第40話 アーニャ家と会話


 アーニャの両親には僕が転移者である事を伝えるべきだろうと思ったので、アーニャの家ですでに伝えた。

 宴の席ではアーニャの両親に挟まれて座った。マーニャは胡坐をかいた僕の膝の上だ。敷物を敷いたお花見のような宴である。

 アーニャは母親の隣、僕の2つ隣に座っている。

 スピカはふらふらと、肉を求めて彷徨っているようだ。


「アサヒ達のおかげで俺たちが解放されたなんて驚いたニャ。まさか自分の娘に助けられるとはニャ。」


 お酒も入って、カロンさんはすっかりフランクになった。アーニャにも少し父親を見習ってほしい所である。


「あなた、もう少しアサヒさんを敬いなさいニャ。せめて「さん」を付けなさいニャ。ねえ、アサヒニャン。」


 猫人族は語尾が「ニャン」になる呪いでも掛かっているのだろうか?

 サリーニャさんは僕の事を「アサヒさん」と呼ぶから、最後が「アサヒさん」で終わる会話は「アサヒニャン」になっている。もしかして、「アサヒ」と呼び捨てで終わる時も「ニャン」が付いて「アサヒニャン」になってしまうのだろうか?

 ちょっと気になる。

 普段は「ニャン」で終わりやすい話し方になっているようだし。

 訛っていない猫人族もいるのだろうか?


「気にしないでください。向こうの世界から来ただけで、別に貴族や王族という訳でもないし、ただの一般人ですよ?」


「だけど、アーニャの命の恩人ニャのよ?」


「私も仲間になるのニャ!」


 突然、マーニャが話に割って入ってきた。しばらくの間、マーニャをほったらかしにしてアーニャとの旅の話の続きを説明していたから、さすがに飽きてしまったようだ。

 僕たちの冒険者パーティーの仲間に入るという事のようだ。


「マーニャ、危ないからダメニャ。もっと大きくなって強くなってからニャ。」


「そうだね。マーニャちゃんの歳なら学校に行くのもいいかもしれないね。リエラの学校なら屋敷もあるしそこから通えるよ?」


「学校? 獣人でも行けるの?」


 南部では獣人は学校に通えなかったのか。まあ、差別されていればそうだよね。通ってもいじめられそうだし。


「北部では差別も無いし、普通に獣人もエルフもドワーフも人族の人たちと一緒に勉強しているよ。」


「いいかもしれないニャ。家族でリエラに移ってもいいかもニャ。」


 カロンさんが乗り気だ。マーニャちゃんも関心がありそうだ。カロンさんの意見にコクコクと頷いている。


「リエラに移られるなら、僕らがお世話になっている屋敷に住めますよ。大きな屋敷なので。」


「それは良いニャ。お世話になるかもしれないニャ。その時はよろしく頼むニャ。」


 その後、カロンさんと相談して他の獣人達の戻り具合を見てどうするか決めることにした。

 老人たちが結構元気だったので、何とかやってこれていたが、働き盛りの者達がいなかったのでさすがに手が回っていなかったことも結構あったのだ。

 村の復興に尽力しなければならないのだ。しばらくは僕たちも手伝う事になった。


「ねえ、アーニャ。レベルはいくつまで上がったの? 何か良いスキルは出たのかしら?」


 きた!

 サリーニャさんが、僕の触れてほしくない話題に触れてしまった。


「経験値分配のスキルと、水魔法を覚えたニャ。あと・・・」


「まあ、水魔法なんて覚えたの? すごいじゃない。」


 サリーニャさんをはじめ、カロンさん、マーニャちゃんまで驚いている。そういえば獣人族はあまり魔法を覚えないと言っていたような気がする。


「ご主人様のおかげで、ウンディーネの加護を貰ったニャ。それで覚えたと思うニャ。」


「ウンディーネ様の・・・」


 サリーニャさんは絶句してしまった。全員にジッと見つめられてしまった。

 アーニャまで僕を見つめている。


「ちょっと訳あって精霊の加護を貰ったのです。」


「ま、まあ、転移者ならそう言う事もあるかもしれないニャ。」


 カロンさんが場を取り繕ってくれた。


 このままうやむやになるかと思ったが、アーニャは律義なのでちゃんと最後の一つを言ってしまった。


「あと、青の花嫁候補という称号が出たニャ。」


 両親に言うのは結構恥ずかしかったのか、アーニャは両手で顔を覆っている。


「まあ、あなたたち、結婚するのニャ?」


 サリーニャさんは大喜びである。


「アーニャ、でかしたニャ。」


 娘はやらん! なんて言うかと思ったのだがカロンさんも喜んでいる。


「お兄ちゃんニャ?」


 マーニャちゃん、気が早いぞ。


「す、すみません。僕は結婚する気は無いのです。」


「ニャ、ニャンだって!」


 カロンさんが血相を変えて叫んだ。

 サリーニャさんも目が吊り上がっている。こわい。

 マーニャちゃんは涙目になっている。泣かないで。


「僕は元の世界に帰るので結婚する訳にはいかないのです。すみません。」


 カロンさんがシュンとしぼんでしまった。


「そうか、それでなし方がないニャ。残念だニャ。」


「こっちにずっといる訳にはいかニャイのね?」


 サリーニャさんも悲しそうである。


「すみません。両親と姉が向こうにいるので。」


「そうだニャ。アサヒにも家族がいるのだニャ。それは、帰らなければならないニャ。」


 カロンさんが腕を組みうなずいた。


 申し訳ないのでちゃんと言っておこう。別にアーニャに不満はないという事を。


「こちらで結婚することはないと思いますが、ただ、こちらの世界でアーニャ以外の人と結婚はしないと誓います。」


「ニャッ!?」


 アーニャが目を真ん丸に見開いて僕を見ている。


 だんだん顔が赤くなってゆく。

 やおらカロンさんのお酒を奪って、一気に飲み干した。

 そしてコテッと横になって眠ってしまった。

 幸せそうな寝顔である。


「まあ、アーニャったら、仕方がニャいわね。」


「結婚できなくても幸せそうで何よりだニャ。」


 なんとか丸く収まってよかった。結婚に賛成でも反対でも、もっと大事になるかと思ったのだが、案外あっさりとしている。

 連れ去られた娘と会えたからその喜びが大きいのかもしれない。

 抱き合って泣いたりという事は無かったが、家族全員がずっと笑顔である。


『結構美味しいお肉がありました。私は満足です。』


 スピカが帰ってきた。


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