第7話 帰還の可能性
道具類に水差しがあったので、水を入れてさっきの部屋へ戻る。
落ち着くのだ、慌てることはない。
スピカも後をついてくる。
椅子に座る。スピカはベッドの上に。
「この世界の人間の寿命は何年くらい?」
確認のため聞いておく。案外、長寿なのかもしれない。
「寿命は百歳くらいでしょうか。ただ、魔物に殺されたり、病気で死んだり、寿命を全うする人はとても少ないです。」
「そう。だいたい僕のいた世界と同じかな。魔物はいないけど。」
「エルフやドワーフは長生きですよ。寿命は五百年くらいです。」
「僕はエルフやドワーフと同じくらいの寿命になったわけだ。」
「はい。人間としては長生きですが、人の寿命としては普通の範囲です。」
「まあ、あまり気にしてもしょうがないか。」
「そうです。寿命が縮んだ訳ではないのですから。むしろ喜ぶべきことです。」
「老化は、ええと、見た目はどういう風に老いて行くのかな? 若い状態が長いといいのだけど。」
「転移者は一生見た目は変わらないそうですよ。」
「そうなの? 最後はどうなるんだろう?」
「そこまではわかりません。亡くなるまで若かったとだけ伝わっています。」
若いままだというのはありがたい。長生きだけど、大半の人生がよぼよぼで寝たきりなんて嫌だ。
さて、大事なことを聞かなければ。ちょっと怖くて、自分の状況を先に聞いていたのだ。ふぅ。
「転移者は元の世界に帰られるの? 僕は日本に帰ることができるの?」
「はい。帰られるはずです。前回の転移者は五人で四人はこちらの世界で一生を終えられましたが、一人は元の世界に戻ったそうです。」
帰れるのか。安心した。
でも、一人だけ?
「戻ったのは一人だけなの?」
「そうらしいですよ。こちらの方が豊かだと言っていたそうです。全員身寄りがいなかったのでこちらに残ったそうです。 」
こっちの方が豊か?
この世界はそんなに文明が発達しているのだろうか?
それとも平和で豊かという事か?
いや、それなら異世界から人を召喚はしない。
待てよ?
「スピカ、前の召喚はどのくらい前にあったの?」
「だいたい五百年くらい前です。」
五百年前だと………、戦国時代?
向こうとこちらの時間の流れ方が同じならこちらの方が豊かなのかもしれない。
まだ、こちらの世界がどんな様子なのか知らないけど。
「どんな人が召喚されたかわかるの?」
「防具を身に着けて、武器を持っていたそうですよ。」
やはり。戦国時代から召喚されたのだろう。
「僕の住んでいた時代よりだいぶ前の時代だね。二つの世界は時間の流れ方が同じなのかな?」
「同じです。一日も一年もだいたい同じです。時間の単位も全く同じです。魔道具の中に時計があったと思いますよ。」
「ああ、確かアイテムボックスのリストに出てたよ。」
「異世界への転移ですが、転移には大量の魔力が必要です。」
スピカが異世界転移に話題を戻した。
今は日本への帰り方だ。
出来るだけ多くの情報を得て、戻るための方針を立てなきゃ。
「私にわかるのはこれくらいです。後はリリエラ様に聞くか、転移魔法を使った人に聞くしかないです。もちろん、他にも転移魔法に詳しい人はいるのかもしれませんが。」
くっ、終わりだった。でも、落ち込んでいる場合ではない。
「そうなると、リリエラ様からの連絡待ちかな。後は、これからの行動を決めないといけないね。まあ、とりあえずは召喚をした国を目指すことになるかな。リリアーナ王国だっけ?」
「そうです。ただ、ここから直接リリアーナ王国を目指すのは無理です。竜のいる山を越えなければなりません。一度、逆方向へ行かなければだめです。」
「そうなると、まずは街に出て、リリアーナ王国を目指す。一応、転移魔法について調べながら移動する。できればレベルを上げたいので、経験値分配のスキルを持った獣人を探す。こんな感じかな? スピカはここを出て僕についてきてくれるの?」
行動の方針を指を折って数えながら確認した。
さらに、スピカに付いてきてくれるかを聞いた。
「着いて行きますよ。神殿の所有者なのですから。それに、転移者だからだれか付いているべきでしょうし。」
「ありがとう。」
「それでは、特に準備もないでしょうから、明日出発しますか。」
「そうだね。」
「魔導書の中に、レベル1でも覚えられる生活魔法の魔導書があると思うので読んでおくと便利ですよ。」
「わかった。」
覚えられる魔法があるのか。もっと早く教えてほしかった。
と言うか、気づけよ、僕。
「相性が悪いと使えないものもあるかもしれませんが、さすがに大丈夫でしょう。加護もありますし。」
「試してみるよ。」
結果、ちゃんとすべての生活魔法が使えた。
ただ、体や衣服をきれいにする魔法は生活魔法の中にはなくて、
聖魔法の浄化になるそうだ。アンデットにも効果があるらしい。
聖属性と闇属性の魔法もあるのだそうだ。
確かに、アイテムボックスに魔導書があった。
もちろん、まだ覚えられない。
僕のレベルが10にならなければダメののだ。そんな日が来るのだろうか?
「そうだ、明日はどっちの方角へ行くの? やっぱり、森の中を歩くことになるのかな?」
「あなたが来たルートを戻ります。湖から川が流れ出ているので、それに沿って歩けば、街道に出ます。」
「そう。」
やっぱり、湖から川が流れ出ていたんだ。
逆に来ちゃったのかな?
結果オーライ?
・・・そうか! 幸運が仕事をしたのかな?
明日からの旅も幸運に恵まれることを祈ろう。
ワールドマップで地図を確認してみた。
小屋から逆回りで同じくらい進むと、湖から川が流れ出ている場所。
さらに、そこからかなり川を下ったところで街道に出るようだ。
川を下るのは、ここから川までの3倍くらいの距離だ。
僕の足で歩くと、街道まで1ヶ月くらいかかるのか。
翌朝、リンゴとパンを十個づつもいでいたら、アイテムボックスに収納すれば腐らないのだから全部もげばいいと言われた。
そうだった。五日後に次の木にたどり着くからその分だけもいでしまった。
一応、スピカの分もね。
次の木もあるので、もげる高さの実だけにした。
ようやく冒険の開始である。
歩き出して数分。
「そういえば、スピカは戦えるの?」
結構重要なことを聞き忘れていた。
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