第33話 南部の貴族一網打尽


 転移魔法も転移のスキルも一度行ったことがある場所にしか転移できない。

 だが、決定的な違いがあった。


 転移魔法はあらかじめ、転移先に魔法陣を描いておく必要がある。他人が描いた魔法陣でも良いのだが、他人が描いたものの場合は、一度その魔法陣に魔力を流しておく必要がある。


 それに対して、僕の転移のスキルは魔法陣を必要としない。

 ワールドマップで赤く塗りつぶされた場所へ転移できる。

 僕が言った場所が塗りつぶされる訳だが、塗りつぶされる範囲が僕の周り半径500メートルくらいである。結構広いのだ。


 魔法陣の上に転移できる事と、自分がいた場所の半径500メートルに転移できる事では大きな違いがある。




「スピカ、準備はいい?」


「はい。いつでもどうぞ。」


「ではいきますよ。」


 転移するメンバーと順に目を合わせて確認する。問題なし。


「では、転移。」


「スピカ!」


 僕がスピカの名を呼んだときには、すでにスピカの魔法で転移先にいた人が倒れるところだった。


「もう全員眠っていますよ。」


 部屋の中には30人の貴族たちが倒れている。

 さらに、入口に立っていた騎士2人もスピカの魔法で眠っている。


「じゃあ、戻るわよ。転移。」


 イリスさんが転移魔法を使い、僕たちは広い部屋に転移した。

 あらかじめ、リエラに用意した場所である。


 30人の貴族も一緒に転移して連れてきている。

 部屋で待ち構えていた人たちが、攫ってきた眠っている貴族たちに奴隷の腕輪を装着してゆく。


 後は待っていたギルドマスターのエドガーさん、キカさんや王都から来た国王軍の人達に任せて隣の部屋へ移動した。


「次は、レイピヌの街ですね。今、チャンスですけどどうします?」


 ワールドマップで索敵して南部最大の街であるレイピヌを治める貴族の屋敷を調べたら、ルクサンと同様に貴族たちが会議中のようで1つの部屋に集まっているようだった。

 立て続けに転移魔法が使えるのか心配だったので僕がそう聞くと、魔力回復薬を飲み干したイリスさんが答えた。


「大丈夫よ。転移して。」




 ルクサンの街と同様の作戦で、レイピヌの貴族を攫ってくる。

 さらに、南部の街を治める貴族たちを次々にリエラの街へと攫ってきた。


 身も蓋もない作戦である。

 僕がの転移のスキルで乗り込むと同時に、スピカの魔法で全員を眠らせて、イリスさんの転移魔法で攫ってくる。そして、攫ってきた貴族たちが眠っている間に奴隷の腕輪を装着するのだ。

 状態異常の魔法は毒や麻痺が主流で、睡眠の範囲魔法を使う魔導士はほぼいないそうである。よって、貴族たちも対策を練っていないのだ。全状態異常を防ぐ指輪などは伝説級のアイテムで王族が持っている程度である。

 僕のアイテムボックスには収納されているけれど。


 スピカが協力してよいことになったので、このような作戦が実行できてしまったのだ。

 もちろん、僕の転移のスキルの特殊性があってこそだし、イリスさんの転移魔法のレベルが高いことも必須である。




「ざっとこんな感じだ。後このとは任せてくれ。」


 ライカールの冒険者ギルドマスター、キカさんがこれから国王軍の作戦を説明してくれた。


 リエラにある屋敷で、僕達の冒険者パーティとキカさん、エドガーさん、ケイシャさんの合計9名でテーブルを囲んでいる。


「僕たちは協力しなくてよいのですか?」


 まだ協力できることがあるのではないかと聞いてみたが、キカさんの答えはノーだった。


「いや、協力の必要はない。すでに十分に協力してもらった。」


「南部の主要な貴族はすべて押さえましたから、もう上に立って指示が出せる者がいませんよ。」


 イリスさんが説明してくれた。


「先ほど説明した、こちらの要求が受け入れられて、反乱は未然に防ぐことになると思います。もし、このまま反乱を起こすならもっと容赦のない方法を取ることになります。」


 この後、イリスさんが反乱が起こった場合の対策を説明してくれた。


 南部に潜入している諜報員の中には軍隊に入り込んだものも多数いる。

 奴隷部隊は一人の人族が5人の奴隷と冒険者パーティーを組んでいる。

 経験値付与のスキルを持っている場合を考えての事である。

 それはいいとして、この奴隷を率いているものを殺せば、5人の奴隷は一応自由になる。

 当然、奴隷部隊に配属され、奴隷を率いている諜報員もいるのだ。というか、かなりの人数の諜報員がこの部隊に入り込んでいるのだ。


「まあ、南部のやつらは考えが甘いのじゃよ。多少反乱がおきても抑え込めると考えておるのじゃからな。」


 エドガーさんが言った。あきれて話にならないといった様子である。


「そうだな。問題ないと思うが、最悪の場合はおぬしらに協力してもらって兵糧を奪う計画もある。南部の者達を飢えさせたいわけではないので、これは最終手段だ。まあ、心配せんでもこちらの要求が通るよ。あれだけの重要人物たちを押さえたのだからな。人質じゃ、人質。」


 キカさんが最悪の場合は、僕たちが協力する作戦があることを教えてくれた。さっき、協力の必要がないと言ったということは、かなり可能性が低いという事だろう。


「一応、出かけるにしても毎日この屋敷へ帰ってきてください。」


 最後にイリスさんがそう言った。

 遠くへ行ってもいいが、転移のスキルで毎日帰ってきてほしいという事である。


 この後、冒険者パーティーを解散した。

 再び、僕、スピカ、アーニャの3人である。

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