いきなりなんなの? 私が起きたら崩れるダンジョンって迷惑なんですけど!」


 ひとり文句を言いつつ、景色を眺める。周囲には建物が多くあり、天まで続くと思える高層ビルもあった。だが、そのどれもが朽ち果て、破壊されており、もはや世界は終わったのだ、そう思わせる。

 いろはは荒廃した世界にやって来たのだ。そして、もうひとつ発見があった。


「あ、あれ、テトラミノ! もう落ちてきているんだ!」


 それは岩崎が見つけたものと同じ、Iテトラミノである。


「もう現れたか……。いろは、あれをどうすればいいんだ?」


「あれは強い衝撃を与えて、位置を操作できるようにしなきゃいけないの! でも、こんな世界でそんなことできる!?」


 いろはの言葉にツルギが考え込む。そして、すぐに顔を上げると、道を示した。


「この近くで戦車を奪って開きし者の掃討をやってる奴らがいる。そいつらの力を借りよう」


「そのためにはパトカーのとこまで戻らなきゃよ」


 ふたりの言葉によって行動は決まった。しかし、いろはには疑問が浮かんでいた。


「開きし者ってなに?」

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