第18話 御姫様抱っこ


 昼食後はアーニャの剣の訓練。

 まずは、魔物を相手にせず、シリルさんに基本的な構えや動きを教わる。

 あまり意味はないかもしれないが、僕も一緒に教わった。

 学校の体育の時間に剣道を少し習ったくらいである。

 もちろん剣の扱いは分からない。

 一応、自分のために練習用の木刀を用意しておいた。


 基本が終わり、アーニャがシリルさん相手に模擬戦形式で教わることになったので、転移で遠くまで行ってみることにした。

 遠くても魔力を消費しないか確かめるのだ。

 念のためスピカも一緒に転移することにした。


 草原にテントを張り、テントの中から転移する。

 剣の練習中の2人に断ってテントの中へ。

 神殿の裏のリンゴとパンの木のそばに転移する。


 無事転移できた。魔力も消費していない。


「もう、リンゴとパンが実っていますね。」


 スピカが木を見て言った。

 確かに、実をもいだあたりに新しい実が実っている。

 せっかくなので、手の届く範囲の実をもいで収納した。


 テントの中に転移で戻る。これも、問題なし。


 合流して、森の中へ、今度は魔物相手に剣の練習だ。

 この世界にも定番のゴブリンがいるそうだが、この辺りにはいないそうだ。

 この森では、大角おおつのウサギや大猪おおいのしし、ビッグディア、ビッグベアなどがいるらしい。

 ビッグベアは森の奥の方にしかいないらしいので、大角ウサギや大猪を狙う。

 魔物の見つけ方も学びたいので、ワールドマップは使わない。


 アーニャの訓練であるし、魔物を倒したときの経験値がダメージを与えた大きさに比例するので、シリルさんやスピカはピンチにならない限り手出しをしない。


 普通は、大角ウサギを1羽? 倒せばレベルが1から2へ上がるそうだが、経験値付与のスキルは経験値の半分を貰えるので、僕がレベルアップしたのは2羽目を倒したときだった。


 アーニャは大猪も問題なく倒し、訓練が終わるころには僕のレベルは4になっていた。

 ちなみに、大ウサギのドロップは大角ウサギの角と肉、大猪のドロップは大猪の牙と肉である。レアドロップはない。


 冒険者ギルドに薬草を納め報酬の大銅貨6枚をもらい、さらに大角ウサギの角、大猪の牙を買い取ってもらう。肉は売らない。

 角は大銅貨2枚、牙が大銅貨4枚で買取だった。肉は売らなかったがそれなりの量がドロップするので、大角ウサギも大猪も銀貨5枚になるそうだ。

 肉を売らないともうけが少ない。次からは売った方がいいかもしれない。

 とはいえ、銀貨7枚ほどになった。7万円である。1日の稼ぎとしては十分ではないだろうか?



 翌日もシリルさんと共に森へ、アーニャは魔物と戦いながら、僕とスピカは薬草を探しながら森を歩く。シリルさんはアーニャの戦闘後にアドバイスをしてくれた。


 昼食までに僕のレベルが1上がり、レベルが5になった。

 神殿で手に入れた武器や防具はレベル10にならないと装備できないが、武器や防具の多くはレベル5から装備できるものもあるらしい。

 これで、防具が装備できるわけだ。もちろん、武器・防具屋にはレベル1でも装備できるものが売っていたが、それらは普通の服より少しマシなだけらしい。


 まあ、防具が装備できても僕にはあまり意味がないわけだけど、痛みを軽減してくれるかもしれない。ただ、魔法に耐性のある防具類はやはりレベル10からだそうである。せちがらい。


 やはり、レベル10を目指さねば。神殿の防具類を装備できるのはありがたいし、レベル10になれば精霊が見えるようになる可能性が高いそうだ。新しいスキルが得られる可能性もある。ダメージを与えることはできなくても、一撃で死ぬようなスキルや魔法なら効果がある可能性もある。即死魔法のようなものに期待しよう。

 



 昼食後、アーニャと転移を試す。

 周りに人がいないので、まずは30メートルくらい離れた場所に転移してみることにする。


 まず、手をつないで転移してみたがやはりそれではダメだった。


「どうしようかな? スピカの時みたいに抱き上げるか?」


 おんぶだと胸が当たるし、顔が近い。案外お姫様抱っこの方が恥ずかしくないことに気が付いた。レベルが5になっているので、アーニャを抱き上げるくらいは全く問題ない。


「・・・わかりましたニャ。」


 アーニャは恥ずかしそうである。


「アーニャ、僕に触られるのは嫌かもしれないけど、これはいざという時に逃げるためには必要なことだから。」


「別に、嫌じゃないですニャ。恥ずかしいだけですニャ。」


 アーニャが赤くなってそれを隠すようにうつむいた。


「触られるのは嫌ではないと思いますよ。アーニャも私みたいにブラッシングしてほしいと呟いていましたから。アーニャにも髪をブラッシングしてあげたらどうですか?」


 スピカがとんでもないことを暴露した。


「ニャッ! 聞こえたですニャ? は、は、恥ずかしいですニャ。」


 アーニャがスピカの暴露に驚き、より一層恥ずかしがって手で顔を覆った。


「善処しよう。」


 僕はまじめな顔をして言った。僕が動揺してはいけない。


「さて、試してみよう。アーニャ、行くよ?」


「はいですニャ。」


 アーニャは手で顔を覆ったまま答える。

 僕は、アーニャの背中と膝の裏に手をまわして、彼女を抱き上げた。

 ステータスが上がったおかげで、とても軽く感じた。


「転移。」


 アーニャにもわかるように、あえて声に出して転移した。


「うまくいったよ。」


 アーニャに声を掛けると顔から手を放して僕を見つめる。じっと見つめている。


「アーニャ、僕を見ても転移したことはわからないよ?」


 アーニャは我に返りあたりを見回す。


「ニャッ! 離れてますニャ!」


「今度は目を開けたままでいてみて。転移するよ? 転移。」


 転移で元の場所へ戻った。


「ニャーッ。」


 アーニャが驚きというより、喜んだ声をあげた。嬉しそうで何より。


「下すよ?」


 アーニャをそっと下す。肩甲骨の辺りに回されていたアーニャの腕が離れてゆくのが名残惜しい。するりとなでるように離れていった。

 女の子をお姫様抱っこすることが案外心地よいという事を知った。


「今度は私を抱いたアーニャをアサヒが抱き上げて、3人いっぺんに転移できるか確かめましょう。」


 それはいい。珍しくスピカが良いことを言った。



 もちろん試した。

 転移できました。

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