宝の持ち腐れ感半端ない

まこ

プロローグ

第1話 異世界転移とは限らない


 風邪で学校を休んで家で寝ている人間まで一緒にクラス転移するなんて、ひどいと思う。僕、下着姿だったのだけど・・・




 久々に風邪をひいてしまった。結構な熱が出てしまったので、おとなしくベッドで眠っている。夢を見ているのだろうか、ふわふわと浮いているようなおかしな感覚がしたかと思ったら、肌にまとわりつく感触が変わった。


 ふと、目を開くと水の中にいる。息は苦しくない。ゆっくりと水底へと沈んでいる。月が揺れている。

 月を隠すように、僕と月の間に少女が割り込んできた。少女はゆっくりと僕に近づいてくる。水の中をすべるように。

 そして僕に触れることができるほど近くまで来ると、手を伸ばして僕の髪に触れた。肌が青く透き通って見える。水の精だろうか?

 僕の青い髪がゆらりと水の中で揺れる。美容師の従姉いとこの練習台で結構派手な色に染められたのだ。

 少女は嬉しそうに微笑む。そして両手を僕の髪に潜らせて、やさしく僕の頭を挟み、僕にキスをした。

 朦朧もうろうとしていた僕に限界が来て、意識が途切れた。




 目が覚めた。赤い少女、緑の少女、黄色い少女が僕を見下ろしている。なんだか透けている。そして浮いている。妖精?

 ゆっくりと体を起こす。まだ、体調は悪い。体が睡眠を求めているのだろうか? 気を抜くとまた意識を手放しそうだ。

 あたりを見回すと湖のほとり、森の中である。少女たちは微笑みながら消えていった。


『はぐれた召喚されし者を発見しました。神の不在を確認。召喚者の不在を確認。バックアップによる固有スキルの付与を行います。』


 突然頭の中に声が響いた。目が覚めたと思ったけど、これは夢の中?


「召喚? はぐれた? ここはどこですか?」


『希望は声に出して思考すると、固有スキルの付与がスムーズに行えます。』


 質問には答えてくれないようだ。無視されてしまった。体調が悪く、思考がままならない。


『固有スキルの付与を行います。希望は声に出して思考すると、固有スキルの付与がスムーズに行えます。』


 ぼやっとしていたら、頭の中で同じ言葉が繰り返される。


「攻撃力は防御力を完璧にしてください。」


 ぼんやりとした頭のまま、それでも森の中は危険かもしれないからとりあえず防御力を高くと考えた。攻撃力が高くても武器を扱う自信が無いし、魔法はそもそも使えるのかが分からない。何か言わないと先に進まなそうなので希望を言ってみる。


『対象者の希望を確認。固有スキルを付与します。』


 しばらく沈黙。だめだ、もう眠りたい。


『付与が完了しました。続いて、ステータスポイントの付与を行います。上昇させるステータスを選択してください。』


「運を上げてください。」


 どんなステータスがあるのか教えてくれないのかと思いつつ、何とか言葉にする。森からの脱出には運が必要だ。朦朧とした頭でそんなことを考えた。


 僕は力尽き再び意識を手放した。


 僕が意識を手放した後、ステータスの説明があったことや、精霊と呼ばれる者たちが僕を助けてくれたことを知るのはまだずっと先の事である。




 夢を見ていた。4人の少女が代わるがわる僕の世話をしてくれていた。青、赤、緑、黄色の少女。去り際におでこにキスをして去ってゆく。青い少女だけはおでこ以外にもキスをしてくる。頬や鼻、まぶた、…唇まで。


「知らない天井だ。」


 思わず言ってしまった。気が付いたら知らない部屋にいる。夢に出て来た少女はいない。僕はベッドに寝かされている。そばに小さなテーブルがあり、木のカップに飲み物が入っている。

 体調は良さそうだ。少しだるいが、ずいぶん寝ていたような感じがするので仕方ないだろう。ゆっくりと体を起こす。

 カップには水が入っていた。少しだけ水を飲む。


 しばらく待ったが、誰も来ない。仕方が無いので部屋から出ることにする。

 

 部屋のドアを開けるとそこは森だった。つまり、外だった。

 部屋が1つだけの小さな小屋。小屋のすぐそばに木が2本。実がなっている。

 小屋の裏手にまわると湖が広がっていた。結構大きい。


 そして、誰もいない。


 頭の中に響いていた声を思い出してみる。意識が朦朧もうろうとした状態だったので記憶が定かではないが、はぐれた召喚者と言っていた気がする。

 森の景色は地球の景色とあまり区別がつかない。ただ、小屋のそばに生えている木が少し変だ。片方はリンゴがなっているように見える。木自体も僕が知っているリンゴの木とほぼ同じである。青森県の五所川原市で見たリンゴの木はこんな感じだったはずだ。

 しかし、もう一本の木は見たことがない。なんだか、コッペパンみたいな実がなっている。正直、コッペパンにしか見えない。木に葉が全くないしちょっとシュールである。


 異世界に召喚された可能性よりも、眠っているうちに誰かに誘拐された可能性の方が高いことは理解しているのだが、直感がここは地球ではないといっている。

 友人には典型的な理系頭で理屈っぽいと言われていたが、案外そんなでも無いのかもしれない。

 どうせ誰もいないのだし、意を決して試してみることにした。


「ステータス、オープン。」


 ………何も起きない。


「開け。」


 ………何も起きない。


 思いつく限り試してみたが何も起きない。「ファイア」とか魔法も唱えてみたが駄目だった。「アイテムボックス」とか「転移」とかすべて空振りである。むなしい。


 困った。これはかなりまずいのではないだろうか?

 ここが異世界でも地球でも非常にまずい。

 僕は家で眠っているときの姿でここにいる。ジャージを着て眠っていたが、汗をかいたので着替えた。その時ジャージを着るのが面倒で下着姿で寝たのだ。

 今、僕はパンツにTシャツという素敵状態である。小屋の中はベッドに机だけ。使えそうなものは布団だけである。

 そういえば、布団は違和感がなかったと気が付き小屋へ戻る。

 布団は日本で使われているものと比べても遜色そんしょくがなかった。異世界だとしても科学が発展しているのだろうか? それとも魔法があればこういう物も作れるのだろうか?


 掛け布団はタオルケットと薄めの掛け布団の2枚だったので、タオルケットをまとうかと悩んだが、寒いわけでもないし誰もいないので下着姿で再び外に出る。


 まだ、空腹は感じないが木に実っている実を食べてみることにした。小屋のそばに2本だけ生えているので、毒のある実ではないだろうと思うのだ。軽率かもしれないが、他にすることを思いつかない。近くを散策して食べ物を探すよりはいいだろう。


 結果から言うと、異常に美味しかった。念のため、ちょっとだけかじってしばらく様子を見るつもりだったが、リンゴのような果実もコッペパンのような実も一気に食べてしまった。

 コッペパンのような実はほんのり甘くて柔らかいパンだった。

 とりあえず食べ物には困らなそうで安心した。どちらの実も手に届く高さにたくさん実っている。


 湖をのぞき込んでみる。澄んだ水で飲めそうであるが、さすがに水は怖いのでまだ飲むのはやめておく。魚など生き物はいなかった。水は飲まない方がよさそうだ。雨水でも貯めた方がいいだろうか?

 最悪湖の水を飲もう。


 再び小屋の中へ、いつの間にかカップの中に水が満たされていた。起きた時に飲み干したはずだが?

 少しだけ水を飲んでみる。テーブルにカップを置く。

 しばらくすると、ゆっくりと水面が上昇した。再びカップの水が満たされる。


 飲み水も問題ないようである。ありがたい。


 ………ここ異世界だね? まだ夢を見ているのかな?


 小屋の後ろにまわり、湖の畔で体育座りをして時間をつぶしたが、結局誰も現れず夜になった。




____________________

初めての異世界転移ものです。

温かい目で読んでください。

よろしくお願いします。

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