第11話 リリエラ様からの手紙


 少女が目覚めるまで待つ間に、アイテムボックスの中をチェックしようと思ったのだが、ふと思い出してリリエラ様からメールが来ていないか確認する。


「あっ! スピカ、リリエラ様からメールが届いているよ。」


「本当ですか? 読んでみてください。」


 僕は、スピカにも聞かせるため声に出してメールを読んだ。


 リリエラ様からの手紙には、謝罪と現状の説明、そして帰還の方法について書かれていた。スピカには元気で何よりという事と、僕の事を頼むと言う伝言があった。


 まず、帰還に関して重要なことが一つ。日本に帰還すると、帰還先はこちらに転移した直後に帰還するらしい。つまり、こちらで過ごした時間分日本で消息不明にはならないようだ。

 時間はだいたい同じ速さで過ぎてゆくが多少のズレはあるらしい。


 そして今回の転移について重要なこと。

 今回の召喚は僕のクラスメイトが召喚されたという事だ。


 


 僕は休んでいたので、当然転移していないと思われたのだ。


 さらに、クラスメイト達だが、危険なことはさせないことになっているそうだ。

 前回の召喚は、やはり、戦国時代の人たちを召喚したらしく、彼らもこちらの方が豊かだから、また召喚しても問題ないだろうと言っていたそうだ。

 まさか五百年の間に豊かさが追い越されているとは思わなかったようだ。

 王様も、誰一人として欠けることなく日本に戻すと約束してくれたそうだ。


 とりあえず一安心である。

 そして、急いでリリアーナ王国を目指す必要もないようだ。


 帰還の方法については、当然、帰還の転移魔法を使える魔術師がリリアーナ王国にいる上に、クラスメートの中にも帰還魔法が使える人がいるらしい。

 後は、膨大な魔力だが、これはこれから集めなければならないらしい。

 魔力を貯める魔道具があり、主にクラスメイト達が自分たちで集めるようだ。

 おそらく、称号やスキルの関係で一般の人たちよりも強いのだろう。


 リリアーナ王国は隣国と戦争をしていて、その戦争に協力してもらうために僕らを召喚したらしい。手紙には、危険のない範囲でクラスメイトたちも協力すると書いてあった。

 普通の、国同士の戦争であれば、クラスメイトたちも中立を保ちそうだが、彼らが協力すると決めたという事は、隣国は何かしら問題のある国なのだろう。

 リリアーナ王国にはリリエラ様もいることだし。


 僕のアイテムボックスの中にも魔力を貯める魔道具があるから、魔力を貯めておいてほしいと書いてあった。

 魔石で魔力を貯められるらしい。

 人や魔物から直接魔力を吸い取ることはできないそうだ。


 僕の方は、スピカに協力してもらえば案外すぐに溜まりそうな気がする。





 少女の目が覚めた。起き上がろうとするのを押しとどめる。


「ストップ!」


 少女がビクッとして固まる。


「脅かしてごめん。でも、君、今服着ていないんだ。」


 少女は不安そうに僕を見上げて言った。


「助けてくれたのニャ?」


「そうだね。間に合ってよかったよ。ただ、実は僕も服はこのコートしか持っていないんだ。」


「ありがとうニャ。わかったニャ。」


 何はともあれ、まずは自己紹介だ。


「僕は、青井旭です。この世界とは別の世界からこの近くの湖に召喚されたんだ。」


「名前だけでよかったのではないですか? 仕方がないですね、私はスピカです。」


「召喚? しゃべったニャ? スピカ?」


 少女が混乱している、と思っていたら。さらにスピカが追い打ちをかけた。


「リリエラ様の神獣です。」


「神獣様ニャ!?」


 そう叫びながら少女はガバッと起き上がった。


「うわっ!」


 僕は、慌てて後ろを向いた。


「ニャーーーッ!」


 少女が慌てて掛け布団を体に巻き付ける。


 少し落ち着いた少女が自己紹介をする。


「私は猫人ねこびと族のアーニャですニャ。神獣様、助けてくれてありがとうございますニャ。」


「いいのですよ。私の事はスピカと呼んでください。」


「分かりましたニャ。スピカ様と呼びますニャ。」


 まずはアーニャの事から聞いてゆこう。


「アーニャ、まず、君のことを話してほしいのだけど。」


 僕がそう言うと、アーニャはうつむき加減になりながら、ぽつりぽつりと事情を話してくれた。


 戦闘奴隷であること。

 経験値分配のスキルを持っていたので、貴族に買われてレベル上げのためパーティーに入れられ冒険をしていたこと。

 欲をかいて少し強めの魔物と戦おうと森の奥まで入りすぎて、強すぎる魔物と遭遇し、アーニャをおとりにして貴族たちは逃げたそうだ。


「ご主人様のところに戻らないといけないニャ。」


「アーニャ、残念だけど・・・、残念なのかな? その貴族たちは魔物にやられて死んだと思うよ。君を助けた時、近くに人がいないことを確認しているんだ。」


「そうなのニャ? なら、あなたが新しいご主人になるニャ。」


 アーニャが僕を見てそう言った。貴族たちが死んだことや、僕の奴隷になることをアーニャがどう思っているのかは、声や表情からは読み取れなかった。


「アサヒ、よかったですね。経験値分配のスキルを持っているそうですよ。」


 スピカが僕に言う。


「アーニャはどうして奴隷になったの?」


「10歳のとき、村に奴隷狩りが来たニャ。」


「え! 村はどうなったの?」


「逆らわなければ大丈夫ニャ。私をいれて3人連れていかれたニャ。」


 僕の表情を見て、アーニャが安心させるように言う。

 少しだけほっとする。

 しかし、全然大丈夫ではない。

 何の罪もないのに攫われて奴隷にされたのだ。


「不当に奴隷にされたという事だね。だったら、奴隷からは解放されるのでは?」


「そうですね。獣人に対する差別のない地域に行けば何とかなるかもしれません。」


 僕の言葉にスピカが答えた。


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明日は閑話3話を公開です。

 

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