第8話 やっと出発


 スピカが戦えてよかった。

 魔法が使えるそうだ。物理防御と魔法防御、すばやさが高いらしい。

 本人は無敵だと言っている。


 まあ、僕に比べたら全部高いに決まっている。


 神獣なのだから、強いのは当然だろう。




「もちろん、私が魔物を倒してもあなたは経験値を得られませんよ。」


「だろうね。僕と一緒でもスピカに危険が無いことがわかってよかったよ。」


「当たり前じゃないですか。私、神獣ですよ?」


「おっしゃる通りです。」


 草が生い茂っている手前まで来た。


 スピカが前に出る。


「魔法を使います。」


 そう言うと、その場でジャンプしてくるりと後方回転。バック宙だ。


 横幅3メートルくらいの道ができた。ずっと先まで続いている。


「土の精霊魔法を使いました。以前は湖まで続く道だったのです。」


「道の上に土が積もって植物が生えていたのか。

 だから、木が生えていなくて道みたいになっていたんだね。」


「そうです。」


 レンガを敷き詰めた、キレイな道だ。

 ところどころレンガが割れているが、ほとんどがきれいなままだった。


 スピカが再びバック宙。


 驚いた。今度は大きくなった。


「さあ、乗ってください。

 あなたの足で歩いていたら街に着くのがいつになるかわかりません。」


「ありがとう。」


「人なんて、乗せたこと無いんですよ。感謝してください。」


「もちろん感謝しているよ。」


「では、行きましょう。」




 夕方には湖の畔へついていた。

 途中、リンゴとパンの木から実を収穫したにもかかわらずだ。

 来る時は5日も掛ったのにえらい違いである。


 この分だと明日の夕方には小屋に着いているだろう。


 今日はここで一泊することになった。

 アイテムボックスの中には魔道具が充実している。

 「水上コテージ」なんて物もあって心惹かれたが、

 豪華すぎる気がしたので、「二人用テント」を出してみた。

 一応、魔道具である。

 ステルス、魔物除け、防音、魔法防御、温度調節、空間拡張

 テントの中にはベッドが二つ。


 何かこのテント、日本の僕の部屋より過ごしやすいんだけど・・・


 快適な旅ができそうで何よりである。


 わざわざ転移で神殿に戻ることもないだろう。


 テントの前にテーブルと椅子を出す。椅子は二つ。スピカの分も。


 到着してすぐに、スピカは小さくなっている。こちらが本来の姿のようだ。


 スピカは椅子に座らず、僕の膝の上。

 約束通り、ブラッシングしている。なぜかアイテムボックスの中に、

 「スピカ用ブラシ」というのがあった。魔道具である。

 効果は魔力の補充とあった。


 誰が作ったんだろう? 例の魔道具師はスピカと面識が無いんだよな?

 リリエラ様が魔道具師に作ってもらったのかな?

 まあ、ありがたいことである。


 日が落ちて、テントの中へ、魔道具の懐中時計で時間を見たら、午後八時。

 まだ早いが、寝ることにする。


 スピカは隣のベッドで寝た。狐(神獣だけど)とはいえ女の子なので別々に寝るべきかと思って二人用のテントにしたのだ。一緒に寝てくれなくても仕方が無いのだ。

 モフモフは我慢である。


 翌朝は四時起き。まだ暗いが、明るくなりかけていた。


 朝食を食べて出発。スピカも食べるか聞いているがいつも要らないと言う。

 あまり食事は食べなくても大丈夫なのだそうだ。

 おいしそうなものなら食べると言っていた。

 この、リンゴとパン、ものすごくおいしいのだが?

 食べ飽きたのだろうか?


 朝食を食べ、テントなどをしまい出発する。


 少しすると、ミノタウロスに遭遇した。


「ミノタウロスキングですね。葬り去ります。」


 スピカはそう言うと、僕を乗せたまま魔法を放った。


 ミノタウロスの脳天に雷が落ちた。

 ものすごい音に、近くにいた鳥たちが一斉に飛び立った。


 大きな剣を振りかぶっていたミノタウロスキングは後ろに倒れた。

 そして、光に包まれて消えた。


 後には大きな肉の塊、角、こぶしより一回り大きな宝石のような物、そして大きな斧が落ちていた。斧?


「一撃だね。魔物は死ぬと消えるんだね。なんかたくさんドロップしているけど。」


「斧はレアドロップです。後は通常のドロップの肉と角とモンスターの魔石です。」


「大きな剣を持っていたのに斧がドロップするんだね。」


「そうですね。所持している武器はドロップではありません。ちゃんと残っていますよ、あそこに。」


 よく見ると、武器であった物の残骸が落ちていた。


「魔法が強力だったから剣が消し炭になったんだね。」


「ドロップしたものはアイテムボックスに収納してください。街まで行ったら、ミノタウロスキングの肉を食べましょう。おいしいですよ。」


「了解。角と斧と魔石はどうする?」


「角と魔石は売ればいいのではないでしょうか? 斧は収集ですね。」


「問題ない? ちなみに今のモンスターどのくらいの強さなの?」


「そうですね。ミノタウロス種の中で一番強いのがミノタウロスキングです。」


「売ると、変に目立たないかな? 誰かに狙われたりしないかな?」


「そうですね。もう少し弱いモンスターのドロップを売った方がよさそうですね。」


「お願いします。」


 次に遭遇したのはオークキング。

 ドロップは肉としっぽ、魔石。・・・しっぽ?


 その次が、ビッグベアキング。

 ドロップは肉、毛皮、魔石。


 この辺りの魔物は飛び切り強いらしい。

 レアドロップがあったのは最初だけだった。

 スピカが倒しているからである。

 冒険者のパーティーを組んでいないので、僕のスキルでレアドロップする訳ではない。


 何はともあれ、夕方には無事に小屋に着いた。

 リンゴとパンも収穫した。


 小屋があるので、小屋に泊まることにした。

 「スピカのベッド」という魔道具があったので僕のベッドのそばに出した。

 これも魔力回復の効果がある。

 神殿では使っていなかったそうだ。スピカは存在を知らなかった。なぜだ?

 

 ちなみに今日使った魔力は微々たるものらしい。

 ものすごく強い魔物を3体も屠っているのだが?


「話があります。」


 夜、眠る前にスピカが話しかけてきた。


「何? あまり驚かせないでよ?」


「驚かせるようなことではありません。街に出てからの事です。神様は人間に極力干渉してはいけないことになっています。例外は、転移者です。」


「そうなの?」


「理由は聞いていませんが、リリエラ様がそう言っていました。」


「もしかして、スピカも?」


「そうです。ですから、街へ入ったら私はあまり派手な行動をとらない方がいいでしょう。魔物を屠るのは街へ行くまでにした方が良いかもしれません。」


「わかったよ。まあ、僕たちはリリアーナを目指すわけだしね。」


 スピカをブラッシングして寝た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る