第114話 ハンターチームまでもう少しです!

 いろはと榊、それにミンの逃避行は続いていた。


「でも、ひどいよ。みんな、俺を置ていくんだもの」


 そう言って、ジープの窓越しに鳴が不貞腐れる。それをどうにか、いろはが取り繕った。


「いや、あの時は角松さんが大変なことになってたから……」


 それとは関係なく、鳴のことをみんな忘れていたとは言えない。


 ただ、鳴と合流したことで移動速度が遅くなったことは否めない。もちろん、鳴がいなければ、もっと早く開きし者の襲撃でふたりはやられていたのだろうが、しかし、逃避行においては鳴が足手まといなのは間違いなかった。

 運転のレベルが低く、何かというと道の脇に乗り出し、壁にぶつかっているのだ。彼と並走していてはミゾノクチにいつ辿り着けるかわかったものではなかった。


 そのことは鳴自身も理解していたのだろう。周囲の開きし者の気配を察知すると、ジープを止めた。そして言葉を残した。


「俺はここまでのようだ。お前たちは先に行け。

 岩崎やハンターたちに会ったら、鳴はよく戦ったと言ってくれよ」


 その言葉を聞くと、榊はバイクのスピードを上げる。鳴の存在を突っ切るように先へと進んだ。

 背後からは爆発音と銃撃音が嘶く。鳴がどうなったのか、いろはと榊には想像するしかなかった。


 ふたりの旅はしばらく順調に続いた。フチュウカイドウに合流し、だいぶ先まで進んでいる。ミゾノクチのハンターたちの下まで行くのは時間の問題と思えた。

 だが、タマガワ橋の手前で待ち構える者たちがあった。魚のような姿をした開きし者たちである。彼らは多摩川沿いに彼女たちを追い、先回りして、川の近いこの場所で待ち構えていたのである。

 さらに悪いことに背後からも蟲のような開きし者が追ってきており、戦線の膠着はすなわち死が待つのみであった。


「そうは言っても戦うしかないでしょ!」


 榊はモトクロスバイクから機銃を撃ち、魚のごとき開きし者を撃ち倒していく。しかし、そのたびに橋の下から新しい開きし者が出現し、地勢上の有利は全く得られない。かといって、逃げようにも背後にも蟲どもがいる。

 絶体絶命のまま、バイクは開きし者の群れの中に突撃しようとしていた。


 だが、この瞬間、空から飛来した何者かが魚類どもを薙ぎ払った。榊といろはの乗ったバイクは、その一撃でできた大群の穴を通り、その先へと抜け出す。

 その攻撃を行ったのは、かつて特異点を地に伏し、深町を救った榊の仲間、綾瀬であった。いや、綾瀬が蟲のような開きし者に変わった姿である。

 しかし、綾瀬はその異形の姿でありながら、人間の言葉を発する。


「榊、逃げるんだ。人類の未来を救えるのはお前たちだけだ!」


 このことはふたつの意味で驚きであった。まず、その身体の機構が人語を発するに不適切なものであること。彼は一時的に発声器官のみ人間と同じものに戻したのだろうか。

 そして、もうひとつはその精神が人間のものそのものだったことだ。本能に支配されず、開きし者に変異するなど、とても稀なことで、ましてや人間と開きし者のふたつの形態を行きつ戻りつするなど、本来ありえないことである。


 榊は仲間を犠牲にすることに涙しつつ、しかし、彼の心意気を無下にすることはできない。

 ただ、ひたすらにバイクを走らせ、生き延びることだけを考えていた。ミゾノクチまでは目と鼻の距離となっていた。



○○〇:もうすぐでハンターたちと合流だね

◆◆◆:鳴と綾瀬は犠牲になってるけど

□□□:何話か前に春日もね

●●●:だけど、ハンターたちと合流すれば何とかなるでしょ

◇◇◇:火力が違うからね

■■■:こんろは


「はーい、こんろはでーす! いやいや、そんな場合じゃないでしょ! もう、みんな死んじゃうよ……。

 でも、このあとハンターさんたちと合流できれば、みんな助かるのかな。そうも思えないけど」

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