第117話 クローン再び、です!

 深町は耐えていた。

 飛来する開きし者ども、それに特異点アンタッチャブルの攻撃により損傷を受け、いまだにブロックを抱えたまま飛行していることが奇跡だといえる。


 ツルギはトレーラーを置き去りにしてでも、深町を助け出そうと、特異点に向けて突撃していく。しかし、空中を舞う特異点と、地を走るツルギとでは勝負になりようもない。隙を突いて特異点に斬り込むことはあったが、地上にいる開きし者どもの露を払うので精一杯であった。

 ツルギの去ったトレーラーでは防戦することすら叶わず、どうにか入り口を閉じ、シロウと角松は身を隠すことしかできない。トレーラーには無数の開きし者どもが集まり、その板金を破ろうとガシガシと攻撃していた。


 そんな膠着した状態にあって、急激に状況が一変した。新たなる特異点が現れたのである。その特異点には加藤が乗っていた。まさか、クローンの培養に成功したのだろうか。


「クローンの培養自体はもうできていたのよ」


 誰に向かってか加藤は語りかけると、彼女の意志に従ってか、特異点クローンは特異点オリジナルに向かって突撃する。オリジナルも警戒するが、驚きと恐れの方が大きかったのだろうか。クローンの攻撃をかわしたものの、それを見越していたクローンによる黒い吐息ブレスを受けてしまう。


「まさか、味方なのか!?」


 半信半疑であったが、この好機に賭けるよりほかに、彼にとって取るべき手段はないように思えた。


「少しでいい。このブロックをホールドしてくれないか」


 深町の澄んだ鋭い声が響く。その言葉を聞き、加藤はそれを待っていたと言わんばかりにニタリと笑った。


「ええ、いいわよ」


 その返事を聞くや、深町はブロックを放る。特異点クローンは加藤の命令のままにブロックをホールドした。

 深町は飛行力を失ったかのように、落下を始める。落下しながらも通信を行っていた。


「シロウ、もうひとつの機甲鎧を送ってくれ……」


 トレーラーの天井部が開き、電磁投射砲レールガンから機甲鎧を送る。だが、その開いた隙間に開きし者どもが群がり、たちまちトレーラーの内部に入り込んだ。シロウと角松も抵抗するが、その数の前には為す術がなく、やがて食い殺されてしまった。


 それでも、ふたりが決死で送り込んだ機甲鎧は深町に届いた。

 古い機甲鎧は脱ぎ捨てられ、深町の裸身がさらされている。その腹には無残にも大穴が空き、四肢もすでに三つまでが千切れていた。

 しかし、機甲鎧は魂の込められた防具である。深町と神経で繋がれる武装である。

 それが着装された瞬間、両手両足があたかも存在するかのように、自在に動きだし、放出するエネルギーで自在に空を駆け始めた。


「シロウ、角松、お前たちの命に敬意を表する。私はお前たちの血と肉を無駄にはしない」


 武装鎧の鉄仮面からは血涙が流れていた。

 この終末の世においても、いや終末の世だからこそ、肉親との、仲間たちとの別れは重い。ましてや、彼らは深町の要請に従い、そのために死んだのだ。だが、その命を犠牲にしてでも果たさなければならない使命がある。それはやはり、この時代ゆえのものだった。


 特異点の居場所を探る。特異点はクローンから受けた攻撃を修復させており、悠々と空を飛び、ブロックをホールドするクローンを襲おうとしているところだった。

 深町は全速力を出し、特異点に突撃する。さしもの特異点もその攻撃を読んでおり、激しい攻防が始まった。

 特異点が黒い吐息を放つと、深町はそれを熱射線を放出して相殺する。深町が懐に潜りこむと、それを予想していたかのように旋回し、尻尾による殴打で叩き落とした。かと思えば、深町はやられたと見せかけて特異点の死角に回り込み、渾身の一撃を浴びせかける。


 一進一退の攻防により、特異点は羽ばたく力すら失い、地に伏せた。

 深町はボロボロになりながらも、どうにか飛行するだけの力を保っている。


「少し……と言ったが、すまん。しばらく待って……くれ……」


 それだけ言い残すと、深町もまた推進力のすべてを失い、地上へと落ちていったのだった。

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