迎撃の章

第87話 ハンターチーム第二グループ登場です

「ね、私に任せておけばいいわけよ」


 巨大な開きし者の死体がその場に横たわっていた。

 その巨体に砲身を向け、砲口から煙を出している戦車から、ひとりの少女が顔を出して得意満面に笑っている。


 彼女の髪は真ピンクのドギツイ色に染め上げれており、それを左右ふたつにまとめたツインテールに縛られていた。しかし、この荒廃した時代ではその手入れもままならないのか、どこか色褪せたような、草臥れた印象を受ける。

 少女の乗る戦車もまた彼女の髪色と同じくピンクを基調にポップなカラーリングが施されており、目立つ場所に可愛らしいキャラクターのイラストが描かれていた。戦車後部に設置されたミサイルポッドも物々しくはあるが、やはりビビッドカラーの派手な装いになっている。


「えぇー、いったい、何発の不発弾があったと思ってるんだよ、青槻あおつき


 奇抜なファッションの少女――青槻の乗る車両から少し後方に、もう一台の戦車があった。こちらは地味な色、というか地面に合わせて迷彩色となっているサンドカラーでペイントされている。主砲のほかに複数の機銃で武装されている。

 顔を出したのは気弱な印象を受ける青年だった。緑色のツナギにヘルメットと職工として相応しい服装をしているが、それでも全身から漂うヘタレな雰囲気は隠しきれていない。


「なによ、函田はこた。砲弾だって数に限りがあるんだから、なくなったら、また自衛隊基地か米軍基地を探さなきゃじゃない! そうならないために、私が作ってあげてるんでしょ」


 青槻は頬を膨らませ、眉間にしわを寄せる。あからさまにムスッとした表情だったが、彼女はまるで演技をするように表情を作る癖があった。

 気弱な青年――函田は、砲弾を作る材料だって有限なんだけどな、と思うものの、その言葉を呑み込んだ。


 そんな言い合いをする彼らの背後から、ひとりの女性がつかつかと近づき、そして通り過ぎて巨人の元へと進んでいった。

 白衣に身を包み、その眼鏡の奥に性格のキツさを物語るような鋭い眼差しをしたその女性は、手元に抱えた巨大な注射器のような器具で巨人の体液を採取する。


「加藤さん、またやってるけど、あれなに?」


 異様な光景を目にした青槻は顔をしかめて、函田にきく。


「僕にだってわからないよ」


 函田はそう言いつつも、加藤の行動には不審なものを感じていた。

 彼女はしばらく前にハンターチームのいる廃病院に現れ、大量の食料や武器弾薬を提供することと引き換えに、開きし者退治についてくるようになったのだ。そして死んだ開きし者を調査し、その身体の一部を収集している。

 そんなことをしてなんになるのか、それはチームの誰にも予測のつかないことであった。


 そんな中、あまり見ない車両が近づいてきていた。くすんでいるが、はっきりと分かれた黒と白のカラーリング、屋根には赤いランプが乗っかっている。パトカーだ。

 加藤はその車体を目にすると、一瞬ピクッと反応したが、すぐにいつもの飄々とした表情に戻る。


「あ、あれ、ツルギさんかな」


 函田が青槻に尋ねた。


「この辺でパトカーに乗っているの、ツルギさんだけだからね」


 そう言うと、青槻は戦車から体を乗り出して両手を振った。

 果たしてそのパトカーの乗り手はツルギであり、妹の咲菜さなも一緒だった。だが、もうひとりは銀髪が触手のようにうねったような奇妙な髪型だかカツラだかをしており、司祭か修道女のような奇妙なコスプレをした女性であった。

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