第4話 ステータスチェック


 何か服を着なければ。


 残念なことに、この神殿には衣服が無かった。この神殿にあるのは財宝のみ。つまり、たくさんの武器、たくさんの防具、たくさんの魔道具、道具類そしてお金だった。

 いや、金銀財宝に喜ぶべきところなのは理解しているんだ。僕だって嬉しい。小躍りしたいくらいだ。

 しかし、パンツ一丁だ。Tシャツは熊に襲われたときに破れてぼろ雑巾になってしまった。まだ、何かの役に立つかもしれないから捨ててはいないが。


 文明社会に生きるものとして、パンツ一丁は無い。まあ、この神殿で文明は感じられても、今だ社会は感じられないけれど。


 服代わりに何か防具を着ようかと思ったのだが、思わぬ落とし穴があった。ここには防御力の高いハイレベルな防具しかないので、レベル1の僕では装備できないのだ。武器、防具の装備はレベル10かららしい。本来ならあってないような条件なのだが、しばらくはここにある武器と防具は宝の持ち腐れだ。


 防具が納められた部屋から出て、最初に入ろうとした部屋に戻る。

 パンツ一丁でステータスチェックだ。


 部屋の中央にテーブルのような黒い四角柱が飛び出している。四角柱の脇には大きな机があり、上に薄い板や紙の束が乗っている。ペンのようなものがペン立てに何本か刺してある。


「その上に両手を乗せてください。この板にステータスが出ます。」


 大きな机の上に飛び乗ったスピカが説明してくれた。黒い四角柱の上の面に両手を乗せればいいようだ。


 深呼吸をして、両手を乗せる。


 黒い四角柱には変化が無かった。変化があったのは板の方である。ぼんやりと光を放っている。光はしばらくすると消えた。


「これは………。」


 表情は分からないが、スピカは驚いているようだ。


「手を放しても大丈夫なの?」


「…はい。記されたので大丈夫ですよ。

 板を裏返すと消えてしまうので気をつけてください。」


 ステータスを見たいのだから裏返したりしない。裏返すと消えるという事は、この板は使いまわしかな?


 ステータスを見る。文字が読めるか心配だったが大丈夫だった。



************


アサヒ・アオイ(人間?)


レベル :1


HP  :100

MP  :100

物理攻撃: 10

魔法攻撃: 10

物理防御: 10

魔法防御: 10

すばやさ: 10

運   :100(MAX)


称号:転移者【言語理解(R)、ステータスアップ(R)】・・・【 】内はスキル

  :収集癖【アイテムボックス(R)、アイテム鑑定、レアドロップ(U)、所有(U)】

  :フォーリナ神殿の主【神との文通(U)】


*(Rはレア、Uはユニーク)


スキル :アブソリュート・ゼロ(U)


魔法  :なし


犯罪  :なし


その他 :ウンディーネの溺愛

    :サラマンダーの加護

    :シルフの加護

    :ノームの加護


************



 何から突っ込めばいい?

 上から順に行くか。


「(人間?) ってどういうこと? 僕は人間ではないの?」


 スピカは首をかしげた。こんな時だが可愛くて癒される。


「私にもわかりません。だた、気になることがあるのですが?」


「何?」


「髪です。あなたの髪の毛、青いです。転移者は黒髪だと聞いていたのですが?」


「ああ。これは染めたんです。今の日本では髪を染めた人がいます。むしろ真っ黒な黒髪の方が少ないくらいです。多くの人は少し茶色くなっています。」


「そうですか。そんなにきれいに染まるのですね。この世界には青い髪の人はいないいです。」


「人の多い所まで行けたら髪の色隠した方がいいかな? そういえば、鏡はあるかな? 自分の顔よく見ていないんだ。」


「その方がいいかもしれませんが、多分大丈夫だと思います。これ、他の部屋の人と会話できる魔道具ですが、鏡になりますよ。」


 スピカが机の上にある手鏡のようなものを前足で指し示す。

 裏返っていたので鏡だとは気が付かなかった。


 鏡で自分の顔を見る。


 あれ、髪の色が変わっている?

 顔はそのままだが、髪はこんなに青くなかった。まあ、キレイだからいいか。


「髪の毛、色が変わっている。もとはもう少し黒に近かったのだけど…。」


「もしかしたら、髪の色は(人間?)と関係があるかもしれません。一番下にウンディーネの溺愛とかイフリートの加護ってありますよね。」


 最後に聞こうと思っていたけど、いきなり一番下の項目にきた。


「そうですね。これ、何でしょう?」


「私が聞きたいくらいです。加護はまだしも、溺愛なんて聞いたことがありません。それに加護がもらえてもふつう一人の精霊だけです。4大精霊すべてだなんて、聞いたことがありません。それこそ、心あたりはないんですか?」


「最初に水の中に沈んで行って、女の子にキスされたような気がするのだけど? あれ、てっきり夢だと思っていたんだけど、夢じゃなかったのかな?  寝ているときも女の子に囲まれていたような気がするけど…。」


「たぶんそれです。召喚された直後は存在が少し不安定で、その間に精霊が見える人がいるそうです。ごく稀に加護をもらえるそうです。でも、ごく稀なんですよ?」


「そうか、夢じゃなかったんだ。熱があるから変な夢を見てしまったのだと思っていたよ。水の中で会ったのがウンディーネかな? もしかして僕、ウンディーネに助けてもらった?」


「多分そうだと思います。髪が青いから気に入られたのかもしれません。」


「それだけで気に入られるの?」


「ほかに理由があるのかもしれませんが分かりません。この神殿の中には精霊が入れないので後で外に出たら聞いてみます。私は精霊が見えるので。」


「お願いします。それで、精霊の加護にはどんな効果があるのですか?」


「・・・レベルアップができれば関連する属性の魔法が使えるようになると思います。例えばサラマンダーなら火属性ですね。あと、精霊魔法もあります。精霊に魔法を使ってもらいます。」


「いいですね。」


 レベルアップ? ん?

 まあいいか。


「この、HP、MPや攻撃力、防御力の値はどうなんでしょう? 余り高そうには見えないのだけど?」


「そうですね。レベル1の成人の平均はHP、MPは50くらい、その他は5くらいでしょうか?

 実際は成人までにレベル10を超えるのでHP、MPは100くらい、その他は20くらいだと思います。

 あなた、弱いです。人より優れているのは運だけです。運の数値は異常です。」


「酷い言われようだけどその通りだね。でも、魔物に襲われても無事だったけど?」


「それは、ユニークスキルのせいですね。」


「この、アブソリュート・ゼロだね?」


「はい。触れると説明が見られます。」


 アブソリュート・ゼロの文字に触れる。横の余白に説明が。



************


アブソリュート・ゼロ(U):与タメージと被ダメージが強制的にゼロになる。


************



 あれ? 与ダメージがゼロ?

 被ダメージがゼロなのはありがたい。かなりありがたい。

 だけど与ダメージがゼロはまずくないか?

  魔物が倒せない。

 僕はレベルアップできるのかな?

 何も倒せない代わりに防御力を手に入れたという事かな?

 即死魔法であっさり死ぬみたいな罠はないよね?


「なるほど。」


「この辺りは魔物がとても強いので良いユニークスキルだと思いますよ。

 ユニークスキルは召喚されたときにもらえるスキルです。

 転移者は必ずユニークスキルを一つ持っています。

 後はレベル10、20と10上がるごとにスキルや魔法、称号をもらえることがあるのですが・・・ 残念でしたね。」


「レベル上がらないの確定? 何か方法ないの?」


「無いこともないのですが・・・ 冒険者ギルドに登録してパーティーを組んでもダメージを与えた大きさで経験値が振り分けられます。

 経験値分配というスキルがあるので、そういう冒険者とパーティーが組めればレベルアップも可能だと思いますが・・・ あなたとパーティーを組んでくれる方がいるでしょうか?」


 確かに攻撃力がゼロ、自分だけはダメージを受けない。メリットがない。僕に何か人のメリットになるような能力は無いのか?


「この、アイテムボックスというスキルで、荷物運びとして雇ってもらえないかな?」


「それなんですが、その収集癖という称号のスキルを調べてみてください。」



************


収集癖

 称号スキル

   アイテムボックス(R):アイテムを収納できる。ボックス内の時間は停止

   アイテム鑑定   :アイテムボックスに収納したアイテムを鑑定できる

   レアドロップ(U)  :魔物を討伐時に必ずついでにレアドロップする。

   所有(U)      :アイテムボックスに収納したアイテムは所有物になる。武器、防具は本人以外装備不可、貸出、譲渡不可。魔道具は譲渡不可。その他のアイテムは1個目は貸出、譲渡不可。


************



 称号には称号スキルが付いていて、それが称号が付くことに対する恩恵らしい。

 他の方法でも得られるありふれたスキルや、自分一人しか持つ者がいないユニークスキルをもらえることがあるらしい。

 称号によって当たりはずれがあるようだが、転移者が最初にもらえる称号は強力なものが多いらしい。

 ユニーク称号と言えばいいのだろうか?

 その人だけしか持たない称号も多いらしい。


 最後のスキル「所有」がひどい。独り占めかよ!

 これでは荷物持ちも無理だ。アイテムを奪ってしまう。

 おっ、ひらめいた!


「この、レアドロップでおちたアイテムを誰かに拾ってうというにはどうだろう?

 必ずレアドロップが落ちるというのはかなりお得では?」


「残念ながら、アイテムボックス持ちのドロップは直接ボックス内にドロップします。持ってない人は、その人のすぐそばにドロップします。


「そうか。僕がパーティーを組むのは難しそうだね。」


「そうですね。経験値分配は獣人特有のスキルです。もともとは、自分の子供をレベルアップするためのスキルだったそうです。

 冒険者ギルドができてパーティーを組む制度ができてから、正式にパーティーを組むとパーティーのリーダーに経験値分配のスキルで経験値が付与されることが分かりました。

 獣人が差別されている地域では、獣人の奴隷を使ってレベルを早く上げる方法があるらしいです。」


「それはちょっと。自分の倫理観に抵触するような方法はとりたくないね。何とかお金でももうけて、雇うことはできないかな?」


「そうですね。それなら何とかなるかもしれませんね。ここにあるお金で雇えればいいのですが。」


「あ、そうかお金があるんだ。結構あるのかな?」


「どうでしょう? それなりにはありますが、レベルを上げるくらい長く人を雇えるかわかりませんね。街で生活するのにもお金が要りますよね? どうやって稼ぐのですか?」


「何かいい方法はないかな? まあ、ゆっくりと考えよう。」





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