第83話 奇抜な女神像を見つけたっス!

 しぶちかの探索は難航した。

 時折襲い掛かる開きし者は脅威であったが、それ以上に姿を変える迷宮が厄介だった。引き返したタイミングですでにダンジョンはその威容を異なるものに変えており、もはや道を引き返しているのではなく、新しい道を模索している状態となる。

 ツルギと咲菜さながしぶちかに入り、もう三日が経過していた。


「お兄ちゃん、もう食糧が半分なくなるよ。引き返さなきゃいけないんじゃない?」


 探索は彼らの想定以上に日数がかかっていた。しかし、食料が半分残っていたところで、同じだけの時間で地上まで戻れるのか、姿を変え続けるダンジョンの前では自信がなかった。


「いや、進もう」


 少し沈黙してツルギは言った。


「この先には食品館がある。ほとんどの食糧は壊滅しているだろうが、保存食もあるはずだ」


 その言葉に咲菜が不安そうな表情になる。


「でも、お兄ちゃん、食品館はもっと表層にあるはずでしょ。今までにないんじゃ、もうなくなっているか、通り過ぎたんじゃ……」


 咲菜の不安ももっともだったが、ツルギには確信がある。耳を澄ませながら、その場所を探る。

 そして、背中の段平を抜くと、地面に向けて振り下ろした。


「岩を砕き、斬り拓く! 斬岩剣!」


 地面が砕かれると、光が差し込んできた。明らかに、さらなる地下に光り輝くものがあるのだ。

 ツルギと咲菜はその階層へと降り立つ。それは、かつて存在したデパートの食品売り場そのものの光景だった。それも、電気がいまだ動いているのだろうか、電灯も空調もいまだ機能しているのだ。


「なにこれ! すごいじゃない!」


 咲菜が感嘆の叫びを上げた。

 とはいえ、陳列されたほとんどの商品は腐ってすらおらず、すでに虫の類に食い尽くされている。

 それでも、レトルト食品や缶詰・瓶詰は残されている。


「空調と冷蔵庫、それに発電機の音が聞こえた。こんなのが残っているとは、奇跡だな」


 ツルギは満足気に言葉を発するが、途中でハッとなった。


「まさか、開きし者が管理しているのか? ……いや、まさかな」


 そして、自分の考えを自分で否定する。


「お兄ちゃん、こっち行こうよ!」


 咲菜の誘いとともにツルギも先へ進んでいく。

 保存食というのは存外強い。消費期限を超えていたとして、食べられるものも多い。それはツルギら生き延びた者たちの生命力の強さを示すものであったかもしれないが。

 時に缶詰を食料として備蓄し、時に試食しつつ、フードショーを進んでいく。そんな中、ツルギは強い違和感を感じた。


「なんだ、これは……?」


 それは注意しなくては通りすがりそうなほど、自然に置かれていた。それは人型の像であった。

 髪型は奇妙で、一塊ごとが触手のようにうねっており、それぞれ気ままな方に向いている。顔立ちは整っているのだが、勝ち気で挑発的な印象を抱いた。

 服装は中世を幻想で捉えたような雰囲気の、司祭や修道女がまとうような衣装のようだ。だが、胸元や太ももの辺りがレースで透けたようなデザインになっており、異常なほどに露出度が高い。


 そして、左手中指には指輪、胸元にはネックレスをしている。全体的にチープな印象を受けるデザインの服装の中で、この二つだけは、上品さと精巧さを持った高級品のように感じられる。 


「お兄ちゃん、行くよ!」


 咲菜はすでに先へ進み、ツルギの歩みを促している。だが、ツルギは女神像と呼ぶには奇抜な、この不可思議な像から立ち去れないでいた。


「もしかして、これが女神像なのか?」


 疑問を持ちながらも、ツルギは女神像の頬に手を触れた。




○○〇:あー、これがいろはなのか

◆◆◆:おい、ネタバレすんな

□□□:いろはの見た目の評価ボロクソでワロタ

●●●:おい、俺たちのいろはちゃんに何てこと言うんだ!

◇◇◇:可愛いのにね

■■■:でも、これから話進むのかも


「あぁー。出たの、私だよね。ていうか、私のアバターだよね。

 がんばって、可愛く作ったアバターなのに、なんなの、あの言い草!

 いや、まあ、世の評価なんて、そんなものなのかなぁ。


 というか、あの像は何なの? まさか、私があの像に転生するとか、そんなことないよね!」

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