第88話 人類の進化って、もう頭打ちなの!?


「開きし者のことはわからないのかー」


 いろはの質問にふたりはポカンとしていたが、しばらくして咲菜さなが口を開いた。


「いろはってテトリスの女神だから、開きし者とは無関係なのね」


 咲菜はなにか納得したように頷く。

 ツルギはしばし思案しているようだったが、言葉を発し始めた。


「俺たちにも本当のところはわからないのさ」


 生物は環境に適応する能力がある、という考え方がある。実際には、適応できない生物は死に、やがては絶滅することになろう。そして、絶滅した生物が残した地位ニッチには別の生物が入ってくる。そうして、それぞれの立場を奪い合うことで生物は進化してきた。

 それに対し、人類は自らが適応するのではなく、自らに環境を適応させることを選んだ。自分たちを霊長と呼び、地球上のあらゆる地域を制覇し、支配した。少なくとも、本人たちはそう思っていた。

 実際には支配し切れていない生物も多いのだが、彼らの生存に脅威となる生物はもはや存在しない。


 しかし、繁栄が永遠に続くことはない。

 人類は採取できる資源のすべてを使い切り、僅かに残ったものを奪い合ううちに戦争を起こした。使うべきでない兵器を使用し、人類のほとんどが死んだ。文明は破壊しつくされ、残った数少ない人間たちでは復興する力も維持する力もなかった。

 国家という集団による数の力によって適応させていた環境は、もはや人類の味方ではなくなっていた。こうなると人類は脆い。環境に適応する能力を放棄した生命は絶滅するしかないのだ。


 だが、異変があった。突然変異するものが現れたのだ。それも、先天的にではなく、後天的にである。

 なぜ、そのような奇跡が起きたのだろう。万物の霊長たる人類としてのプライドがせる業なのだろうか。あるいは、進化の瀬戸際とはこのようなものなのかもしれない。人類にも解明できぬ生命の潮流というものがあるのだろう。


 そうした者たちは、いまだ環境に適応する術を持たぬ旧人類から、進化の道筋を開いた者「開きし者」と呼ばれることになる。しかし、開きし者は残された人類の脅威となった。残った僅かな住居を守るため、人類と開きし者の戦いが始まっていた。さらに、人類の中にも開きし者となるものがいる。身内にいつ怪物が生まれるかわからない。

 そんな状況で人類の最終闘は行われているのである。


「人類がいつまで存続できるかわからない。

この話がどこまで正しいのかも、俺には判断できない。

 だが、いろは、あんたがテトラミノをどうにかしなきゃ、この世界のすべてが終わる。それだけは理解できちまっているんだ」


 ツルギはそう言って話を締め括った。


 いろははツルギの説明を聞いて考え込んだ。ほとんどのことがよくわからない。

 そして、小声で何者かに話しかける。


「ねぇ、みんな。今のわかった?」


 ○○〇:わかるだろ

 ◆◆◆:正直、全然わからなかった

 □□□:人類は滅んで、人類のその先の生物が「開きし者」ってことだな

 ●●●:絶滅しそうな人類が、絶滅させようとする開きし者と戦ってるってことか

 ◇◇◇:誰もが開きし者になる可能性があるってことだ

 ■■■:それ、怖いな


「えぇーっ、例えばツルギさんが怪物になるかもってこと!?

 怖すぎなんですけど!」


 つい、大声を出してしまった。

 それを聞いてツルギが苦笑いする。


「それだけ理解できていればいいさ」

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