3章:ツルバミ/奔放頭領

第29話 次の目的地

「おかしいわね……」


 ぼそりと呟いたのはしいかさんだった――、

 わたしは未だにしいかさんの背中に乗っかり、休息している……。そろそろ降りた方がいいってことは、わたし自身も分かっているけど、思ったよりも居心地が良くて、わたしはお腹がしいかさんの背中に張り付いてしまったかのように動けなかった。


「――スイーツエリアが、極端に少ない……少ないっていうか、さっきから、ここまで来れたのは目印があったから……。だからここ周辺まではスイーツエリアが存在していた、ってことになるけど……、ここから先、まったく、スイーツエリアが、存在していない――」


 言われてわたしも周りを見てみる……確かに、ない。

 スイーツエリア……それらしきものですら、あの桃色の粒子ですら、見えなくなっていた。

 薄らとでも、もしも目に見えなくとも、感覚で分かるはずなのに、それですらもない――ここはデッドエリアに囲まれている。

 これは思っているよりも、深刻なのではないだろうか……。


 だって――、


「……この世界の、出口までの手がかりがなくなってしまった――、

 そんな程度のマイナス要素じゃない、よね――」


 こくりと、しいかさんが頷いた。

 しいかさんもごくりとの唾を飲み込み、状況の危険性を理解した――わたしよりも早く、それを理解しているのだろう。


 だって、手がかりが無くなったのは、これに関しては『まあいいか』で流せるかもしれない……、考えれば別の方法があるかもしれない、見つけることができそうだ、と――。

 あるはずの第二、第三の方法に頼れるけど、でも、武器としてあの空間を使っていたわたしたちにとって、『それ』の消失というのは、命綱を奪われたのと一緒なのだ。


 守ってはくれない――武器として使い、敵を倒すことはできない。


 わたしたちの優位性は、一瞬にして、塵となって消えていた。


「……しいかさん、どうするの……?」


 わたしは、しいかさんの耳元で弱く問う。 


「……そう、ね――」

 しいかさんは足を止めて、考える。

「…………」


 その長考を邪魔してはならないと思い、わたしもこれ以上、追及はしないことにした――待っていれば、きっと、しいかさんが答えを出してくれるはず……——なんて、しいかさん頼りというのも、これから先、困ってしまうだろう。わたしもなにか、案を考えておくべきだ。

 しいかさんにおんぶにだっこじゃあ、自分で立てなくなってしまう。


 でも、考えたら考えたで、わたしの中に浮かんでくるのは案ではなく、ただの疑問――だった。スイーツエリアがない――それはつまり、だからあのメッセージも、共に消えているはずだ。特定の人物へ向けているそのメッセージのような、体験談は、わたしには分からなかった。

 あの石版の内容に心当たりはないし、しいかさんにもなさそうだった――しいかさんが嘘を言っている、という可能性もあるけど……、

 しいかさんはそんなことはしないはずだし、それに、隠していても必ず出てしまう微かな、ぼろ、というのも、何時間も一緒にいるのに、しいかさんは出していない。

 尻尾をまだ、出していない。


 さすがに隠しているとして、これだけの長時間、隠し続けるのは、難しい。

 わたしだから云々ではなく、わたしだってそれくらいは気づくはずだし――だからぼろを出さないしいかさんは、無実のはずだ。

 しいかさんはあのメッセージに、思うことはあれど、心当たりはないはずだ。


 気になってはいた――あれの続き……いや、しいかさんが言うには、時系列が段々と遡っていっているはずだから……、最新版の続き、過去の体験談を、知りたかったのだけど――、

 スイーツエリアが存在していない今、それは叶わないものになってしまった。


 ――仕方ない。

 欲しい欲しいと思っていても、ないものはどうしようもないのだから、諦めるしかない。もしもスイーツエリアを復活させる術が見つかったとすれば、別に『それ』だけの理由ではないけど、救われるためにも、わたしはきっとスイーツエリアを復活させると思う。


 デッドエリアにいるものそろそろ限界に近い――いつ、アクシンが襲ってきてもおかしくはないのだ。ドクマル、サカザサ――あの二人との戦いを経験していると言っても、わたしたちはアクシン退治に慣れているわけではない。

 彼らとは一対一で戦っていた――だから突ける隙があった、見つけられた……でも、小さな、未完成のアクシンが、複数で襲ってきたら、わたしの手じゃ足りない。


 しいかさんがいても、きっと――足りなくなる。


 数で押してくる――だからこその、力の弱い、アクシンなのだから。


「――サナカ」

 するとしいかさんがわたしに声をかけながら、動き出した――、


 一歩一歩、力強く、もう既に目的地は決まっていて、そこに向かっているらしい。


「ここからすぐ近くにある――遊園地に行くわ」


「遊園、地……、なんで、また――」


 しいかさんが決めたことに文句はないけど、でも疑問はある――なぜ遊園地なのか、別に水族館からの関連性から、というわけでもないだろうし……、

 それとも、もしかして、


「スイーツエリアを――見つけたの!?」


「惜しいところね――見つけたわけじゃないけど、なんだかね――」


 しいかさんは、背負うわたしの方を向いてにこりと笑い、



「そこに行けって、声が聞こえてきたから」



 そんな、ことって――。


 いや、ないとは、言い切れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る