第17話 冒険者の第一歩


 冒険者ギルドに入ると、シリルさんとともに個室に通された。

 毎回個室に通されている。VIP待遇されているようで、少し恥ずかしい。

 髪も隠さないでいるので、注目もされている。きっと、ギルドマスターが言っていた通りに噂を流し始めたのだろう。

 視線は感じるが、悪意のようなものは感じない。


「まず、パーティーの結成だな。神獣様もパーティーメンバーとして登録できると思うのだがどうする?」


 これは驚いた。だが、スピカもメンバーにするメリットはあるのかな?


「私もメンバーに登録してください。」


「そうだな、どちらでもいいとは思うが、ドロップしたものがアサヒのアイテムボックスに収納されるはずだから拾い集める手間がはぶけるぞ。」


 ギルドマスターがそう言うと、さらに、イリスさんが付け足した。


「奴隷のアーニャさんのドロップもアサヒさんのアイテムボックスに収納されますよ。」


「独り占めですね。」


 スピカが酷いことを言う。

 ドロップはパーティーになってメンバーが増えたからと言って、量が増えるわけではない。均等に分配されるのである。

 僕のスキルで必ずレアドロップがあるからスピカもパーティーに入れた方が断然お得である。忘れていた。


「スキルの事で相談があるのですが。」


「何でしょう?」


 イリスさんが僕に聞く。


「実は、収集癖という称号を持っていて、所有というユニークスキルがあるんです。そのスキルのせいで武器や防具をアイテムボックスに収納すると僕の所有物になってしまって他の人が装備できなくなるんです。」


 ギルドマスターは少しの間考えてから言った。


「・・・なるほどな。まあ、アーニャの武器や防具は買えばよいだろう。」


 さらにイリスさんが質問してきた。


「売ることはできないのですか?」


「売るのもダメみたいです。」


「まあ、収集する訳だしね。」


 シリルさんが言った。確かに売ってしまえば集められない。


「武器、防具、魔道具以外は2つ目から売ることができるんですけど………」


 いや、別に集めたいわけではない。勝手に付いた称号なのだ。しょうがないではないか。


「それでですね、召喚されたときに得たユニークスキルが、アブソリュート・ゼロというのですが、どんな攻撃もダメージがゼロである代わりに、攻撃力もゼロで相手にダメージを与えられないんです。」


「「「なっ!」」」


 ギルドマスター、イリスさん、シリルさんの3人が絶句する。

 そう、収集しておいて武器、防具は僕が持っている意味が無い。

 称号、スキルの組み合わせが酷すぎるのだ。


「アーニャとパーティーが組めたのがせめてもの救いか。レベル10になれば装備はできるな。」


 ギルドマスターがそう言うと、スピカが身もふたもないことを言う。


「装備する意味はありませんけどね。」


「確かに装備してもしなくても同じですね。」


 イリスさんまで・・・


 気を取り直して、


「あと一つ、転移というスキルがあるのですが、まだあまり確認をしていないので、色々調べたいのですが・・・」


 僕がそう言うと、イリスさんが驚いて聞き返した。


「スキルですか? 転移の魔法ではなくて?」


「はい、ユニークスキルです。魔力は使わないみたいです。ただ、スピカと試したときは手をつなぐ程度では一緒に転移できなくて、抱き上げると一緒に転移できたんです。」


「なるほど、魔法の転移とは少し違うようですね。魔法の場合は魔法レベルが上がると一緒に転移できる人数が増えます。」


「なるほど。レベルがないようなので調べるしかないですね。」


「そうですね、スキルの場合は本人のレベルが上がるとスキルも強力になるものが多いですね。」


 イリスさんがそう説明してくれた。転移魔法もレアスキルなので持っている人はかなり少ないらしい。


「アーニャがいて本当によかったですね。」


「役に立ててよかったですニャ。」


 スピカとアーニャ。スピカは本当に遠慮がない。アーニャ、ありがとう。


「とにかく、パーティーを結成しよう。神獣様もメンバーに入れていいんだな?」


 ギルドマスターが冒険者パーティーの話に戻した。


「お願いします。」


「すまないな。私も加入できればよかったのだが、すでにパーティーに加入しているのだよ。」


 シリルさんが申し訳なさそうに言った。


「とんでもない。協力してもらえるだけでもありがたいです。」




 冒険者パーティーの登録が終わった。スピカも冒険者カードを作ってもらった。

 使役している魔物をパーティーメンバーにするときに使役している魔物用の冒険者カードがあるのだそうだ。


「では、何か依頼を受けてみるか? 何にする?」


 シリルさんが僕に尋ねる。


「薬草採取にしようと思います。薬草類を覚えたいので。後は、遭遇した魔物で経験値稼ぎですかね?」


 僕がそう答えると、シリルさんがニヤリと笑って言った。


「急いで、レベルを上げようとしないのはいいと思う。基本を覚えるのは重要だ。」


 薬草採取の依頼を受けていざ出発。


 街へ入ってきた南門ではなく西の門から町の外へ出る。

 西の門からつづく道は完全に冒険者用で、どこかの街へ続くわけではなく森へと続いている。森に着くまでは草原が広がっている。


 草原にはほとんど薬草が生えておらず、魔物もスライムと角ウサギくらいである。

 冒険者を目指す子供の練習場のような場所になっているそうだ。


 僕たちは草原を通り過ぎて森へと入った。


「これがフタバ草だ、回復薬の原料になる。」


 シリルさんが丁寧に教えてくれた。薬草類は収納しても大丈夫なので収納してゆく。収納した後一度取り出して鑑定でチェックする。

 一度鑑定でチェックすると見つけやすくなった。

 なんと、マップに表示することもできた。さらに、自分の目で探しても何故か目につくようになり見つけやすいのだ。


 フタバ草が回復薬、ミツバ草が中級回復薬、ヨツバ草が上級回復薬の原料。

 ニマイ草が魔力回復薬、サンマイ草、ヨンマイ草と中級、上級の魔力回復薬の原料。

 葉の形と枚数を覚えればよい。名前も安直で覚えやすい。

 花の咲かない植物だそうである。


 毒消し草、麻痺消し草、麻痺草、なども教えてもらった。

 毒のある草は種類が多いのでまた今度になった。


 昼になったので、草原まで戻り休憩する。

 午後はアーニャの剣の訓練をしてもらうので、腹ごしらえ。

 昨日のうちに買っておいた屋台の肉はさみパンをみんなで食べる。

 スピカも食べている。むしろ、一番食べているのがスピカだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る