第1章 神殿と神獣
第3話 やっと出会えた話し相手
神殿から少し離れた場所で夜を明かす。なぜなら…
神殿の入口には、左右に大きな石像が立っている。
これは、動き出すやつではないだろうか?
近づいて行くと予想通り、石像が動き出す。
右の石像は剣を、左の石像は杖を持っている。
『試練を開始します。』
突然、頭の中に声が響いた。以前と同じ声なのかは、前回が意識朦朧だったので判断できない。
『レベル1。水平切り』
剣の石像が剣を
『レベル1.ファイアボール、ウィンドカッター、ロックアロウ』
杖の石像は魔法を飛ばしてくる。全属性? 水が無い?
熱い、痛い、痛い。
でも、ノーダメージ。
『レベル2。十字切り。』
レベル2も剣は途中で止まる。水平に切ろうとして止まり、縦に切ろうとして止まる。剣のほう、意味がなくないかな? 省略してほしい。
『レベル2。ファイアボール、ウィンドカッター、ロックアロウ』
魔法は同じ魔法でレベルが上がるようだ。熱い、痛い、痛い。
・・・・・
『レベル10。五月雨切り。』
………無意味。
『レベル10。ファイアボール、ウィンドカッター、ロックアロウ』
熱い、痛い、痛い。魔法はきつい。熱さも痛みもレベル10は強烈だ。
レベル10の攻撃が終わると、石像は元居た場所へ戻っていった。
『試練が終わりました。条件のクリアを確認。神殿の所有権がアオイアサヒへ譲渡されます。』
扉が開き始めた。中に入れるだけでなく所有しちゃったけどいいのか?
将来的に盗んだことにならなければいいけど。
神殿の中へ入る。
ギリシアの神殿だろうか、どこかで見たことがあるような、いかにも神殿という創りである。円柱の柱が2列に並び、道を作っている。左右の壁にはいくつも扉があり、部屋が並んでいるようだ。
先へ進み、最奥部へたどり着くと、壁一面に絵が描かれていた。宗教画を連想させるような絵である。
そこには人間、獣人達、エルフ、ドワーフが描かれていた。最後の晩餐を連想した。ただ、すべての種族が仲良くすべし、と言っているような絵画である。裏切り者はいなそうだ。
絵に圧倒されて気が付かなかったが、絵の前に一匹の狐がいた。青みがかった銀色の毛が美しい。
「まさか、試練をクリアする者が現れるとは。驚きです。」
「狐がしゃべった!」
驚いて僕が叫ぶと、狐が怒った。
「狐とは失礼な。私は神獣です。神に使えるものです。」
「神の使い? 神様がいるの? 教えてほしいことがたくさんあるのだけど。」
「リリエラ様はここにはいません。教えてほしいことは私が教えます。」
やっと、いろいろと聞けるようだ。リリエラは神様の名前だろう。
「ここは何という世界ですか? 僕は地球という惑星の日本という国に住んでいたのですが?」
「おや? あなたは転生者ですか。それで試練がクリアできたのですね? 防御力に優れたスキルをお持ちですか?」
質問に答えてもらえなかった。逆に質問してるし…。
「どんなスキルを持っているか知らないんですけど? ここは地球では無いのですね?」
「ん? ………ここは地球ではありません。この世界に名前はありません。今、私たちがいる大陸はムスキア大陸と言います。他の大陸との行き来は無いし、名前も知られていないので、実質ムスキアが世界の名前みたいなものです。
ところで、自分のスキルを知らないとはどういう事でしょう? 説明を求めます。」
「気が付いたら、森の中にいたんだ。風邪をひいていたので意識が朦朧としていてよく覚えていないのだけど、頭の中にはぐれた召喚されし者がなんとかって言っていたと思うのだけど?」
「転生者でなくて転移者ですか。でも、髪の毛が青いですね。私は初めて見ました。転移者は黒髪と聞いたのですが。それに、森の中に召喚なんてありえないのですが・・・ はぐれるなんて聞いたことがありません。
おそらくリリアーナ王国での召喚の儀式で召喚されたのでしょう。あなたは何らかの理由ではぐれたのだと思います。リリエラ様は今リリアーナ王国にいます」
「なるほど。」
いっぺんにたくさん話さないでほしい。何を質問するべきかわからなくなってきた。聞きたいことが多すぎるのだ。少し落ち着こう。焦ることはないはずだ。
それにしても異世界に召喚するだけでも迷惑な話なのに、よりにも寄って風邪を引いた人間を召喚するなんて・・・
「とりあえず、僕が急いでとるべき行動はない?」
「ありませんね。」
「リリアーナ王国に行く必要はない?」
異世界転移ものの小説にはそれほど詳しくはないが、僕のイメージだと逃げた方がいいのだが、神様がいる以上その国へ向かった方がよさそうな気がする。
この神獣も悪い印象はないし。
「あなたははぐれてしまったので、リリアーナ王国もあなたの事は把握していません。リリエラ様も召喚魔法が使われた場所しかわからないので、召喚した者がいる場所は分かりますが、召喚された者がいる場所は把握できないのです。あなたは誰からも認識されていません。」
「ひどい…。 ちょっと悲しくなってきた。ちょっと君を抱きしめてもいいかな? あれ? そう言えば、君の名前は? 僕は
「私の名前はスピカです。抱きしめられるのはお断りします。」
断られた。つめたい。
「素敵な毛並みなのに、モフモフできないなんて…。」
「モフモフしないでください。私、神獣ですよ。人間より高位の存在ですよ。もっと私を崇めてもいいんですよ?」
「とても崇めています。ありがたいです。ずっとそばにいてほしいです。」
この世界に来て、初めての話し相手だ。しかも神獣。いろいろなことを教えてもらえそうだ。見捨てられるわけにはいかない。
「あなたはこの神殿の新しい所有者になったので、私は当分の間はあなたから離れませんよ。あなたについて行きますよ。
ただ、リリエラ様には何とかして連絡を取らないといけませんが。」
「うれしいです。よろしくお願いします。
「遠くに離れていると無理です。あと、モフモフはお断りしますが、ブラッシングは良いのです。毎日私をブラッシングするのです。リリエラ様は毎日してくれたのです。」
「よろこんで。…ところで、この神殿の前の所有者は誰ですか? 僕が新しい所有者ということは前の所有者がいますよね? それとも所有者がいない状態だったのですか?」
「前の所有者はリリエラ様です。神なので仮の所有者ですが。その前は、フォーリナの王マリス様です。ここは200年前に滅びたフォーリナ王国の王都リマの近くにある神殿です。」
「なるほど。所有者がいないので神様が管理していたということですか?」
「違います。リリエラ様は前世がエルフでマリス王の奥様でした。
マリス王が亡くなられたときに管理者を受け継がれました。すぐにリリエラ様も亡くなりましたが、神に転生したので所有権を持ったままでした。
フォーリナ王国が滅ぼされたとき、マリス王、前の神、リリエラ様の順に殺されたのでこのようなことが起こりました。ちなみにリリエラ様は地球からの転生者です。」
「えっ?」
次から次へと新情報が…。情報が多すぎて理解が追いつかない。
「神様って死ぬの? リリエラ様は地球の人なの? 」
「フォーリナ王国はとても繫栄していました。当然それを嫉むものがいました。そのようなものが神殺しの剣なる物を創ってしまったのです。神を殺したものはリリエラ様が魔法で焼いたので、宝物庫に神殺しの剣があります。
リリエラ様は日本で百歳まで生きられたそうです。」
フォーリナ王国については興味がひかれるのでもっといろいろと聞きたいが、まずは自分の事をもっと聞いておくべきだろう。次は何を質問しよう?
「まずは、あなたのステータスを確認しませんか? この神殿にはステータスを確認できる魔道具がありますよ。」
そう言って、スピカが歩き始めた。スピカという名前はリリエラ様がつけたのかな? ・・・あれ、時代が合わなくないかな? スピカなんて比較的最近日本に入ってきた言葉だよね? こちらとあちらの時間の流れはどうなっているんだろう?
実は、他の召喚者とは時間までずれて召喚されていたりして…。
僕が考え事をしている間に、スピカはどんどん進む。一つのドアの前で僕を振り返る。スピカが首をかしげて言った。
「先に、何か着るものを探すべきでしたね。」
僕、下着姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます