第45話 置き去りにされた正体

 気づいている前提で、しいかさんは色々と深く話していたのだろう――でも、そこまで到達していなかったわたしは、なにも分からず、疑問ばかり……。

 一段ならず、二段三段飛ばしで、ステージをワープしてしまったかのような、そんな場違い感に支配されている今。


「なら、分かるはずはない、わよね――。だったら、ふぅ、これ以上は、無理ね――中途半端に知ってしまっているのならば、これ以上、誤魔化すのも嘘をつくのも、可哀そうよね。

 だって、事件の中心地点にいるのになにも知らない、巻き込まれるだけで自分からはなにもできない、そんな位置にいるのは、嫌よね――サナカだって、嫌だって思うでしょう?」


 わたしは、事件の真ん中にいる、中心地点にいる――。わたしは最初から最後まで徹頭徹尾、巻き込まれただけの、メインではないキャラクターのつもりだった……、でも、違うんだ。それを脳内できちんと整理したら、しいかさんの言う通りの感情を得るのは、当然だった……。

 だから、頷いた。


「そうね、まあ、元々、ネタバラシをするためにここにいるわけだし、当然の、言うならば予定通りの展開では、あるのよね――」


「……ネタバラシ、ね――本当に、そのサナカに全てをばらす気なの? いや、わたしが言うのもおかしな話だけどね、だって、わたしを討伐するために、生み出された子なんでしょ? 

 しいかはその子に、目的を教えないまま、目的を達成させることを願っていたわけでしょ? 

 だからこその、今の状況でしょう? 

 なのに、教えてしまうの? いいの――壊れても、知らないよ?」


「大丈夫よ――」


 ふーん、その根拠は? と、世界の意思が馬鹿にしたようにふふっと笑いながら、言う――。

 それを聞いても、しいかさんは答えは変えずに、貫き通す。


「大丈夫だと私が思ったから、大丈夫なのよ――ね、サナカ」


 しいかさんはわたしをちらりと見て、同意を求めてくる。

 いや、待って、ちょっと待ってよ! 

 ――生み出された? 世界の意思を討伐するために? 


 そんな、わたしの存在理由に絡まってくる事実かどうかまだ分からない、そんな情報に、心が動揺してしまっている。

 どくんどくんと高速で振動する鼓動――、わたしは、その同意に頷けなかった。


 けれど、ぎゅっと――しいかさんの手を握った。


 少しは、落ちつくことができた――安心は、完璧にはできていないけど。


 でも――覚悟はできている。


 どんな答えがこようとも、わたしは――受け止めてみせる!


「うん――よし。なら、まず、見えているものに決着をつけようか――」


 しいかさんが手を伸ばして、世界の意思を、指差した――。

 嫌な顔をしたものの、世界の意思はしいかさんの邪魔をすることはなかった。


「彼女のことはずっと、サナカも見ていたはず、だからここでも、気づいているはずなんだけど、でも、分かりにくいかな……。これは、仕方ないとは思うけどね。

 同じ状況で、私も、分かるかと聞かれたら、たぶん分からないと思うし」


「世界の意思――彼女が、どうかしたの……?」


「感じない? 同族嫌悪、みたいな理不尽な感情。

 ああ、もしもサナカがナルシストなら、今の感情はたぶん抱かないはずだけど――」


 そんな、ナルシストじゃないやい! と否定すると、しいかさんは、じゃあ分かるわよね? と優しく、いやでも、恐くもある声で、聞いてくる。


「感じない? 鏡を見ているような、気恥ずかしい感じ。なんだか別人には思えないような、目が離せない感じ。一緒にいても視線を合わせることができないような、照れ臭い感じ。

 ――そんな感情、抱いたことはない?」


 世界の意思と、出会って――。


「彼女と出会って、まず最初に感じたことは、なに?」


「……似ていると、思った。でも、比べても、見て分かるほどに、違うから――」


 だから、違うんだと理解した――、

 それでもしいかさんが挙げたような奇妙な感じは、残ったままだ。


「……その答えを、避けていたのかもしれない。だって、信じられないんだもん! そうなんだろうなあ、と、予想はしていても、でも、それが答えだなんて、絶対に、思わないっ!」


 絶対に。

 世界に、特定の人物は、一人しかいないのだから。


 双子でもきちんと、特定の人物というのは、二人いるのだから。


 同じ人格、同じ構造、同じ未来、同じ生命――まったくの同一は、存在しないのだから。


「………世界の意思……、彼女は、ね――」


 しいかさんがゆっくりと口を開く――分かってはいた、予想はしていた、そうだろうなあ、とは、初見で思っていた、それでも口にはしなかった、相談はしなかった、誰にも言うことはしなかった、最初に思ってから、それ以降は二度と、思うことはしなかった。

 積極的に頭の中から退けようとしていた、思ってはいけないと思っていた、思ってしまえば、認めてしまえば、なにかが崩れてしまいそうで、だから避けていたのに――。

 ここにきて、しいかさんは……、

 ――言う。



「彼女は、あなたよ――」


 しいかさんは、続けて言う。


「世界の意思は、比島サナカ――、

 大学一年生……今のあなたからすれば、!」

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