第2話 異世界転移だね
翌朝、朝食にパンとリンゴを食べる。
後はすることがない。
近くを散策してみる。怖いから小屋が見える範囲で離れてみる。
生き物に遭遇しない。虫さえいない。
さすがにこれはおかしい。結界という言葉が思い浮かんだ。やはりここは異世界か? 神様は現れないのだろうか?
誰か僕に説明をしてほしい。僕はどういう状況に置かれているの?
この日はいろいろな方向を散策して終わった。成果は全くなかった。ゼロである。
さらに次の日、散策の範囲を広げる。迷うのが怖いので湖に沿って歩き続ける。しばらくすると小屋は見えなくなった。かなり広い湖のようで、一日では到底一周できそうにない。一週間くらいかかりそうな気がする。
かなり歩いた。日本の感覚では12時ころ?
ここまで、成果ゼロ。生き物には遭遇しないし、リンゴの木もパンの木も生えていなかった。
雑草のような草と杉の木のような針葉樹だけである。
そろそろ戻ろうかと思っていたら、なにか薄い膜のようなものを破ったような気がした。慌てて2、3歩戻る。
結界の外に出たような気がしたのだ。
もう一度歩く。再び膜を破って外に出る感覚。
勇気を出して少しだけ先へと進む。そして、気づく。
遠くで鳥の鳴き声がする。生き物の気配。とりあえず近くに虫などの小さな生き物は発見できなかったが、何かがいそうな気がする。
結界の中へ戻り、結界の中から外を観察する。
結局、何も発見できなかった。結界の中では鳥の鳴き声も聞こえなかった。
最後にもう一度結界の外に出て、鳥の鳴き声を確認してから小屋へと戻った。
三日目、遠出してみることにした。誰も来ないし、このままという訳にもいかないだろう。生きてはゆけるが退屈過ぎる。わりと一人でいることが苦にならない性格だと思うが、することが無い。出来ることが無さすぎるのだ。これはさすがに無理だ。
かなり危険だとは思うが、結界の外に出れば何らかの発見があるだろう。昨日は試すのを忘れていたが、ステータスとかが見られるかもしれない。
まあ、ここが本当に結界の中なのかはわからないのだが…。
リンゴとパンを5個づつ、あと木のカップをタオルケットで包んで小屋を出発した。昨日と同じルートをたどる。
結界の境目までたどり着き、いろいろ試したがステータスは見られず、魔法も発動しなかった。諦めて先へと進む。
しばらく歩くと、小鳥を発見した。生き物発見。案外感動が大きい。少しほっとしたが、危険な生物もいるだろうと気を引き締める。
頭の中に響いた声を信じるなら、絶対にモンスター? 魔物? がいるはずだ。
ちゃんと、防御力が高ければいいのだが…。
スライムみたいな弱い魔物が出てくれればいいのだが。
できるだけ固そうな木の枝を探し武器代わりにする。右手に木の棒、左手にタオルケット、両手が塞がっているが仕方がない。下着姿なのも仕方がない。
のどかな風景が続く。各界からある程度離れると生き物も結構いることが分かった。
蝶やトンボが飛んでいる。湖には魚が泳いでいる。水面には鴨のような鳥もいた。
もしかしたら異世界では無かったりして。異世界だとしても魔物の類はいないのかもしれないと思い始めた頃、僕の儚い期待は裏切られた。
黒い塊がある、というくらいにしか思わなかった。大きめな木の根元に熊がいた。
僕が近づくと、いきなり立ち上がった。
でかい。3メートル以上あるだろう。
50メートルくらい離れていたのに、あっという間に目の前へ、逃げる暇もない。
気が付いたら横殴りに弾き飛ばされていた。痛い。
吹き飛んで木に激突する。痛い。経験したことのないような激痛である。
うつぶせに地面に倒れる。
まだ、死んでいないのかと薄目を開ける。地面が見える。血は流れていないようだ。
あれ?
痛くない?
ゆっくりと立ち上がる。無傷である。痛みもない。
しかし、熊はすぐそこまで歩いてきている。
弾き飛ばされる。痛い。
木に激突。痛い。
でも無傷。痛みもない。
5回繰り返した。殴られれば痛いけど、ダメージが無くて痛みは一瞬だけのようだ。少しほっとしたが、攻撃することも逃げることもできない。ただただ、殴られて吹き飛ばされている。
熊もおかしいと思ったのか、行動を変えてきた。
前足で押さえつけられてしまった。重い。
頭から
さすがにこれでおしまいかと観念したのだが。
ぎゅっと目をつぶっていると、急に重さが消えた。
目を開けると、背を向けて熊が去ってゆく。
そういえば意識朦朧としているときに、防御は完璧にと願った気がする。やはり、ここは異世界で僕は防御が完璧なスキルをもらったのだろうか。
熊が視界から消えたので荷物を探す。幸い、荷物は無事だった。
この日はこの熊だけだった。魔物なのかただのでかい動物なのかはわからなかった。大きな木の根元にうろがあったのでそこで眠った。
次の日は頭が豚みたいな巨人に遭遇した。オークだろうか?
何か棒を持っていると思ったら、炎の玉が飛んできた。魔法である。よけられない。全身が炎に包まれた。熱い。これは熱い。
耐えられずに転げまわっていたら、炎が消えた。
………熱くない。火傷もない。
やはりダメージは無いようだ。魔法を使ってきたときは驚いたが防御は魔法にも有効らしい。助かった。棒に見えたのは魔術師の杖だろうか? 豚の魔術師? オーク?
オーク? も7発くらい魔法を撃ち、その後、2、3回、殴ってきたが、あきらめて去っていった。今回も食べようとしてきたが、口が近づいたところで驚いたように飛びずさり、あきらめて去っていった。なんだか、ビリっとしびれていたように見えた。
炎が飛んできたときは、やっぱり小屋へ戻るべきだったかと後悔したが、結果オーライである。先へ進もう。異世界であることは確定だろう。
さらに次の日はミノタウロスだろうか?
牛のような顔、立派な角、そして馬鹿でかい剣。
切られても大丈夫なのか心配だったが、切りかかられると、途中で止まっていた。
攻撃できないようである。
ミノタウロスは何度か剣での攻撃を試みた。
結局、ミノタウロスは僕を一発ぶんなぐって去っていった。
今までで一番痛かった。ものすごく怒っているように感じた。
剣での攻撃ができないのなら、殴っても途中で止まればいいのに…。
贅沢だろうか?
とりあえず、モンスターに遭遇しても何とかなりそうだ。痛いのも熱いのもきついけど、死なないし、ダメージが全く無いのは助かる。自分で傷つけたらどうなるのか分からないが、怪我をしないのは非常に助かる。
このまま歩き続けると、最終的には一周して小屋に戻ってしまう。途中で川が流れ出していたら、下流へ向かおうと思っていたのだが、川に出会わない。
一周してスタートに戻るのもありかもしれないと、ひたすら歩き続けることにする。
小屋を出て4日目はモンスターに出会わず1日が終了。
5日目。
昼過ぎと思われる時間に、道っぽいものを発見。
木が4メートルくらいの幅で生えていない、道のようなものが森の奥へと続いている。ただし、草が腰くらいの高さまで生えている。
とても気になるので、草を分けて森の奥へと進むことにした。
歩きやすい湖の畔と違って、なかなか進まない。ただ、ありがたいことに、草むらを歩いているにもかかわらず、虫に刺されない。きっと、攻撃とみなされるのだろう。刺すことができないようだ。
こうなってくると、なぜ、殴ることができるのかが不思議である。
食料が尽きてしまったタイミングで、リンゴの木とパンの木を発見する。仲良く隣同士に生えている。
木の下には立派な角を持った鹿がいたが、近づいても攻撃してこなかった。
明日からの分を5個づつ確保して、リンゴとパンを食べる。
鹿もおとなしくリンゴを食べている。
なんとなく近づいてそっと撫でてみる。
無視された。しかとである。
焦らずゆっくりと進む。
補充した食料が尽きる日の夜、大きな神殿にたどり着いた。
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