第23話 リエラの街(1)
リエラの街に着き、冒険者の6人とは別れた。魔物を狩った分だけ儲けが多かったので予定よりゆっくり休むと言っていた。
僕たちは、ウルスラさんに付いて商業ギルドへ来ている。ウルスラさんによると、最後の手紙にはブタの獣人と何やら珍しい食材を採りに森へ行くと書いてあったそうだ。
クシャルとスシャリと一緒に商業ギルドの中にある休憩用のソファで待っていると、ウルスラさんが戻ってきた。どうやら、あまり良くない状況のようだ。
「ツキカリは戻っていないようです。冒険者ギルドで詳しい話を聞くように言われました。」
ツキカリはウルスラさんの旦那さんの名前である。どうやらツキカリさんだけでなく、行方不明事件が多発しているらしい。
冒険者ギルドはすぐ近くにある。
今度はウルスラさんと僕の2人で受付に行った。
ウルスラさんが事情を説明した。僕はフードを少し上げて隠していた髪を見せた。
「ギルドマスターに会いたいのですが。冒険者のアサヒと言います。」
僕がそう言うと、犬人族の受付嬢が奥に下がり戻ってくると奥の個室に入るよう言われた。隣のウルスラさんが驚いていた。
「さあ、行きましょう。2人はアーニャに一緒に待っているように伝えておいたので大丈夫ですよ。」
僕が促すとウルスラさんは緊張しながら個室へ入っていった。後ろから僕も続く。
すぐに別の扉からギルドマスターが入ってきた。
「ギルドマスターのエドガーだ。キカから話は聞いている。」
キカが誰だったか一瞬分からなかった。ライカールのギルドマスターだった。名前を呼んでいなかったから忘れかけていた。
エドガーさんはチラリとウルスラさんを見てから再び話し始めた。
僕が転移者だという事も伝わっているのだろう。ウルスラさんの前でどの程度の事まで話していいかを気にしたようだ。
「実は、最近獣人やエルフが行方不明になる事件が続いているのだ。ツキカリはヌガという豚人族の男と南の森に入ったまま行方不明になったのだ。どうも、南部の貴族たちの動きがきな臭いのだ。この辺りまで獣人やエルフを狩りに来て奴隷を増やしているようだ。」
「行方不明になった人は誰も見つかっていないのですか?」
僕ががそう尋ねるとギルドマスターは首を横に振って答えた。
「捕らえるときに殺されてしまったものは数人いるが、後は連れ去られたようだ。奴隷狩りをする盗賊も何組か捕らえたが、数が多くて埒が明かないのだ。ああ、もちろん死んだ者の中にツキカリはいないぞ。おそらく、ヌガと共に攫われたのだろう。」
ギルドマスターの言葉に少しだけホッとする。
その後、新たな情報があったら伝えてもらうことを約束してからウルスラさんには先にアーニャたちのところへ戻ってもらった。
残った僕は、ライカールのギルドマスターへ伝えたことと同様の事をエドガーさんに伝え、転移用の家を用意してもらった。
「ウルスラさんには、その家に滞在してもらおうと思います。あと、僕が転移者だという事やスピカの事を教えようと思います。」
「そうか。あまり秘密を知る者を増やすのは感心しないが、まあいいだろう。その家には通信用の魔道具を置こう。ウルスラにはその家でできそうな仕事も紹介しようか?」
「それは、ありがたいです。ウルスラさんに聞いてみます。あと、僕たちはアーニャの村へ行きますが、ツキカリさんの事があるので、獣人の行方不明事件にかかわることになるのではないかと思います。僕が得た情報はギルドマスターへ伝えますね。」
「助かる。こちらの情報も必ず伝える。」
後は、食材を多めに買うのに適した店を聞いて部屋を出た。店ではなくそれなりに大きな商会を紹介された。転移用の家は明日までに見繕ってくれるそうで、明日の昼前にもう一度冒険者ギルドへ来ることになった。
皆のところへ合流する。ギルドマスターに聞いた宿屋へ向かうことにする。
「ウルスラさん、大切な話があるので一緒に来てもらえますか? 今日も同じ宿に泊まりましょう。」
僕の表情と口調から何かを感じ取ったらしく、ウルスラさんは黙ってうなずいた。
『スピカ、ウルスラさんに僕たちの事を話すよ。あと、この街にも転移用の家を用意してもらうから、そこに住んでもらおうと思うのだけど、いいかな。』
『お好きなようにどうぞ。あなたのやりたいようにやってみてください。』
スピカの念話からは、何をしてもどうにかなるだろうと云う様な楽観的な雰囲気が伝わってきた。どういう行動を取るかは、僕に任せてしまっている。信用されていると思うことにした。
宿の部屋は、またもや全員一緒の大きな部屋にした。ウルスラさんも一緒なので若干、気が引けるがアーニャもいることだしまあいいだろう。
少し休んでから、夕食を食べてクシャルとスシャリが眠ってから、ウルスラさんと話をした。
アーニャにも聞いてもらう。
「実は、僕、転移者なんです。・・・」
僕の事をある程度説明し、スピカが神獣であることも明かした。
僕のアブソリュート・ゼロや転移のスキルの事、アーニャの村へ行く予定である事などを説明した。
「ギルドマスターが言っていたように、南部の貴族が何か企んでいるのは間違いないと思います。アーニャの村へ着いた後どういう行動を取るかは分かりませんが、行方不明の事件と関わり合う事になると思います。」
ウルスラさんはじっと僕を見ている。
僕は話を続けた。
「アーニャの村までは、レベル上げもしなければならないので森の中を進みますが、村に着いた後はツキカリさんの行方についても調べようと思います。冒険者ギルドでも調査しているので、ウルスラさんはこの街で待つことになると思うのです。」
ウルスラさんがうなずく。
「僕は、この街に転移用の家を用意してもらいます。ウルスラさんにはその家の管理をお願いしたいのですが? あと、ギルドマスターが何か仕事を用意してくれるみたいです。」
「そんな・・・出会ったばかりなのに・・・」
ウルスラさんは言葉に詰まってしまった。
「僕は、出会ったことが重要だと考えています。何と言っても僕のステータス、運だけはいいですから。きっとツキカリさんも見つけられると思います。」
「そうですよ。これは、リリエラ様の思し召しなのです。」
突然スピカが話に入ってきた。
「神獣様・・・」
「スピカです。」
「スピカ様・・・ありがとうございます。」
ウルスラさんは頭を下げ、そのまま嗚咽した。
アーニャがそっとウルスラさんの肩を抱いた。
「ご主人様に任せておけば大丈夫ですニャ。きっとウルスラ様のご主人は見つかりますニャ。」
「アーニャちゃん、ありがとう。」
「さあ、今日はもう寝ましょう。」
僕がそう言うと、スピカが言った。
「アサヒ、ブラッシングがまだです。」
スピカをブラッシングしてから眠った。
アーニャが羨ましそうに見ていた。
ウルスラさんがクスリと笑った。少しだけホッとする。
アーニャもブラッシングした方がいいのだろうか?
今度聞いてみよう。
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