第52話 初めての再会
私が通うこの学校は世間的に見て、どういう評価になっているのかは分からないけど、私が思っているよりも、これが世間的に普通なのかもしれないけど、私から言わせてもらえれば、建物の構造上の話、不思議な形をしている学校であると思う。
真上から見ればU字型になっている校舎の周りを、四角いボックスで囲んでいる……、ボックスの中に、U字型の校舎が入っている、と言った方が分かりやすいか――。
囲まれていると言っても、人間の背よりも少し高い塀に囲まれているだけで、逃げることができない脱出不可能な要塞と化している、というわけではない。
U字型の、穴が開いている方から私は校門をくぐって敷地内に入り、そのまま中には入らずに、外側から裏へと周る……、中からもいくことはできる、校舎の中に入ってから扉を出て、つまり、U字を貫通する形で裏にいくこともできるけど、そうはしなかった。
ただでさえこの場、生徒が多いというのに、中に入ったらもっと多いことは確実だ。
窒息はしないものの、それでも圧迫されている感覚に押し潰されるのは嫌なので、私は裏側へ歩を進めたわけだ。
やはりと言うべきか、裏にも生徒はいた――立ち入り禁止区域というわけでもないので、文句を言うつもりはないけど、中を避けても外にこれだけの生徒がいるというのは、学校自体、受け入れ人数を減らすべきなのでは、と思うけど……。
どんどんと応募者を増やすから、学校敷地内の人口密度が凄いことになるのだ、と学園長に言ってやりたいところだった。まあ、お嬢様がこの学校を受けて落ちたとなれば、向こう側の親も理不尽に怒ってくるわけで――お客様第一なこの学校の対応としては、無理やりにでも受け入れるしかないわけだけれど。
とにかく、有能な人材は手持ちに入れておく――その親から絞り取れるところまで絞り取っておく。……そろそろ敷地が増大しそうで、また居心地が変わってしまうのか……と、不満ではないけれど、それに適応するための手間を考えると、あまり良いとは思えない。
思い立てばすぐに行動するこの学校は良いのか悪いのか――判断は難しい。
「……みんな、楽しそうね――」
呟き、茶色い、長く、U字を添うように伸びる道を進んでいく。きゃっきゃうふふと男女ならば一発でカップルと分かるような光景が目に見えるけど、間違いなく、どちらも女の子なのである。女子しかいない学校に望んできた時点で、そういう趣味の人もいるのだと認識しているけど、やっぱり実際に見てしまうと覚悟が揺らぐほどに、引く。
どん引きする。
けれど私も似たようなことを――いま見えている光景の中にいる彼女たちも、こんな場所ではしないだろうことを、私はあの世界で、あの子にしてしまった……、そんな自分にどん引きだった。女の子が好きなわけではなくて、あの子が好きなだけで、だからと言って、一線を越える気はまったくなかったわけで。
あの子の緊張を解くためだとしても、なんであんなことをしたんだろう……、と今になって後悔が押し寄せてくる。
赤面顔だと自分でも分かるほどに顔が赤くなってしまっている――、あの子、ではなく、あの子のオリジナルである彼女と、きちんと出会うのは、計画が成功して以降は、今日が初めてである。それは順当通りに展開が進めばの話で、もしかしたらいま向かっている場所に、彼女はいないのかもしれないのだから。
ともかくこの一週間、私はなるべく彼女に接触をしなかった。なぜかと言えば、単純にリハビリのためだと思って、だ。せっかく復讐の心を上書きすることができたのに、私が近くにいることによって、その心が再び呼び起こされてしまっては元も子もない。
だから彼女の中で決着がつくまではなにもしないでおこうと、私は決めていた。
それでも遠目から彼女の状態を見ることくらいはしていたけど――それに、彼の助手として東奔西走していたので、彼女と出会う時間もなかったと言えばない。
まあ、それ自体はどうにでもなるので、言い訳みたいになってしまっているけど。
実際のところで言えば、初めてではなく、この世界に戻ってから彼女が意識を起こした時に一瞬よりも長い時間、けれど短い時間の間に、一度は会っているのだけど、あれを会った、と言えるのかどうは怪しいところである――、いや、言えないだろう、そう私が、いま決めた。
なのでこれから先で会う彼女と私は、あの世界から帰還してから、初対面である。
初対面になるほどに関係がリセットされているわけではないので、慣れ慣れしいというか普通にというか、いつも通りに話せるとは思うけど、けれど緊張してしまう。
あの行動を思い出して、赤面顔を彼女の前でしてしまうのかと、勝手な不安も重なって、会いにいくのに少しの躊躇いが生まれてしまっているけど、足は止まらず歩は進む。
あと少し――、
きっと、彼女はU字型のカーブの部分にいるだろうと思うので、
そこに辿り着くまでに心の準備を――、
「あ、しいかちゃん――こっちこっち」
――しておこう、と思ったところで、私は声をかけられた。あの世界で聞いていた、共に行動していたあの子よりも、少し大人っぽい声……。けれど無邪気さはそのままの、あの子がまるでそこにいるような、憑りついているような、そんな彼女の声が――。
比島サナカ――、大学一年生……善でも悪でも複製でも世界の支配者でもない、ただ一つの彼女だった。予定よりも全然近いところに、彼女は真っ白な椅子と机を設置して、紅茶を飲んでいたらしい――なぜ、今日はこんな近い場所で……と思ったけど、別に彼女にとって、U字のカーブの部分が特等席、というわけでもない。
気分によって位置を変えるのは、当たり前なのである。
呼ばれたので無視するわけにもいかずに、心の準備はまったくできていなかったけれど、ここはもうノリでいってしまえと、私は彼女――サナカの目の前。
二つ目の椅子に、ゆっくりと座った。
するとサナカは笑顔で、
「やった――やっとしいかちゃんに座ってもらえた」
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