第33話 デッドエリアの姫
「え、あ、――はい」
しいかさんとは違って、彼女は、お姉さんの雰囲気が違う――、しいかさんは頼れるお姉さんだけど、彼女は違う……。なんだか、直接話すのが、恐れ多い……、本当に、たとえるなら、お姫様と話しているような感覚で、わたしなんかが、釣り合うわけがないと思ってしまう。
それくらいに遥か上にいる、彼女なのだ。
「えと、あなたが、世界の意思なんだとしたら……、
わたし、呼んだ――ああ、いや、呼びました、よ」
「そんなに固くならなくてもいいんですけどね――」
世界の意思は、彼女は、ふふふ、と笑う――。
それから、ああ、と納得したような表情と声を作り、
「後ろのそれについて、気になってるんですね?」
後ろ――の、それ。
ツルバミのことだろうけど――そんなツルバミのことを『それ』扱いしたことに、怒りを覚える。訂正してくださいと言葉で噛みつきたかったけど、わたしの中の本能が、それをやめさせた。出しかけた言葉を飲み込み、わたしは、不満げに頷いた。
「……呼ばれたから出てきてしまったけど、少し早過ぎた、かもしれないわね――まあ、いいでしょう、呼ばれなかったらどうせ、わたしからいく予定だったし――」
ぶつぶつと彼女はなにか言っていたが、わたしに向けた言葉ではないらしく、わたしの視線に、なんですか? と言うような表情を向けてきた……。
ふんふん、と首を左右に振って、わたしは後ろを振り向く。
「それはツルバミという、完全体のアクシンです……まあ、わたしよりもサナカさんの方が知っているでしょうね――それは、途切れた記憶の断片直前……、あなたの意識を刈り取った、張本人です。作り物ではありませんよ? なんでしたら、触ってみます?
どこからどう見て、触って感じたところで、本人ですし――」
本人だということは、触らなくても分かる――別に触りたくないからテキトーに言っている、わけではない。いや、気持ちの中には触りたくないという気持ちが多大に含まれているけど、それ以外にも、触ってはいけないものだと、認識している。
死者をいじくり回すなんて、そんなの――、冒涜でしかない。
馬鹿にしている――このツルバミの死体は今、こんなところにあるべきではないのだ。
生き返ることなんて、ないだろう――これだけ傷がついてしまっていれば、これだけ渇いてしまっていては、生き返ったところで、ゾンビでしかなく、撃退の対象になってしまう。
そうなる前に、彼は――すぐに、土に埋められるべきだ。
それなのに、なぜ――ここに。彼は、ここにいるのだろうか。
「ツルバミ、彼は優秀でしたけど――やり過ぎました。あなたを捕らえろと、命じたはずなのに、彼は、怪我をさせた。あなたに怪我をさせたんです――。気づいていないかもしれませんけど、あなたの右耳、少し、聞こえにくいんじゃないですか?」
彼女はそんなことを言う――言われて、意識してみて、そこで初めて気づくことができた……こんなの、言われなければそんな答えになんて辿り着かない。
そんな、小さなものでしかない……。
「少しの、ただのミスかもしれませんけどね、あなたに怪我をさせたのは、さすがに見過ごせませんでした。それも、悪意に満ちていましたからね――、いくら悪意から生まれた存在だからと言って、それに身を任せて私情を挟むなんて、アクシン失格です……ですから」
――ですから。
だからこそ――この結末。
「滅多にしないような処刑を、さっきおこないました」
笑顔の彼女が、言葉を続ける。
「はい、やりたいことを全てできて、手順も手こずりませんでしたし――、
これも、普段のイメージトレーニングの成果ですね」
ダイエットでもしているかのような――そんな軽さで。
そんな気持ちで――ツルバミを、処刑した。
ああ、――と、分かってしまう。
彼女は確かに――正真正銘、本当の、疑う余地がない、首謀者――。
デッドエリアの姫。
世界の――意思っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます