第9話 見えないウンディーネ


 朝食を食べている。

 スピカは湖のほとりで佇んで湖面を見ている。


 食事が終わり、スピカに近づく。

 スピカが僕をしばらく眺めてから言った。


「やはり、レベル1だと加護があっても見えないのですね。

 本体なら見えるかもしれないと思ったのですが。」


 どうやら精霊がいるらしい。やはり、ウンディーネだろうか?


「ウンディーネがいるの? 今もいる?」


「はい、いますよ。」


「助けてくれてありがとう。」


「アサヒ、そっちじゃありません、この向きです。」


 60度くらい方向が違っていた。


「助けてくれてありがとう。」


 もう一度お礼を言う。

 明後日の方向に頭を下げてお礼を言われて困るだろう。


「すごく好かれていますね。・・・キスして帰りました。」


 見えないのがとても残念だ。


「見えるようにならないかな?」


「レベルが上がれば、多分レベル10になれば見えるようになると思います。」


「レベル上げ、本気で考えた方がいいかな? 精霊が見える以外にも役に立つことが何かあるだろうし。すぐに、日本に帰れるとも思えないしね。」


「そうですね。仲間になってくれる獣人が見つかれば良いですね。」


「ところで、スピカ。さっき、初めて名前呼んでくれたね。」


「なにを言っているのですか、名前くらい呼びますよ。

 いままでその機会が無かっただけです。」


「そうなの?」


「そうです。」




 翌日。

 スピカに乗せてもらって出発した。

 時々、魔物に出くわすが、すべて、スピカが一撃で倒してしまう。


 神殿に行くときにリンゴの木の下で会った鹿も魔物だった。

 今回は襲ってきた。ビッグディアーキングというらしい。

 肉、毛皮、魔石を得た。

 僕が倒したわけではないのに、肉などが貯まってゆく。なんだか申し訳ない。


「問題ありません。街で肉を食べさせてもらいますから。」


 問題ないらしい。


 夕方になる前に川までたどり着いた。

 少し早いが、今日はここで泊ることになった。


 アイテムボックスに何が入っているのかが把握できていない。

 一度取り出して使ったものや、モンスターのドロップしたものは把握できているので、一気に収納したせいかもしれない。注目しないとちゃんと鑑定されないようだ。

 名前くらいしか分からない。

 少しづつ取り出して、全部把握しておいた方が良いだろう。

 大きなものは今のうちかもしれない。


 コテージと水上コテージを出してみた。

 とても豪華だった。どちらも二人用。


 テント類とキャンプで使えるキッチンセット(外用)など、

 キャンプ関係のものを出し入れしただけでぐったりしてしまった。

 後はまた今度だ。


 スピカはあまり興味無さそうに横で寝そべっていた。


 ふと気になり、アイテムボックスの中に調味料が無いか探してみるが、

 残念ながらなかった。


「スピカ。スピカは肉、生で食べるの?」


「何を言っているんですか。焼くに決まってます。」


「調味料は?」


「もちろん焼肉のたれです。塩コショウも捨てがたいです。」


 焼き肉のたれがあるのか。

 動物の姿をしているから、生や味付け無しかと思ったけど、

 人と同じ味覚のようだ。


「調味料が無いけど、肉、焼いて食べる?」


 スピカがものすごい勢いで立ち上がった。


「今すぐ焼いて食べましょう。」


 食べたがるとは思わなかった。予想外の食いつきである。


 一番小さなキャンプ用台所セットを出す。さて、


「何の肉にする。」


「全部だ。」


「・・・」


 言われた通りに、ミノタウロスキング、オークキング、ビッグベアキング、ビッグディアーキングの肉を出し、切り取って焼く。

 肉は、アイテムボックスの中に入れると部位ごとに分類される。とても便利だ。

 各魔物の肉から適当な部位を一つ選んで、スピカのために4枚のステーキを焼くことにする。自分用には、ミノタウロスのサーロインステーキを焼こう。


「焼けたよ。」


 一枚焼けたので皿にのせてスピカの前に置く。

 次の一枚を焼き始めるころにはもう食べ終わっていた。


 次々とスピカのために肉を焼いて、さらに乗せる。

 あっという間に皿の肉はスピカの胃袋へと消える。

 わんこそばかよ! と突っ込みを入れたくなるが我慢。

 スピカは知らないよね?


 僕が自分の分を焼いているのをじっと見ているスピカ。


「もう少し食べるかい?」


 まだ、食べたそうだったので聞いてみたが、


「いや、やめておきます。」


 遠慮だろうか? 自分で倒した魔物の肉なのに。


「自分で倒した魔物の肉なんだから、好きなだけ食べればいいのに。」


「いや、食べ過ぎは良くないのでやめておきます。」


 いまいち、スピカが大食いなのかそうでないのかが判断できずにいる僕。

 きっと、遠慮したわけではないだろう。

 肉が焼けたので僕も食べる。うまい。

 調味料なしでこんなに美味いとは。

 この世界は食べ物のおいしい世界なのだろうか?

 それとも、強い魔物の肉はおいしいのだろうか?


「すごくおいしい。もしかして、強い魔物の肉はおいしい?」


「そうですね。同じ種類の魔物だと、強い方がおいしいです。

 ミノタウロス、レッドミノタウロス、ブラックミノタウロス、

 ミノタウロスキングと美味しくなってゆきます。」


 スピカ、強くなっていくと言おうよ。

 まさか、スピカが食いしん坊だったとは。




 夜、眠ら始めたところで、てしてしとスピカにおでこを叩かれて起こされる。


「外に出てみてください。」


「どうしたの?」


「いいから、来てください。」


 訳も分からずに、テントの外へ出る。


 幻想的な風景が広がっていた。


 湖一面、見渡す限りに小さな青い光が明滅 していた。


 畔まで行くと、僕とスピカの周りにも光が。


 僕とスピカが青い光で照らされる。


「小さな水滴を水の精霊が魔法で光らせているのです。」


「もしかしてウンディーネが?」


「頑張って、と言っています。」


「そう…。」


「あなたを大切に思う人が応援しているのだから大丈夫、だそうです。」


「・・・」


 言葉が出てこなかった。黙ってうなづいた。


「ちょっと信じがたいくらいに愛されています。納得がいきません。

 ・・・またあなたにキスして去っていきましたよ。」

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