第3章 猫人族の村へ

第21話 次の街へ出発


 朝食を食べた後、シリルさんとイリスさんは帰っていった。二人とも今日は休みだそうだ。

 僕たちは冒険者ギルドでギルドマスターに会い、転移用の家の場所を聞いた。

 この後、食材や調味料を買う予定だと伝えたら、あまり買い込まずにリエラという街で買うように言われた。どうやら旅の行程で通る街らしい。

 ラステル王国で3番目に大きな街で食の街として有名らしい。


 予定ではリエラの街まで街道を進み、その後森の中をショートカットする予定だ。

 地図を見ると、王都は北の海のそばにあり、近くに大きな川が流れている。

 この川を遡ると、ライカール、リエラがあるのだ。

 さらに遡ると、南部のルクサン、レイピヌとつづく。

 レイピヌが南部最大の街である。

 僕らがライカールへ来たときはこの川の支流に沿って来たのだ。

 今度はリエラの街を出た後、別の支流を遡ってゆくと、アーニャの村への近道になるのだ。

 これだと、獣人を差別する地域は森の中を進むことになるので、トラブルに遭うこともないだろう。




「それでは行ってきます。」


「ああ、何かあったら協力するからな。気を付けてな。」


 シリルさんに見送られてリエラ行きの乗り合い馬車に乗り込んだ。

 ギルドマスターとイリスさんとは冒険者ギルドで挨拶して来た。


 馬車は僕たちと3人と、母と子供2人の2組だけだった。案外客が少ない。

 護衛に、6人パーティーの冒険者が付いている。リエラの街に帰るついでに護衛をするらしい。護衛と言っても、彼らは自分たちの馬車を持っているので、その馬車と一緒に行くというだけだ。護衛の料金も格安である。

 馬車は定期便もあるが、今回僕たちが利用するのは、この冒険者たちに合わせて出る馬車である。そのため、客が少ないのだ。



 馬車が出発した。2人の子供は7歳の姉と5歳の弟で、名前は姉がクシャル、弟がスシャリ、母親がウルスラである。馬車に乗り込む前に挨拶をした。

 子供2人はスピカに興味津々である。


「キツネ?」


 弟のスシャリが僕に尋ねた。


『子供の相手、できる? 子供が撫でてもいい?』


『問題ありません。』


 素早くスピカと念話で話して確認を取る。


「聖獣だよ。賢いよ。スピカというんだ。呼んでごらん。」


 僕がそう答えると。スシャリが素直に名を呼んだ。


「スピカ。」


 名を呼ばれたスピカは僕の隣から席を飛び降りて、スシャリの膝に飛び乗った。


「あれ? 重くないよ?」


 スシャリが不思議そうに首をかしげた。


「魔法を使っているから軽いんだよ。」


 念話でスピカが教えてくれたので、そう答えた。


「すごい!」


 横で見ていた姉のクシャルが驚く。


「聖獣様なんて、初めて見ました。」


 母親のウルスラも驚いている。少し表情が柔らかくなった。愛おしそうに2人の子供を見ている。

 ずっと暗い顔をしていたのた。何か心配事でもあるのだろうか?

 これから数日間は一緒なのだ。話をする機会もあるだろう。今は小さな子供の前だし、深刻な話題は避けておこう。


 クシャルとスシャリはしばらくスピカを撫でたりしてかまっていたが。しばらくすると馬車の揺れが程よく眠気を誘うらしくうつらうつらとし始めて、最終的には眠ってしまった。


「かわいいお子さんですね。」


 ウルスラさんに話しかける。


「ありがとう。普段はもっと元気にはしゃぎまわっているんですよ。今は、あなたの前なので行儀が良かったのです。」


「え? 僕ですか?」


「はい。青い髪の、ウンディーネ様の加護を持たれた方の噂を聞いていたので。あなたを見た時にすぐにそうだと思ったのです。」


「僕の前だと行儀良くしないといけないのですか?」


「あなたに嫌われると、ウンディーネ様にも嫌われると言ったのです。」


 ウルスラさんはそう言って、僕にウインクをした。


「なるほど。ところで、何か心配事がありますか? 僕たちで力になれる事なら協力しますよ。」


「ありがとうございます。顔に出ていましたか?」


 ちょっとおせっかいだろうか? 母親と子供の組み合わせだと少し心配になってしまう。

 南部ほど治安が悪くないとはいえ、それなりに危険な旅だと思うのだ。父親がいないのが気になる。


「おせっかいかと思ったのですが・・・」


「そんなことないですよ。実は、この子たちの父親との連絡が途絶えたんです。貯えも底をつきそうなので、思い切って様子を見に行くことにしたんです。」


「そうですか。何事も無ければいいですね。」


「はい。ありがとうございます。」


 夕方、予定通り村に着いた。ライカールからリエラまでにある村は大きな村ではないが、旅人と冒険者のための宿やは何軒かはあるそうだ。

 僕たちはお金に困っているわけではないので、馬車の御者に聞いて、食事のおいしい宿に泊まることにした。


「ウルスラさん、同じ宿に泊まりませんか? 宿代は僕が出すので。」


「いえ、そういう訳には・・・」


 ウルスラさんは遠慮するが、子供たちがはしゃぎだした。


「僕、スピカと寝る!」


「わ、私も!」


 2部屋に分かれて泊まろうと思ったのだが、スピカがウルスラさん達の部屋へ泊ると、アーニャと僕の2人で泊ることになる。アーニャはそれでも良いと言ったが、冒険者用の6人部屋があるのでその1部屋に泊まることになった。

 ウルスラさんの提案である。

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