第32話 パーティーを組む


 昼食後、本格的な行動開始の前にアーニャの村とエルフの村へ行き様子を確認した。さらにこれからの北部の動きについてもある程度伝えておく。




 さて、行動開始である。

 まず、イリスさん、シリルさん、セリカさんが僕たちの冒険者パーティーへ加入した。

 シリルさんは剣などでの護衛要員である。

 セリカさんは隠密や索敵などのスキルを持っている上、攻撃魔法も使えるので。

 そして、イリスさんである。

 驚いたことに、イリスさんは元冒険者だそうだ。

 それも、S級の冒険者である。


 S級の冒険者はとても人数が少なく、この国にも現役のS級冒険者は3人しかいないそうだ。

 ちなみに3人とも北部で活動していて、今回の件も協力しているそうだ。


 イリスさんは転移魔法が使える。それも魔法のレベルが53。


 転移魔法の使い手は少ない。

 そして、転移魔法のレベルが高い人はほとんどいない。

 魔法のレベルアップの条件は様々だが、転移魔法は魔物との戦闘で経験値を稼がなければならない。戦闘中に転移を使う必要はないが、転移を使う事も必要ではある。

 アイテムボックスとの組み合わせで、大きな商会で引っ張りだこなため、敢えて危険を冒してまでレベルを上げる人がいないのだ。

 つまり、転移魔法持ちの人はほとんど冒険者にはならないのだ。




「私はすでに冒険者をしていて、レベル50になったときに転移魔法を覚えたの。」


 テーブルの向かい側の席でイリスさんが言った。

 僕はイリスさんとルクサンの街へ転移して、街を歩いて帰ってきたところである。

 現在はリエラの屋敷である。


 実は北部では、かなり前から王家が動き出していた。

 もともと、かなりの数の諜報員が南部にもぐりこんでいて、その中にはレベルは低いが転移魔法を持つ者もいるのだ。

 イリスさんはルクサンへ転移できる諜報員の協力で、ルクサンにある諜報員の拠点の一つである宿屋に転移できるようになっていた。

 エルフのイリスさんは外を歩くと危険なので、諜報員と一緒に街に出て、貴族の屋敷を外から眺めてきた。

 その後、宿に戻りイリスさんと共に僕の転移のスキルでリエラの屋敷へ戻ったのだ。

 今は、ワールドマップでルクサンの貴族の屋敷の中の人の動きを索敵で監視しつつ、待ちの状態である。


「南部の地域にはイリスさんのような転移魔法を使える冒険者や諜報員はいないのですか?」


 南部の貴族たちも北部と同じような作戦を取るのではないかと疑問に思ったので質問してみた。


「南部は北部に比べて圧倒的に人材が乏しいの。」


 もともと北部に比べて人材が乏しかった上に、差別が酷くなり奴隷狩りをするようになった頃から、北部の諜報部員によって有力な人材を引き抜いていたそうだ。

 まあ、引き抜くといっても南部の奴隷狩りよろしく攫っていたそうである。


「王宮なんかだと、スキルを無効化する魔道具や魔法を無効化する魔道具を使って王の間や会議室を防御しているけど、南部ではそういった魔道具が使われていないの。」


 希少な魔道具ではあるらしいが、南部にそう言った有用な魔道具が南部に流れないようにいろいろと対策を練っていたらしい。

 特にスキル無効化の魔道具と魔法無効化の魔道具は非常に重要視されているので、この魔道具が作れる魔道具師は国に囲われているらしい。もちろん作り方は極秘である。


 ちなみに、この2つの魔道具は干渉しあうためどちらかの効果しか持たせられないので、スキルと魔法の両方を無効化する部屋を作ることはできないそうだ。

 現在研究中である。

 また、スキル無効化はユニークスキルに対しては効かないし、魔法無効化は上級魔法に対しては効かないらしい。

 さすがに万能ではないわけだ。


 転移魔法を使った鉄砲玉みたいな作戦は難しいようだ。

 転移魔法について詳しく説明を聞いたら、そもそも転移魔法をそういう目的で使うのは少しばかり難しそうだった。

 王様の前に転移してグサッと一刺し、という訳にはいかないのだ。




「ところで、アサヒさんはレベル10になって、新しいスキルか魔法を覚えたのでしょう? 転移や索敵は元からのスキルが進化したのでしょ?」


 できれば聞いてほしくないことを聞かれてしまった。そして、なんだかイリスさんの話し方が以前よりもフレンドリーになっている気がする。

 お酒付きの食事をしたからだろうか?


「まあ、新しいスキル覚えました。」


「お、どんなスキルだい? 」


 シリルさんが身を乗り出して尋ねてきた。セリカさんも興味津々の様子。


「言わないとだめですかね?」


「あら、秘密にしなければならないようなスキルなの?」


「おそらく。」


 イリスさんの質問に僕がそう答えると、スピカが言った。


「別に良いではないですか。案外この中から相手が見つかるかもしれなせんよ?」


「相手が見つかる? どういうことだい?」


 シリルさんが聞いた。


「スピカ様、それは無いですニャ・・・」


 アーニャはなんだか落ち込んでいる。

 アーニャは見なかったことにして、仕方がないので答えた。


「異世界結婚というスキルです。」


 僕は冒険者カードにスキルを表示して見せた。

 イリスさん、シリルさん、セリカさんの3人が冒険者カードをのぞき込み、スキルの詳細を読んだ。


「アーニャがいるのであまり意味のないスキルですが・・・」


 僕がそう言うと、シリルさんがほほ笑んだ。そして、


「聞いたことのないスキルなので何とも言えませんが、スキルが進化すれば何か役立つスキルになるかもしれませんよ。それに、私は強いですよ。私と結婚すれば早くレベルが上がりますよ?」


 そう言って、チラリとアーニャを見た。


「酷いですニャ。私はお払い箱ですニャ・・・」


「すみません。冗談です。それに、たとえ私と結婚したとしてもアサヒさんはあなたを見捨てたりはしないと思いますよ。」


 イリスさんの発言に落ち込んだアーニャ。真意は分からないがイリスさんは冗談で言ったようだ。


「しかし、アサヒとの結婚は魅力的だな。私も強いぞ? 候補に入れておいてくれ。」


「あ、私もお願いします。」


 シリルさんとセリカさんまで立候補してしまった。2人の様子からは本気で言っているようには見えないが、なんだか100パーセント冗談で言っているようにも聞こえない。


「よかったですね。よりどりみどりです。」


 スピカが空気の読めない発言をする。アーニャが酷く落ち込んでいるではないか。


「皆さん、僕の置かれている状況を知ってますよね? 最終的に元の世界に帰るので結婚はしませんよ。」


「あら、残念ですね。ねえ、アーニャさん?」


 イリスさんがアーニャに同意を求めた。


「はいですニャ。・・・ニャっ!?」


 落ち込んでいたアーニャは放心状態のまま答えて、我に返って自分の返事に気が付き、赤くなって照れている。


「アーニャをからかわないでください。それよりも、明日の確認をしましょう。」


 このままだとおかしな方向へ話が向かいそうな気がしたので、明日の作戦についての話をしておこうと考えたのだが、一刀両断だった。


「そうは言っても、ほとんどあなたとスピカ様頼みだし、最初の魔法さえ決まれば問題ないわよ。」



 さらに少し休んでから、作戦の下準備を済ませた。

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