第22話 リエラへの道中


 朝食を食べに宿の食堂へ行くと、護衛の冒険者たちが先に食事をしていた。

 どうやら、同じ宿に泊まっていたらしい。


「おはようございます。」


「おはよう。」


 挨拶をかわし、隣のテーブルに着く。

 宿のおかみさんが注文を取り、去ってゆくと冒険者のリーダーらしき赤髪の男性が声を掛けてきた。


「君は冒険者なのかい? そっちの猫人の嬢ちゃんは結構いい装備だが、君は普通の服だよな?」


「一応僕も冒険者です。アーニャは護衛みたいなものです。聖獣も一緒です。2人に守ってもらっています。」


「まあ、ギルドマスターとも懇意にしているみたいだし、訳アリか。詮索はしないよ。聖獣様が一緒なのは心強いな。王都で見た聖獣様はかなり強かった。道中よろしく頼むぜ。」


「こちらこそ。よろしくお願いします。」


 ライカール出発前に軽く挨拶しただけだったので話せてよかった。

 リーダーは30歳くらいの精悍な男性、副リーダーはその奥さんでだいたい同じくらいの歳の長い金髪が美しい女性。あとの4人もそれぞれ夫婦で、3組の夫婦からなるパーティーである。


 朝食を食べ終わり、少し休むと出発の時間になった。


 リエラまでの道中、1日だけキャンプをしたが後は村の宿屋に泊まった。

 村の宿屋はどこも6人部屋があり、そこに泊った。冒険者パーティは6人までなので、冒険者パーティ用の部屋らしい。

 冒険者たちは、僕らと同じ宿の2人部屋に泊まっていた。宿代をケチらないところを見ると、結構稼ぎの良い冒険者パーティーのようである。


 キャンプをした日、比較的安全な場所なことと、アーニャとスピカが結構戦えると伝えたので、冒険者の6人が森へ魔獣を狩りに行った。護衛の依頼がないときは、この場所で狩りをしてからリエリアへ行き、お金を稼ぐそうだ。

 留守番する代わりに儲けの一部を支払うと言われたが遠慮した。僕の運のステータスが高いのでお金には困っていないことを伝えて納得してもらった。


 僕がテントを持っていることがキャンプをする決め手となった。

 次の村まで、結構な強行軍をしないと着けない距離なのだ。

 定期便の場合もここでキャンプをするらしい。


 彼らが狩りに出ている間に、僕が晩御飯を作った。と言ってもパンとゴハンはアイテムボックスから。サラダはクシャルとスシャリに手伝ってもらい、ビーフシチュー的なミノタウロスの肉のシチューを作った。なんと、こちらの世界でもシチューのルーが売られていた。

 シチューには存在を忘れかけていたビッグカウキングのミルクを使った。

 料理に使う時にクシャルとスシャリに飲ませてあげたら、よほど美味しかったのか、踊りまわっていた。ウルスラさんやアーニャに持って行って飲ませていた。

 シチューもかなりたくさん作ったのだが、御者さんも含めた全員で食べたら完食してしまった。まあ、残ったシチューをスピカが食べてしまっただけなのだが。


 この日は、テントを2つ出してウルスラさん一家はそちらへ泊ってもらった。

 スピカもウルスラさんのテントでクシャルとスシャリの2人と一緒だ。

 つまり、僕とアーニャの2人でテントに一泊である。


「最初は無口だったけど、だいぶ皆としゃべるようになったね。」


 アーニャに話しかける。出発直後は少し緊張気味でほとんどしゃべらなかったが、クシャルとスシャリが気にせずどんどん話しかけるものだから、アーニャもだいぶ緊張がほぐれて普通に話すようになっていた。

 今日も夕食前はウルスラさんと何か話していた。2人が夕食を作ると言ったのだが、持っている食材の説明が面倒だったので僕が作ることにしたのだ。スピカが賛成してくれたので比較的すぐに引いてくれた。


「人とこんなにしゃべったのは初めてですニャ。」


「たぶん、こういう差別のないほうが普通なのだからアーニャも慣れないと。ライカールではあまり人と交流しなかったから、リエラではもっといろんな人と話すようにしよう。そういえば獣人の知り合いがいないもんね。」


「ライカールではたくさん歩いてましたニャ。楽しそうでしたニャ。」


 アーニャがほほ笑みながらそう言ったとき、テントの外から声がかかった。


「ちょっとお邪魔していいかしら?」


 それは、リーダーの奥さんのユイナさんだった。


「どうぞ。」


「失礼するわね。」


 ユイナさんがテントに入ってきた。


「聖獣様のことで話があるのだけど。」


 ユイナさんはそう言うとアーニャをちらりと見た。


「ご主人、私はしばらく外にいますニャ。」


「いや、ここにいていいよ。問題ない。」


 アーニャが気を利かせたが、スピカの事はアーニャも知っているのでいてもらうことにした。


「それで、何でしょう?」


「立派なテントね。」


 そう言ったユイナさんはベッドが2つあることを確認してニヤリと笑った。


「恋人同士という訳ではないようね。」


「恐れ多いですニャ。ご主人様は命の恩人ですニャ。」


 僕が否定する前に、アーニャが慌てて答えた。


「あら、そうなの? ・・・スピカという名前に心当たりがあるの。」


 ユイナさんは突然核心をついてきた。僕は警戒していたので平静を保てたが、アーニャはピクリと反応してしまった。


「そうですか。」


「150年くらい前の文献にリリエラ様の神獣の名前がスピカと載っているの。もしかして、聖獣様じゃなくて神獣様なんじゃない?」


「名前だけで?」


「スピカという名前は珍しいのよ。たまたまつける名前じゃないし、知っていたら神獣様の名前は付けないわ。」


「なるほど。それで?」


「聖獣様の名前とあなたの髪は隠した方がいいと思うの。リエラでは平気だと思うけど、もっと南へ行くのでしょ?」


 僕たちを心配してくれたようだ。


 ユイナさんは、その後少し世間話をして帰っていった。

 

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