第28話 しいかの強さ

「――わたしを、わたしの人格を、殺してほしい」


「……嫌よ。そんなの」


 しいかさんは、そして、わたしの頬を、平手打ちした――ぱぁんっ! という音と、ひりひりする痛みが、頬だけでなく全身へ駆け抜けていく。


「私に荷を持たせないで。……サナカ、たとえどんな人格だったところで、それがサナカである限り、同じ失敗をするわ――それが、そうと決まっているようにね」


 じゃあ、どうすれば――、


 どうすれば、わたしは、納得する結果を、残せるのか――。


「あなたは今、失敗を経験したわ――だったら、その人格のまま、同じステータス状況のまま、強くなればいい。今度は同じ失敗をしないように、すればいい――、人格を変えて、新しい自分を作り出して、今から逃げるのはダメよ。

 サナカ、あなたはそのまま、強くならなければいけない――」


 言って、しいかさんはわたしの体を自分の背中に乗せて、おんぶをする――わたしはぎゅっと、しいかさんの背中にしがみついた。


「行くわよ、次のスイーツエリアまで。……あと少し、私の背中にいていいから。

 そこで、休んでなさい。気が済むまで、私の背中に顔、押し付けていいから」


「……うん」


 わたしは、言われた通りに、しいかさんの背中に顔を押しつけて、叫んだ――叫んで、泣いた……疲れて眠ってしまうほどに、わたしは、泣いた、泣き荒れた。


 その間、しいかさんはなにも言わず――なにも漏らさず。


 ただ淡々と、わたしを運んでくれていた。

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