スイーツ・デッド:甘い地獄からの脱出
渡貫とゐち
序章:スイーツエリア/安全区域
第1話 悪意誕生
『あの時、あの場所、あの瞬間――、
やはりわたしは、成長していないのだと痛感させられた。
なにもしなかった――いや、なにもできなかったと言うべきだけれど、無理やりに、ポジティブに考えて言ってしまえば、なにもしなかった。
あえて、なにもしなかった。
実際に動いたとしても結局は、動いてから、決まり切っていた結果がさらに悪化していただけだろう。小規模で済んでいたことでもわたしが干渉したことによって大規模になってしまうだろう――なってしまうかもしれないという予測……、イフ的な捉え方ではなく、きっと、なんて不安定なものでもなく、そう、なってしまう。
決定事項のように、そうなってしまうのだ。
だからなにもしなかった――この選択が間違っているとは思えない……、選択だけではなくなんでもかんでもわたしは間違っているとは思っているけれど、あれに関して言えば、わたしは間違っていない選択をしていたつもりだった。
あれで正しかった――あれで良かった、あれが最善の策だと思っていたのに結局、結局のところ、わたしが動かなかったことで、死んでしまった。
友人が、死んでしまった。
こんなわたしの事を気にかけてくれる数少ない女の子で、声をかけてくれる女の子で、わたしの名前を気軽に呼んでくれる女の子で――、わたしのやったことを知っていても変わらず接してくれる女の子で――わたしがたとえば人殺しだったとしても、普通に接してくれると言った女の子を――わたしは、殺して、しまった。死を、誘発させて、しまった。
たぶん彼女は、彼女だけではなくみんながみんな、
「※※※のせいじゃないよ」と言ってくれるだろうけど、そんなわけない。
そんなわけがない! わたしが、殺した! そうに決まっているのになぜみんなは、みんなはわたしを、責めてくれない! わたしに、人から優しくされるような資格はない。
だって、二度目だ――過程も結果も違えど、でも同じようなことだ。同じような事件がわたしのせいで起きてしまった。一度を体験して、それから四苦八苦の悪戦苦闘で努力して、努力、して……、それで迎えたリベンジと言える二度目でも、わたしは。
こんな結果を、残してしまった。
失敗、してしまった。なにも、成長なんて、できていなかった。
だから――無理だった。もう無理だった。前回はまだ最悪の地点へ着地する前に、その一歩手前のところで着地していたけれど、今回は違う――最悪の地点だ。最悪の結果だ。
もう彼女は戻らない、帰らない、動かない、声をかけてはくれない――、彼女の夢は、破られたのだ。わたしが破ってしまったのだ。
……許せない。自分は当たり前――殺したあいつらも、許せない。
許せない、許せない――死ねばいい、事故でもなんでも毒でもなんでも病気でもなんでも、彼女が死んだのだから死ぬべきだ。
どこでもいいから死ぬべきだ。死んで死んで死んで死んで一日一回死んで、三百六十五日死んで一年を越えても死んでそれでも足らないくらいだ。
殺した、あいつらも。殺した、わたしも。一人も欠けることなく死ぬべきなのだ。
わたしが死ぬのは簡単だ――だけれどあいつらを殺す役目を他の誰かに押し付ける気にはなれない。押し付けては駄目だ――駄目なんだから、ここはわたしがやるべき、同じ場所へと向かう者同士なのだから、わたしが、やるべきなのだ。
殺して死んでお互い様で。
彼女を真下から見上げてごめんなさいして、それが加害者であるわたしのするべきこと――わたしのこれからの、目標。生きる、目標。
おかしな話だ異常な話だと思ってもらって構わないけれど、奇妙な話、この頃が一番、わたしが活き活きしていた時代かもしれない――』
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