第34話 待つあいだに


 また、3人に戻ったので、スピカ、アーニャと次の方針を相談した。

 寝室に3人、僕はベッドの端に腰かけ、アーニャは僕のそばに立っている。

 スピカは僕の隣でベッドに寝そべっている。


「アーニャ、座って。」


 椅子を持ってきて座るように言ったつもりだったのだが、アーニャは僕の隣に腰かけた。少し近い。

 気にしない事にして、アーニャに尋ねた。


「アーニャ、次は君の家族を探そうと思うのだけどいいかな?」


「急がなくてもいいですニャ。しばらく待った方が良いですニャ。」


 アーニャがそう言うと、スピカもアーニャに賛成した。


「そうですね。南部の反乱がどうなるのか、しばらく様子を見た方が良いでしょう。戦は起きそうにないですから、獣人達の危険も少ないでしょう。」


 確かに、猫人族をワールドマップで探すことはできるけれど、個人の名前までは分からない。レベルは分かるのである程度は絞れるかもしれないが、探すとなるとしらみつぶしになるので大変そうである。

 その人のところまで転移できると楽なのだが、行ったことのない場所には行けない。諜報員に協力してもらうのもどうかと思ったので、アーニャの家族を探すのはもう少し先だ。


 予定では、獣人の奴隷達の多くは解放されるはずなので、順調にゆけばしばらくするとそれぞれの村へ帰るはずである。


「アーニャは何かやりたいことある?」


 しばらくはのんびりすることになりそうなので、アーニャに聞いてみた。


「レベルアップしたいですニャ。もうすぐレベル20になると思うですニャ。役に立つスキルを覚えるのですニャ。」


「レベル19まで上がったんだね。街をぶらついたりしなくていいの?」


 なんだか旅をしてばかりなので聞いてみたのだが、


「レベルを上げたいですニャ。」


 やはりレベル上げを優先したいようだ。確かに、何かスキルを覚えるかもしれないというのはワクワクする。


「じゃあ、まずはレベル上げをしようか。」


「はいですニャ。」


「あ、でも明日はちょっと買いたいものがあるから僕は買い物に行くけど、アーニャとスピカはどうする? 別行動でもいいよ?」


 答えの予想はついたが、一応聞いてみた。


「ご主人様について行きますニャ。」


「私もついて行きますよ。」


 予想通りだった。




「食器を買おうと思うんだ。」


 商店が立ち並ぶ一角へと向かっている。

 今回はケイシャ商会ではなく、食器や調理器具を扱っている店で購入する予定だ。


「神殿にあったもので十分ではありませんか?」


 スピカがそう尋ねたので答える。


「神殿にあった食器は6個セットのものしかなかったでしょ? 冒険者パーティーを意識して6個なのだと思うけど、高そうなものがほとんどだったし、安いものをたくさん持っていると便利だと思うんだ。」


『なるほど。他の冒険者パーティーに振る舞うときに必要ですね。』


 スピカは念話である。僕とアーニャにだけ聞こえるように話している。


「そう。あと、アーニャの村でもね。」


「ありがとうございますニャ。でも、家から持っていけばいいですニャ?」


 アーニャがお礼を言った後に小首をかしげて言った。


「そうだね。でも、種類が多いとたくさん持って来るの大変でしょ?」


「なるほどですニャ。」


 食器を売っている店へ入ったが、基本6個セットだった。

 結局食器はケイシャ商会で買う事になった。


 まあ、いいのだ。今回いろいろな商店が立ち並ぶ一角へ来た一番の目的は別にある。


「ここに入るよ。」


 一軒のお店の前で僕がそう言うと、アーニャは驚いていた。

 スピカはいつも通り。


 女性向けの小物が売っている店である。


「女性用の櫛ありますか? 髪を梳かす用の物でできるだけ良いものが欲しいのですが。」


「ニャ?」


「少々お待ちください。」


 店員の狸人族の女性はチラリとアーニャを見てから奥に引っ込んで櫛をいくつか持ってきた。


「こちらなどがおススメです。」


「では、それをお願いします。」


「かしこまりました。」


「ご、ご主人様、どういうことですニャ?」


 アーニャが我慢できずに質問してきた。


「スピカ用のブラシでアーニャの髪を梳くわけにはいかないでしょ?」


「わ、私の髪を梳くのですニャ?」


「大丈夫、姉や母の髪を梳いていたから結構得意なんだよ。」


「そう言う事ではないですニャ・・・」


「僕に髪を梳かれるのが嫌なら自分でやればいいだけだし。いままで、ほったらかしだったでしょ。きちんと髪の手入れしなきゃ。」


「嫌じゃないですニャ! 嫌じゃないけど・・・恥ずかしいですニャ。自分で・・・でも、せっかくニャので・・・いやでも、でもでもウニャニャニャ・・・」


 アーニャが照れておかしくなっている。そこまでの事ではないと思うのだけど?


『やってもらえばいいのです。私もブラッシングしてもらっているのですから問題ありません。』


「戦闘奴隷さんですか? 大切にされていて幸せですね?」


 店員さんがニコニコと微笑みながら話しかけてきた。

 獣人の女性から話しかけられたことでアーニャは少し落ち着いたようだ。


「はいですニャ。」


 人見知りだったアーニャもだいぶ人に慣れてきたようである。

 まだ、初対面の人族が相手だと少し硬くなってしまうが、獣人の場合は普通に対応できるようになった。屋台で買い物を続けた成果である。


 櫛を買ってから、ケイシャ商会で食器や大きな鍋を大量に購入して帰った。




 夜になり寝室へ、いつも通りスピカとアーニャが一緒である。


「せっかく買ったからブラッシングしよう。アーニャ、その椅子に座って。」


 そう言ったら、アーニャは真っ赤になってしまった。


「うううっ。分かりましたニャ。」


 そう言って、アーニャは椅子に腰かけた。

 櫛を買っているので、一応は覚悟ができていたらしく、アーニャはすんなりと椅子に座ってくれた。


 髪を梳かす。人の髪を梳かすのは久しぶりである。


「フニャ~」


 しばらくすると、アーニャがリラックスしてきた。


・・・・・


「アーニャ、終わったよ。」


 アーニャは椅子に座ったままぐったりとしている。


「力が入らないですニャ~」


「アサヒ、次は私です。」


 ベッドに寝そべったスピカが催促してきた。

 アーニャはしばらくそのままにしておくことにして、スピカをブラッシングする。


 なんとなく、寝る前に冒険者カードを見たらレベルアップもしていないのに新しい称号を覚えていた。


 なんだこれ?

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