第10話 魔物に襲われた少女
今日から湖を離れ、川の下流へと進む。
順調にゆけば三日後の夕方には街道にぶつかるはずである。
出発して順調に進んでいたが、昼過ぎに魔物に出会った。
大きな牛が子牛を2頭つれて水を飲んでいる。
「魔物です。屠りますね。」
スピカはそう言ったが、子牛を殺すのは忍びない。
大きいけど大きなホルンスタインにしか見えない。
一応、聞いてみる。
「見逃すわけにはいかないかな?」
「魔物ですよ?」
「子連れの生き物を殺すのは抵抗があるんだ。攻撃してくるなら仕方ないけど。」
大きな牛は子牛を守るように僕らから隠し警戒している。
「この辺りは人が住んでいる地域から離れているので見逃しても問題は無いのですが・・・」
「問題がないなら・・・」
「肉が美味しいんです。あと、ミルクも。」
そっちか!
「肉はたくさんあるからあきらめて。ミルクは、ちょっと試してみよう。」
「何をするのですか?」
「まあ、見ていて。魔物もリンゴ食べるよね?」
「食べますよ? ビッグカウキングはおとなしいですが子連れなので、さすがに近づくと攻撃してくると思いますよ?」
スピカの忠告を聞きながら、
アイテムボックスからリンゴを取り出して牛に近づいて行く。
牛は警戒したまま僕を見ている。
あと5歩くらいで牛に触れるくらいまで近づき、
地面にリンゴを置いて2,3歩下がった。
しばらく待っていると牛がリンゴへ近づいてきた。
牛がリンゴを食べた。こちらを見る。
僕はもう1つリンゴを取り出して、牛へ近づいて行く。
牛は警戒しながらも、僕の手からリンゴを食べてくれた。
子牛も好奇心旺盛なようで、僕に近寄り匂いを嗅いでいる。
僕は親牛にリンゴを食べさせ続けた。
子牛は僕に興味を失い乳を飲み始めた。
「僕もミルクもらっていいかな?」
一応断ってからリンゴを3つ地面に置き、子牛の隣で乳しぼりを始めた。
うまくいったようだ。
ある程度、たぶん10リットルくらいミルクをもらって牛から離れた。
子牛たちはまだ乳を飲んでいる。
親牛はチラリと僕を見たが、何かに気が付いて、川の反対側、
森の奥のほうを見た。
「何か来ます。」
スピカも親牛と同じ方角を見ながら僕に言った。
大きな牛が現れた。
僕の隣で、親牛が大きな声で鳴いた。
「子牛を攻撃します。屠りますよ?」
スピカが現れた大きな牛へ向かい走ってゆく。
ある程度近づいたところで、雷魔法。
当然、一撃で倒してしまう。
肉、皮、魔石がドロップした。
まだ時間は早かったが、先に進むのはやめて牛の親子からある程度離れてテントを張った。
「今日も肉を食べましょう。さっきの牛の肉を焼いてください。」
「今日は牛だけにしていろいろな部位を食べようか?」
「いいですね。牛祭りです。」
近くに牛がいるけど気にしない事にする。
リブロース、サーロイン、シャトーブリアン、ランプ、イチボ。
5枚のステーキを焼く。
僕は、サーロインとシャトーブリアンにしてみよう。
美味しかった。パンとリンゴも食べたのでお腹がいっぱいだ。
スピカもご満悦である。テントの中でベッドに伸びている。
川を眺めながら、いくつか魔道具を出して確認してみる。
家電製品的な魔道具を中心にチェックした。
そして、暗くなったので眠りにつく。
少し進んだ距離が少なかったが本日も順調である。
翌朝、牛の鳴き声で起こされた。
テントから出ると、すぐそばまで近づいてきていた。
驚いたが、リンゴが欲しかったようである。
リンゴをあげて、また、ミルクをもらった。
昨日は飲まなかったので、今朝はミルクを飲んでみた。
美味い。濃厚でなんだか甘みを感じる。
スピカも欲しがったので、さらに注いで飲んでもらった。
ミルクを飲む姿に癒された。かわいいのである。
言ったら絶対に怒られるので黙っておく。
テントを収納して、牛の親子に別れを告げて出発した。
出発して3時間ほど、まだ9時頃である。
前方の森の中から何かが飛び出してきた。
いや、吹き飛ばされたのだ。あれは人だ。
「スピカ急いで!」
「わかりました。」
森の中から魔物が現れる前に、あの人のところまでたどり着かねば。
倒れている人にかなり近づき、血だらけの体と獣耳に気づいたところで、
森から魔物が現れた。
黒いミノタウロス、あれがブラックミノタウロスなのだろう。
「魔物をお願い!」
そう叫び、スピカから飛び降りて倒れている人のもとへ。
走りながら回復薬を出して口に含む。
体を少し起こして、口移しで回復薬を飲ませた。
少し体が光って、その後、規則正しく呼吸をし始めた。
ほっと息をつきスピカを見ると、魔物は倒し終わっていてすぐそこまで来ていた。
「助かりそうですね。」
「うん。間に合ってよかった。」
「それで、いつまで女の子の裸を見ているのですか?」
「うわっ!」
夢中で気が付かなかった。
戦っている最中に防具が破壊されたのだろうか?
服も全く着ていないとはどういう事だろう?
あわてて、来ていたマントを掛けた。
着るものはこれしか持っていないのだ。
「多分、爪でひっかかれたときに防具が壊れたのでしょう。」
「テントを出して寝かせよう。」
「そうですね。」
テントを出して、少女を運び入れる。
布団に寝かせた後、僕の着ていたコートを抜き取った。
これがないと、僕はパンツ一丁である。
目覚めたときにパンツ一丁の男が見守っていたら、この子が怖がるだろう。
裸で寝ることになるが仕方がない。これが、ベストのはずだ。
「血だらけだったけど、キレイにする魔法はない?」
「あります。私は浄化魔法を使えます。」
「お願いできる?」
「はい。あなたも汚れたので浄化しましょう。」
「ありがとう。」
スピカが浄化魔法をかけてくれた。
「目が覚めるまで待つしかないね。」
「そうですね。回復薬を飲んだので、すぐに目が覚めると思いますよ。」
ワールドマップを取り出して索敵で確認してみる。
近くには人も魔物もいなかった。
眠っている少女の耳が時々ピクリと動く。
青みがかったグレー。
ロシアンブルーが確かこんな色の猫だったなと思う。
「耳に触らせてくれないかな?」
小さな声で呟いたのだが、スピカには聞こえたようだ。
「その子ですか? 私ですか? どちらもダメですよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます