第113話 忘れていた人との再会
「春日……」
榊の呟きはあまりに小さく、背中越しのいろはでさえもはっきりとは聞き取れないものだった。だが、泣き叫ぶのを我慢するかのような、その身体の震えは伝わってくる。
しかし、励ましの言葉を送ろうにも、いろはには言葉が出てこなかった。いろはは知っているのだ。春日がどうなったのかを。
哀しみを抱えつつ、それでも彼女たちの逃避行は続く。今もなお、追っては迫りつつあるのだ。
追いかけてきているのは、相変わらず俊足で走る四足獣のような開きし者、さらに飛行する開きし者まで現れており、逃げるのに限界も感じつつある。
「どこかで戦わなきゃいけないかもね……」
榊がいろはに声をかける。焦りと諦めの混ざった声であった。
「武器はあるの?」
彼女に自信がないことはわかったが、いろははせめて尋ねてみた。
榊はやはり絶望したような声を漏らす。
「機銃と拳銃、それに爆弾がいくつか……」
そうこうしているうちに、上空からけたたましい鳴き声が聞こえてきた。飛行する開きし者が追いついてきているのだ。しかも、その者どもは呼び合っているかのように、次第に数が集まってくる。
こうなると、もはやこちらから打って出るしかない。榊はバイクをUターンさせると四足獣の開きし者に向かい機銃を浴びせながら突進する。何体もの開きし者を撃ち倒すと、再び逃走ルートへと戻ってくる。多少は足止めできたかもしれないが、数を考えると焼石に水のようでしかない。
状況を打開しようとしたものの、効果が見られなかった。ふたりは絶望感を共有する。
飛行する開きし者もふたりを掠めるように飛び交う。本格的な攻撃が始まるのも時間の問題だった。
だが、そんな時だった。
どこからともなく、銃撃音がしたかと思うと、飛行者たちが次々に落ちていく。瞬く間に上空の開きし者はその数を減らしていった。
そして、いろはは見つける。榊といろはの進む道の脇にジープが止めてあったのだ。そして、そこには長身のハンターの姿があった。あれは――。
「
○○〇:あっ、そんな人いたっけ
◆◆◆:完全に忘れ去ってたな
□□□:たしかパトカーが飛行する前まではいたんだったか
●●●:いつの間にか消えてたな
(こらっ、そんなこと言わないの! そりゃあ、私もさっきまで忘れてたけど……)
鳴はいろはに気づくと、よく通る声で叫んだ。
「あの赤い宝石、あれで開きし者、追っ払えないか!?
空飛ぶ奴ら、怖気づいてるはず」
「あ、そうか! 榊さん、止まってくれない」
榊にバイクを止めてもらうと、いろはは赤い宝石を輝かせる。それに反応するかのように飛行者たちはどこへとなく引き返していった。
それを見届けると、鳴は四足獣の気配を察知し、手榴弾をいくつも投げ、これを一掃する。
「ひとまず安心。でも、追ってはまだいるはず」
鳴の言葉通り、後続の開きし者たちがさらに来襲してくる気配があった。
「もう! いつまで逃げればいいのよ!」
◇◇◇:やっぱハンターチームに合流しなきゃなのかな
■■■:戦車で一掃してもらおうぜ
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