第116話 ハンターチーム遠征の始まりです

 咲菜さなはパトカーを走らせ、ミゾノクチを目指していた。

 脳震盪を起こして気絶したままの草加を後部座席に乗せており、逸る気持ちはあるのだが、あまり飛ばすこともできないでいる。だが、戦力を著しく減らしながら、開きし者(場合によっては特異点アンタッチャブル)と戦わねばならない兄やいろはのことを思うと、じれったくて仕方がない。


 自分自身の焦る気持ちを落ち着かせるため、咲菜は深呼吸する。

 慌てちゃだめだ、慌てちゃだめだ、自分自身にそう言い聞かせる。


 そんな時だ。前方からジープが走ってきた。咲菜よりもヨタヨタとして覚束ない運転。ミンだった。


「鳴さん、何やってんの! もう、みんなだいぶ先に行っているのよ」


 窓を開けて鳴に対して怒鳴る。だが、鳴は釈然としない様子で、返事をした。


「この車、空飛べないよ。どうやって付いていけるのさ。

 置いてけぼりで、哀しい気持ちなのは私の方だよ」


 それもそうだ。そう思った咲菜はトレーラーのあった場所を伝え、そして付け加えた。


「お兄ちゃんたちもピンチなのよ。急いで、助けてあげてね」


 それからまた咲菜の旅は続く。ニューマルコ近くまでやって来た。ヒーローチームのトレーラーに急ぐため、飛び立った地点である。ここからは、少し前まで走っていた箇所なので、少しは土地勘がある。

 咲菜は僅かながら安堵したが、それでも、そこからの距離がどれだけあるか思い出し、ここからの道のりの長さにげんなりした。

 しかし、それでも進まなければならない。ムサシコスギを越えて、フチュウカイドウに合流し、ニコタマ方面へ進んだ。


――ワンワン!


 犬の鳴き声が聞こえた。茶色の毛並みの柴犬が飛び出してくる。見たことのある犬――ジェイムズだった。

 そして、ジェイムズを追って駆けだしてきたのは岩崎だった。


「岩崎さん!」


 驚き、パトカーから飛び降りるが、その時、その先にハンターたちの戦車隊が控えているのが見えてきた。


「咲菜さん、ツルギさんから通信があったよ。開きし者の大群が現れたって。

 それに草加さんが怪我してるんだろ。加藤、診てやってくれないか」


 草加は後方に陣取る救急車に連れていかれ、加藤の治療を受けることになる。

 ひとまず自分の役目を終えたと、咲菜は安堵した。いや、そんなわけがない、そう思って気持ちを持ち直す。

 まだ、兄もいろはも前線で戦っているのだ。どうにかして助けに行かなくては。


 岩崎たちの戦車隊も、いろはたちの下まで進軍するつもりであった。

 彼らの進軍が始まった。思いのほか早く、いろはと合流する。彼女たちはタマガワ橋で仲間を犠牲にして、どうにか逃げてきたのだった。

 タマガワ橋に向かい、戦車たちは進む。そして、その圧倒的な砲撃により、開きし者たちを撃滅した。


 仲間たちと合流し、どうにか落ち着いたいろはだったが、ひとつのことに気づいていた。


「あれ、加藤さんって、この隊にいないの?」


○○〇:なんか急に落ち着いたね

◆◆◆:いろはも咲菜もハンターたちと合流したし、もう安心じゃない

□□□:テトリス進んでないの気になるけど

●●●:いろはが気になるってことは、加藤がいないの転機になるね

◇◇◇:加藤さん、何やるんだろうね

■■■:こんろは


「はーい、こんろはでえーす! いやいや、もう状況がわからないよ。

 ひとまず、ハンターチームと合流できたのは一安心だけど、ツルギさんたちはまだ戦ってるし、深町さんもピンチなままじゃん。

 加藤さんが何やるかもわからないし……。

 どうにかしなきゃだよ!」

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